見出し画像

~整体師がやって来たこと⑳最終回~

17年という長い間、整体師をしていますが、それでも生まれた時から整体師だったわけじゃない。
整体師になる前はSEだったし大学生だったし高校生だったし中学生だったし小学生でした。
整体の学校を出たからといって、すぐに整体師になったという感じもなかったですよ。
17年かけて、お客さんが私を整体師にしてくれたんです。

誰だって初心者の時期はある

私が最初に勤めた整体院の院長は、私を採用してすぐに1店舗丸投げしました。ビックリしましたよ。でも私以上にお客さんがビックリしたでしょうね。そのお店は『受けのプロ』たちが多かったんです。
すぐばれました、あんた、初心者?って(≧▽≦)
学校を出たって現場では初心者です。学校ではどこも痛くもこってもいない人が練習台です。
お店には私しかいません。受けのプロたちは、げー、って言いながらも通う事はやめず、あんたしかいないんだから早くできるようになってよ、と身体を預けてくれました。
と、言うより千本ノック(≧▽≦)鬼教官でしたよ。
でもちゃんとお金を置いていってくれました。

1万人のスパルタ先生

鬼たちが山のようにやってくるお店で1人で対峙しなくてはいけません。
幸運だったのは、1対多数ではなく、1対1だったこと。
高校で理科全般の先生をしていたこともあるのですが、やっぱり1対多数だと独演会みたいになっちゃう。相手がどう思いどう感じたかを知るには授業の後、とっ捕まえないとわからない。でも全員なんて捕まえられない。
整体院は1対1のおかげで、それも50分という時間を貰って向き合えたので、これどうなの?とかあの後どうだった?とか聞くことができました。
聞かなくても言ってくる人たちでしたが。
もちろん文句も言われますが。
さらにはリクエストも多かった。
「右の首筋ばっかり60分やってよ」とか。
うつ伏せの相手の首筋に60分、床と平行に圧をかけ続ける、それも親指だけで、ってけっこう難しいんですよ。自分の関節をまっすぐに合わせないと、力で押すことになって、受け手は無駄に痛い。受けのプロは、この『無駄に痛い』を知っています。そうじゃない、後で痛くなった、とか言われるんですよ。また来るんだから。できるようにならざるを得ない。できるまで許してくれない。
お陰様で、できるようになったけど。

私も整体院で働くことが初めてだったので、どんな質問も自分が応えるものだと思っていたんですよね。
でもわからないことだらけ。
私が初心者なのはみんな知っていたので、「わからない。でも調べてくる」と言っていました。
「今すぐ結果を出せ」と迫ってくる人もいなかったし、「わからないんじゃダメだね」と三下り半を突き付ける人もいませんでした。
「他に行くよ」と縁を切る人もいなかった。
「あんたが育ってくれなきゃ困るのよ」と言ってくれてた。
私も必死でした。

「昨日鼻血が出たんだけど、なんで?」とかあったなぁ。
今思うと、それあたしに聞く?って感じだけど。
それでも考えて調べました。さらには聞き取り調査も。
何をした?何を食べた?何があった?って。
結局その人は鼻を強くかんで内側に傷ができて出血をしていたことが分かりました。
でも冗談で聞いたんじゃなくて、悪い病気かなと思ったんだって。
仕事柄、塗料やシンナーも扱っていたから。
私も相手の職業や環境に注意をするようになりました。

お店が変わっても、開業しても、どこにでもスパルタ先生はいました。
のべ1万人を超えています。
千本ノックじゃなかった。1万本ノックだった(≧▽≦)

恩なんて本人に返せるものじゃない

彼らはへたくそ相手に身体を貸してくれて、お菓子もパンも果物もくれて、お金も置いていってくれました。
なぜだろう、と思うほどに。

私がお店を持った時も、ずいぶん喜んでくれました。
俺たちの、あたしたちのおかげだな、とか言って。
そんな鬼教官たちも、もう何人も亡くなりました。

もう会ってお礼を言うことも、身体をほぐしてあげることもできないけれど、彼らが私にしてくれたことを、私も真似しようと思いました。

潜入捜査にでたときは、ちゃんとリクエストと感想を伝える。
新規にオープンしたお店にはできる限り協力をする。

私には支えて育てて協力してくれた人たちがいたからです。
おかげで一丁前になれました。
その人たちに返すことができないので、他の人に返しています。
ははは、あいつ、俺のあたしの真似してる、って笑ってるような気がするんですよね。

そんなことをベースにお話が産まれちゃった。

私が整体師となって、出会ってきたすべての人に、敬意を表します。





すごく喜びます(≧▽≦)きゃっ