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何も言わずにレジから2万円

20代の頃、数年勤めた会社を辞めて、しばらく海外をふらふらするという決断をした時の話。

その時勤めていた会社は、いわゆるブラック企業で、今では考えられないが、100連勤以上した事もあった。
筋や信念はあったが、それは黒い方向に向けられていて、私は友人と話していても、笑顔で真正面から仕事の話ができなかった。
この世の中は、弱肉強食だから、そういう一面があるのも分かる。ただ私には耐えられなかった。

結局自分には何が出来るのか、どんな事で世の中の役に立って対価を得て生活出来るのかが、20代中盤でも分からなくて、あまりにも働き過ぎた反動もあり、しばらく会社からは物理的に距離もある海外へ行くという選択をした。

私は、このような決断の経緯や今までの事を、大好きなモンゴルレストランで友達と話していた。
このモンゴルレストランは、海外旅行好きの仲間を集めて店を貸し切って、何度も旅行好きの人が集まる飲み会を開いた場所で、思い入れがあった。店長も、店を切り盛りしながら、私のこれからの決断の話を、何となく聞いてくれていた。

私と友達で色々と話していると、店長が、いきなり席に歩いて来て、私に2万円を渡した。
「これ、受け取って。」

店長は、レジのところでガサゴソしてレジからお金を抜いているのを私は見ていた。
「あなたが頑張ってる事を知ってる。絶対成功する。絶対大丈夫。」

私はものすごく驚いたととも、感動した。
「絶対大丈夫。」
何度も言っていた。

1万円ではなく、2万円。
封筒に入れて、事前に準備したお金ではない。今私の話をお店の中で聞きながら、思いついて、咄嗟に2万円。
自分に出せるだろうかと思う。
1万円なら、何となく漢気とか、格好が良いとか、そんな気持ちもあるのかなと少し思ったりする。でも、敢えてそこにさらに1万円足して2万円。

私と店長の今までの関係を認めてもらったような気もしたし、こんなにも応援してもらっている、という気持ちになった。2万円で、強くなれたような気がした。

私も、誰かの心に残るような人でありたい。
ピンチの時、口だけではなし、真正面から助けられる人でありたい。

そう思わせてくれた、あのレジからガサゴソ出された2万円は忘れない。気持ちで勝負、気持ちで応答だ。

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