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音色が印象的なジャズプレイヤーについて

この度はジャズプレイヤーの音色について書けというお題をある方から頂きまして、実は普段それ程意識していない所なのですが、頑張って書いてみたいと思います。

・ジャッキー・マクリーン

『What’s New』from “Swing, Swang, Swingin'”

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レフト・アローンみたいな暗〜いバラードが大嫌いで、マクリーンを聴いている時はいつもスキップするんだけど、メッセンジャーズ時代の『A Midnight Session with the Jazz Messengers』収録の『Mirage』は、同じマル・ウォルドロンの曲でも全然違うんだよな。音色も本当に奇跡の様に美しくて、サックスの音色はこんなにも美しいのか!と驚嘆した一曲です。でも、コレ前にも紹介したんで、今回は別の曲をあげとこう。
マクリーンはロングトーン一発で彼と判る個性の持ち主で、ここまでというのは中々いない。

・チャーリー・パーカー
『Ballade』with Coleman Hawkins from YouTube

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ロス・ラッセルが書いた本の冒頭にディーン・ベネッティがパーカーのアルトを吹こうとしたけど全く音が出なかったという話が出てきますが、まあ無茶苦茶なセッティングで吹いてたみたいですね。レイ・ヴォーンのギターを誰も弾けなかったみたいなマッチョ系エピソードです。
今では何となく普通に感じるあの音色ですが、この硬質な感じは当時唯一無二で下の世代に相当影響与えたことと思われ、マクリーンとかピッチのヤバさまで受け継いでいる気がします。僕もキングのサックスにメタルのマウスピース付けてますが、当然こんな音出ません。良いんです。カッコだけでも。
オールスター・セッションでベテランのプレイヤーと対比するとそのトガリ具合が鮮明ですが、ココではホーキンスとのバラードを。多分吹き替えのアテぶりですが音質も中々良い。

・ケニー・ドーハム
『It Could Happen To You』from “Inta Somethin'”

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モブレーやマクリーン、ブレイキー等との共演で大活躍のドーハムですが、実はマイルスの後釜としてパーカーのバンドに参加してるんですよね。ヴァーブ時代の結構音質の良い録音が残ってるんで聴いてみてください。マイルスみたいなノンビブラートなんだけど、もう、格段に上手くて「何このマイルス、急に上手くなってね?と思ったらドーハムだった〜、アチャー、マイルス…」みたいな気分になります。リー・モーガンやディジーみたいにブローしたりハイノート当てるタイプではなく、マイルス同様丁寧にフレーズを紡いでいく感じなんだけど、まあ上手い。コレはコピーしたくなる。熱いけどクールなサウンドです。
紹介するのはマクリーンとの双頭リーダーバンドでマクリーン抜きのカルテットでやったテイク。ライブ盤ですがブルー・ミッチェルの「I’ll Close My Eyes」に匹敵の超絶名演です。

・イリノイ・ジャケー
『C Jam Blues』from “Live At Schaffhausen, Switzerland”

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ジャケーの両親はルイジアナ出身のクリオールで、ジャケーが生まれて間もない頃にテキサスへ移住したらしい。所謂「Great Migration」時代、サッチモやマイルスの両親をはじめ本当に沢山のミュージシャン、そして後にミュージシャンの親となる黒人が、南部から北部へ移動しています。彼らは国内移民ですが、彼らをはじめとする移民、「余所者」がジャズに果たした貢献の大きさを思わずにはいられません。ジャケーはフランス人領主様とその奴隷の子孫なんで名前もそんな感じでJacquetです。
ジャケーの名前は学生時代にブルース系サークルの連中に教えてもらったのが最初だけど、テキサス・ホンク・テナーの元祖ですね。スクリーマーなロックンローラーです。でも、レスターの後釜としてカウント・ベイシーに加入したりしてるんで、ジャズも普通に上手いです。当然にバッパー。我々がコピーするのも全然有り。スティットのテナーにも相当影響を与えてるんじゃないかなぁ。
ここぞという所でダーティーなトーンでギャオーと一発キメる、大変イケイケでよろしい感じです。

・マイルス・デイヴィス
『Directions - 8/18/1970 - Tanglewood (Official)』from YouTube

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僕が聴くジャズは40年代〜50年代が中心なのでマイルスの評価はイマイチなんですよね。マイルスを聴きたくて聴くっていうのは無いですね。皆さんは有ります?良いアルバムとか良い曲は色々有ると思うんですが、1958とか。まあ、モードで一発当てていなければ、つーか、ハービー&トニーに出会えなければ、玄人好みのちょっと個性的なトランペッターぐらいで終わってたでしょうな。基本まわりを光らせることで自分も輝くタイプなんで、自分のバンド以外では殆ど演らない。んで、驚くほどワンホーンものが少ない。そしてモブレー&ケリーのコンビみたいにマイルス抜きで完結させた方が結果が良いのや、スティットみたいに懐に収まり切らないのだと輝き辛いんでしょう。世間の評価も下がる気がします。僕はそっちの方が好きなんですけどね。終いにはリーダーなのにバンドをクビになるみたいな。相当異質な人ですね。威圧すれば忖度してくれる子ばかりじゃ無いし、僕の好きなジャズにそういう能力、あんまり関係ないんだよな。
とは言いますが、70年代のマイルスは、まわりのメンツに全く関係なく一人で輝いていて、メチャメチャカッコ良いですよね。マイルスの絶頂期ですね。この冷たい音色で熱くバンドを牽引する感じ。スタジオ盤は実質テオ・マセロの作品と言われてる様ですが、ライブの最高振りを見れば本人もノリノリの絶好調という事が判ります。パーカーにテナーを吹かせていたバンドから変遷を重ねて、遂に集大成に辿り着いたマイルス。ここから10年ほど物凄い炎を燃やしてやがて燃え尽きる訳ですが、それも致し方ないテンションです。

・レイ・ブライアント
『Take The "A" Train』from “Solo Live In Tokyo”

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ガレスピーのピアニストという印象が強いレイ・ブライアントですが、皆さんも「Sonny Side Up」での分厚いプレイは印象に残っているかと思います。
この人の明るいあったかい味わいと、包み込む様な分厚さが大好きなんですが、ホントこの左手が堪りませんね。ソロピアノなんですがブギでやってます。
もちろんバップも上手いしソロも歌心抜群なんですが、それ以前に黒人ピアノって言う印象です。この左手がそう思わせるんだな。こう、場末の居酒屋に据え置きのアップライトピアノ1台で、恋を覚えたばかりの男女を踊らせるダンスナンバーから、修羅場をくぐってきた年寄りギャングを涙させる様なバラードまで、何でもやっちゃう凄腕感が有ります。そういう時代を感じさせるピアノです。
音色的には、え〜じゃあ、分厚いって事で。

・ハンプトン・ホーズ
『I Got Rhythm』 from “Hampton Hawes Trio”

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穐吉敏子の師匠格であり日本との縁も深いピアニストです。そういえば秋吉さんの20代の頃のアルバム聴いたことあるけど、パキッパキな所はやっぱ影響を感じさせますね。パキパキな音色。右手のバッパー。そんな気がします。ロサンゼルスの牧師の息子っつう事で、お寺に生まれた植木等とも共演してるらしい。朝鮮戦争で日本に来る前には、カマリロの精神病院を退院したウエスト・コースト時代のパーカーのバンドで弾いてたそうです。当時まだ20歳前ですよ!相当影響を受けた事でしょう。
朝鮮戦争といえばヒロポンのイメージが有りますが、この人もヘロイン中毒です。逮捕されたお陰で生き延びました。デクスターやペッパーと同じですね。当時のバッパー界隈のヘロイン汚染は相当深刻だったんですなあ。しかしバップの様な極度の集中力を必要とする音楽が覚醒剤やコカインじゃなくてヘロインっつのも興味深いですな。ここら辺にビ・バップの秘密がある様な気がします。(無い)
スタイル的にはパウエルをパキパキにした感じ的にウィキペディア先生はおっしゃってますが、そんな感じです。ピーターソンとは相互に影響を受けたっぽい。

・バーバラ・ロング
『When You're Smiling』from “Soul”

「Soul」、あまりジャズらしくないタイトルだ。ソウルというとすかさず僕が昔に友人と組んでいたオーティス・レディングのコピーバンドを思い出すが、ドラムがダチーチする事も無く、バーバラ・ロングは普通に気怠い系のジャズ・シンガーである。最初は「久しぶりにブッカー・アーヴィンでも聴いてみるか」という感じでブッカーがサイドマン参加している偶々目についたこのアルバムを試聴したのだが、一聴してバーバラ・ロングのファンになってしまった。
そもそも僕は矢野顕子や大瀧詠一の様にストロング系では無いシンガーが好きで、左記に加えて佐野元春などにハマる前の13〜14歳の頃は安全地帯やら松任谷由実を愛聴していたもんで、もう最初っから弱っちそうなウィスパーヴォイスが大好きなのである。男性ならケニー・ドーハムのヴォーカルとかホント大好き。
バーバラ・ロングは1932生まれ。シカゴでジョニー・グリフィンとかとやってたらしいがアルバムはコレ一枚ぐらいしか残ってない。本職は医者という説すらある、そもそもジャケ写の女性が本人なのかもいまいち定かでは無い謎シンガーであります。
因みにケニー・ドーハムは初リーダーアルバムで歌ってるブルースがとても好き。やっぱシカゴを歌ってる。アレンジは多分ジミー・ヒース。

・ローランド・カーク(ストリッチ限定)
『Dorthaan’s Walk』from “Boogie-Woogie String Along for Real”

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昔、どこかの記事でラサーンの吹いてる謎サックスをスペインだかどっかの民族楽器みたいに説明してるのを読み、容易く真に受けてましたが、んなワケなくて、長い方(ストリッチ)はBuescher社のストレート・アルトサックス、短い方(マンゼロ)はH. N. White社(キングじゃないらしい)のサクセロ(セミカーブド・ソプラノサックス)にメロフォンとか言うラッパのベルをくっ付けたモノらしい。ラサーン、アルトサックスの印象無いけど、実は吹くんですね。ストレート・アルトは今でも作っているメーカーはあるはずだけど、まあレアですね。ケニギャレが吹いてるの見たことあります。音色は曲がってるのに比べて硬い感じです。ラサーンは主に2、3本のサックスを咥えて吹くときに使う事が多い。真っ直ぐだと何本も首からぶら下げるのに邪魔にならんのでしょう。でもやっぱメイン楽器という感じはしない。ストリッチ単体の出番はソプラノより少ないです。音色はキングみたいにキラキラした明るい感じなんですが、真っ直ぐな分硬質な感じがしますね。ラサーンの楽器の中で1番尖った印象。リードも硬そう。この人、顔面筋が常人の5倍ぐらい有りそうだもんな。
『A Stritch in Time』というストリッチの為のワルツも素晴らしいんだけど、いつもの過ぎるんで遺作のコレを。このアルバムではパーシー・ヒースがチェロでブルースやってるのもあって、中々オモロい。

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真ん中がストリッチ。左のマンゼロ同様に何か(多分フレンチホルン)のベルがテープで貼り付けてある。

・ジュリアス・ワトキンス
『Friday the 13th』from “Thelonious Monk and Sonny Rollins” by Thelonious Monk

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ジミー・ヒースやダメロンのバンドでお馴染みのバップ・フレンチホルニストの第一人者のワトキンスさんですが、多分この人以外にバップ・フレンチホルニストはいません。リーダーアルバムもブルーノートから出してまして、コチラもモブレーやフランク・フォスターさんが素晴らしい演奏を聴かせていますんでぜひ聴いて欲しいんですが、ココは小規模編成でじっくりワトキンスのサウンドを堪能出来るこのトラックを。柔らかいちょっと幻想的ですらある不思議な音色ですね。モンクの世界観にバッチリはまってます。このラッパ、不思議な音だな?フリューゲルかな?と思っていた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。まあ、普通フレンチホルンとは思わねえよな。この人、サイドマン参加作品はいっぱい有るけど、アンサンブル要員で終わることも多いんですが、ココではテーマも控えめにほぼソリストとしてのみ参加ってところにモンクのセンスの尋常じゃなさを感じますね。

・ソニー・スティット(エレキサックス限定)
『Turn It On』 from “Turn It On!”

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家買ったばっかで金が無くてさ〜、フュージョンとか言うのが流行ってるっつうからやってみたけど全然売れなかったわ〜!、とか「The Hard Swing」かなんかのライナーノートで書いてあった気がするけど、やってることはビバップです。かな〜り頑張ったファンクの上で、バリトーンとか呼ばれていたピックアップユニットを使い、エラく歪んだ音色で頑張って、でもいつもの高速フレーズを連発しちゃってます(笑)。何気にメルヴィン・スパークスのギターがメチャメチャカッコイイんだよな。で、スティットはビバップです。イイですね〜。アルバム前半はラッパのヴァージル・ジョーンズを加えたオルガン・クインテットで、かなりエグい音色でファンクをやってますが、後半は一転してフツーにワンホーンのオルガンジャズ。相変わらず素晴らしいいんだけど、この突き抜けなさがフュージョンやりたくね〜っつう気持の表れぽい。
スティットはこの他にもバリトーンを使ったアルバムを残しており、「Turn It On!」の他にも絶好調な「Soul Electricity!」とか、かなりの名演連発(もちろんバップとして)なんだけど、ここまで頑張ってバキバキさせたのは無いんじゃないかな。












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