立夏の恋模様4_死ノ宮 華蘭

「お待たせ致しました、お嬢様方。それではご注文の方をお伺い致しま__」
 仕事に戻った重が二人の女性客の接客をしている最中の事。
「おい姉ちゃん。これから俺と一緒にいいことしようぜ? 悪いようにはしねぇからよ」
「や、やめてください! ここはそういうお店じゃありません! 誰か助けて!」
 何やら騒ぎが起きている方を見ると、金髪のガラの悪そうなチンピラが優希の腕をつかんでナンパしている様子であった。
 優希は涙目になりながらチンピラの腕を解こうとするも、か細い女子の力では到底チンピラには敵いそうにない。
 流石にこの事態は喫茶店の従業員としても、何より幼馴染として放っておくことが出来なかった。
「お嬢様方、申し訳ございません。少し席を外します」
 重は女性客に断りを入れると、真っ先に幼馴染を助けに向かう。
「お客様、ここはそういうお店ではございませんのでどうかお引き取りを!」
 重はチンピラをキッと睨み付けると、優希の腕をつかむ奴の腕を握り、毅然とした態度で退店を促した。
「ああん? なんだてめぇ?」
「この店のしがない執事です」
「ハッ、そうかい。それが何だってんだ! 俺はただこの姉ちゃんに相手してもらおうと思ってただけだが」
「ですからここはそういうお店ではございません。そういうのがお望みであればキャバクラでも行ってどうぞ」
「あんだとてめぇ! 調子乗んじゃねえぞおらぁ!!」
 激昂したチンピラが重の顔面目掛け、もう片方の腕で拳を放った。
 しかし、重はそんなチンピラの拳を交わしたと同時に、強烈なストレートをチンピラの顔へと叩き込んだ。
「ぐはぁっ……てめぇ……だから調子に乗__痛だだだだだだだだだだだ‼」
 重は握ったままの、鼻血を出しながらこちらを睨む不良の腕に力を込めた。
「これ以上ここに居座って騒ぎを起こすというなら、次はこの程度では済まない。わかったらもう二度とこの店に来るな」
 絶対零度の視線を向け、重は死刑宣告のごとくチンピラに出禁を言い渡す。
「ち、畜生! こんな店もう二度と来るかあああああああああああああ!!」
 チンピラは優希の腕を放し、重から解放されると一目散に店から逃げ出した。

「よっ、かっこいいぜあんちゃん! よくやった!」
「執事さんかっこいい!」
「流石は旦那様! 嫁のピンチを颯爽と救うなんてかっけぇ!」
 チンピラが逃げた後、店内は重を称賛する声に沸き上がった。
「こ、怖かったよぉ重君! うわあああああああああああああああああん!!」
 余程怖かったのであろう。
 優希は顔を赤らめると大きな宝石の双眸から大粒の雫を浮かべ、暫くの間重の胸に顔を埋めて泣いていた。
(うう、やっぱこうしてみると可愛いんだよなぁ。うちの幼馴染は)
 周囲の称賛と泣きつく幼馴染を前に重は恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 なお、重はこの時知らなかった。
 先程接客を担当していた女性客たちが、重のことを異性を見るような熱っぽい視線で見つめていた事を。



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