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「あの人は結局、変わる気がないんです」は本当か

「内田さん、結局Aさん(部下)はね、変わる気がないんですよ」

ある現場で上司の方から言われたこのセリフが、今でも耳の奥に居ついている。
本当に、Aさんは変わる気がないんだろうか。

ここは「リモートワーク時代のマネジメントを考えるコミュニティ」ということになっている。なので、リモートワーク時代のマネジメントに最適な「やり方」をまず書くべきなのかもしれない。

でも、その前に、そもそもオフィスワークからリモートワークに変わるということは、何を意味するのかを考えたい。

僕らの予想以上に、働き方に大きな変化を伴うってことなんじゃないか。それこそ、今流行りの「ニューノーマル」が日常になる。望むと望まざるとに関わらず、変化を日常にせざるを得なくなる。でも、僕ら人間は変化をそう簡単には受け入れられない。変化とは、今までの安定していた状態を不安定な状態にするということだ。そこには怖れが生まれやすく、あらがいたくなる。
だからこそ、「変化に対する人間の傾向とは何か」という問いをまず先に考えたい。この問いに向き合わずに「やり方」だけを提示しても、きっと本質的な変化にはつながらないから。

■変わりたくないわけではなく、変えられたくない

変化に対する人間の傾向は大きく二つある。一つは、「変わりたくないわけではなく、変えられたくない」という傾向。

「変わる気がない」というレッテルを貼られた部下のAさんの中には、僕から見ると変わるためのタネがいくつもあった。でも、上司の方がAさんの変わるためのタネに気づいていない。そのタネを育てて花を咲かせようとするのではなく、無理矢理Aさんを変えようとして、それでも変わらないからあきらめかけているように見えた。

「変われ」と言っても人は変わらない。でも、変わりたくないわけじゃない。自分で変わりたいんだ。

じゃあ、それを前提としたときに上司としては何ができるんだろうか。「相手を変えよう」とするのではなく、「自分が変わる姿勢」を見せることだと思う。今まで以上に、部下の話に耳を傾ける姿勢に変わるとか、一緒に困る時間を増やすとか、方法はたくさんある。

組織開発の文脈でも、組織が変わる姿勢を最初に何で見せるかが大事だ。組織のトップが最初に「なぜ変わりたいのか」「どう変わりたいのか」を、思いを込めて発信すること。

そのあと、会社を良くしたいという思いの強い人たちを結びつけてチームにして、そのチームで変化の象徴事例をつくる。「どうせ変わらない」という現状維持バイアスを打破するには、変化の象徴事例のような「新しい事実」が必要なんだ。新しい事実を見たとき、人は「ひょっとして今回は違うかも」と感じ始めるから。

部下からすると上司が自らの姿勢を変えたことを感じると、自分も変わる必要があると気づく。変わることを強制された時には上手く変わるフリだけをして本気で変わろうとしなかった部下が、上司の本気の変化に触発されて自ら変わったケースを僕は現場で何度も見てきた。

「強制」には大人の対応ができる僕らも、「感化」にはなかなかあらがえずに子供のように本気スイッチを入れてしまう生き物なのかもしれない。

■分かってくれた、と思った相手を信頼し、その人に影響を受けて自ら変わろうとする

二つ目は、「分かってくれた、と思った相手を信頼し、その人に影響を受けて自ら変わろうとする」という傾向。逆に言うと、僕らは分かってくれようとしない人を本当の意味では信頼しない。信頼しないということは、チームになれないことを意味する。
じゃあ、この傾向に対して上司が大切にしたい姿勢は何か。

「部下に分からせようとするのではなく、部下を分かろうとする」ということだ。

部下が変わろうとしないのは、きっと、そうする理由があるから。その理由を上司が分かろうとする姿勢を持ち続けると、部下はそれに影響を受けて、言われなくても徐々に自ら変わろうとし始める。

■自分の口から出た言葉の比率を振り返ってみる

ここまで読んで、「理屈はなんとなく分かるけど、で、どうやったらできるの?」と思い始めているかもしれない。そこで、「相手を変えようとするのではなく自分が変わる姿勢を見せる」のと、「相手に分からせようとするのではなく相手を分かろうとする」という二つのポイントを実践するための具体的な方法を書く。

次回、部下と個別に時間をとってミーティングをする機会があったとき、終わってから一人で振り返りをしてみて欲しい。そのとき、ミーティングで自分の口から出た言葉の比率を振り返ってみる。「分からせようとする言葉:分かろうとする言葉」の比率。

現状は9:1で、ほとんど部下に分からせようとする言葉になってしまっていてもかまわない。まずは現状を認識することがとても大事。ミーティングを重ねるごとに、徐々に分かろうとする言葉の比率を上げていくことができれば、部下からの信頼度は確実に高まっていく。

相手を分かろうとする言葉の代表例は「質問」だ。

部下よりも自分の意見をたくさん話しているということは、部下に分からせようとしている可能性が高い。そうではなく、部下がどう考え、どう感じているのかに耳を澄ますための質問をすること。

これだけで部下は「あれ?いつもと違う。何だろう?」って、あなたの姿勢の変化を感じ取る。「上司が自分の話を聴こうとしてくれた。

自分を分かろうとしてくれた」と部下が感じると、そこに小さな感謝が芽生え、小さな信頼の高まりを生む。

それが続くと、大きな変化を生み出す。

(スコラ・コンサルト 内田拓)

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