鶴岡慧子監督インタビュー(後編)
第1回うえだ映画づくり教室の講師である鶴岡慧子監督にインタビュー!
後編では、いよいよ鶴岡さんの作品づくりのプロセスに迫りました。
映画完成までの期間や、キャラクターの組み立て方、発想をどこから得るかなど、かなり具体的なことまで、質問しました。
これから映画を撮りたい人や、映画だけでなく表現をするすべての人にとって、とても参考になる面白い話が詰まっていますので、ぜひ最後まで読んでください!
※本記事は上田市マルチメディア情報センター主催「うえだ映画づくり教室」の参加者に向けて共有した内容を、一般公開したものです。
仕事として映画を撮る
——映画を撮るときは、どんな流れで内容を考えるんですか?
鶴岡:ケースバイケースですが、基本的に企画を立てるのはプロデューサーですね。脚本などもプロデューサーの采配で動いていきます。
『バカ塗りの娘』の場合は、プロデューサーから「『ジャパン・ディグニティ』という本を読んでみてください」と言われました。読んでみると、若い女の子が職人になるというプロットがいいなと思いました。さらに、その時自分がやりたかったことや興味をもっていたことに挑戦できる題材だと思ったので、是非やりたいですとお返事して、お引き受けしたという流れです。
——そこからすぐ、脚本に着手したんですか?
鶴岡:今回はプロデューサーの方に「そろそろ鶴岡さんは脚本家さんと組んでみたほうがいいよ」とアドバイスをいただいたので、最初は脚本家さんに脚本を書いてもらっていました。わたしはプロットだけ書いて、それをお渡しするという形です。
でも コロナを挟んだこともあって、色々と予定が滞ってしまって、途中からはわたしが改稿をすすめることにしました。最終的には、ほとんどわたしが書いた脚本で撮っています。
改稿のたびに打ち合わせをして、ある程度の段階まできたら、そろそろ本格的に動きましょう、ということでキャスティングをします。キャスティングが進めば、スケジュールも自ずと決まっていきますね。
暗いトンネルを歩くような期間
——どのくらいの期間をかけて映画を完成させるのでしょうか。
鶴岡:『バカ塗りの娘』は、プロット期間もいれると4年ぐらいかかっています。2年以上書き直していますね。
——4年! 2年間ひとつの作品を書き直し続けるって、想像もつかないです。
鶴岡:脚本を改稿しているときって、書き続けることしかできないんですよ。それが本当に撮影までたどり着けるかはわからない。過去に、20稿くらいまでいって、「もうギブアップです」って頓挫した作品もひとつあります。
——ひえっ…
鶴岡:そうなんです、病みますよ(笑)。暗いトンネルをコツコツ歩いている感じです。
——最後までできあがらない場合もあるんですね。
鶴岡:ありますね。でも、考えているうちに自分の感覚にフィットしなくなってしまったら、撮れない。モチベーションを絶やさずに何年間も考え続けられる作品には、絶対に強度があるんです。
——完成までに長い時間がかかる場合、その間の収入というのはどうなるんですか?
鶴岡:監督料は振り込まれるのがずっと後、という場合もあります。なので以前は、企画がある時は映画をつくり、 普段はアルバイトをして生活をしていました。自分の頭の中がごちゃごちゃしてしまうから、映画とは全然関係ないところがいいと思って、図書館で働いていたんですよ。
苦労話ではないんですよ。とても楽しかったですし、わたしの糧になっています。一緒に働いていた方も応援してくれたので、嬉しかったですね。
——辞めたい、と思ったことはないんですか?
鶴岡:頼まれ仕事の中でも好きなことをやっている、というスタンスなので、まったく苦痛にならないんですよね。
そもそもわたしは映画監督になった実感がまるでないんです。ちゃんと覚悟を持てよって怒られるかもしれないけど「本当に映画監督になれたのかしら?」みたいな状態なんですよね。まだまだ全然足りない、もっとすごい人がたくさんいる、っていうプレッシャーがあるので、辞めたいって思っていられない。映画監督になったという実感は、この先もずっとないのかもしれないです。
一緒に組む人の力を借りる
——基本的に企画はプロデューサーとのことですが、プロデューサーがいない自主映画のような企画のときは、どこから作品の着想を得ることが多いですか?
鶴岡:プロデューサーがいない映画というのは、学生以来経験していないのですが、今脚本を書き始めたものはあります。きっかけは、知り合いの役者さんが「うちの地元で何か撮りませんか?」って言ってくれたことなんです。
自分から作品をつくろうというときは、そういうきっかけがあることが多いです。
——過去の作品もそういうきっかけがあったんですか?
鶴岡:例えば、大学院の修了制作の『あの電燈』っていう作品は、上田で撮ろう、と考えたのが最初でした。当時、信州上田フィルムコミッションにいらっしゃった原悟さんという方が、強い味方になってくださったんですよ。それが前提にあったので、信州上田フィルムコミッションさんありきで発想を広げていきました。
——協力してくださる方のイメージが先にあるんですね。
鶴岡:映画って実際問題、物理的な制限が常に付きまとうんですよ。だからこそ、「この人と組める!」っていうのがすごく大切で。『くじらのまち』だったら、 主人公を演じてくれた飛田桃子さんが水泳部だったので、「じゃあプールのシーンを撮ろう」なんていう風に考えていました。人の持ち味をどうやって生かそうかなって考えています。
「誰がやるか」でキャラクターが決まる
——わたしは鶴岡作品のキャラクターが本当に好きなんです。生身の人間という感じがしますよね。鶴岡さんは、どうやってキャラクターをつくっているんですか?
鶴岡:実は、あんまり綿密にキャラクターを練り上げてないんですよね。キャラクターの履歴書まで書いて、役者さんと共有してつくりあげるというような脚本家さんもいらっしゃいますが、わたしはそのあたり本当にいい加減なんです。すごくふわふわとつくっています。
——どんなプロセスで書いていくんでしょうか。
鶴岡:まずは、自分の感覚で書いてしまいます。たとえば『バカ塗りの娘』だったら、主人公の美也子は、機転が一切利かなくて、自分からぐいぐい足を踏み出すことができないキャラクターにしよう、ということは決めていました。今まで自分が会ってきた人をモデルにして、「あの人のこういう感じ」って具体的に思い浮かべる場合もあります。お兄ちゃんのキャラクターは、実際に会った人というより、イメージに近い芸能人のYouTubeを見て、見た目や喋り方、考え方などのヒントをもらいましたね。
——YouTubeでリサーチするんですか!意外です。
鶴岡:しますね。でも、本当にキャラクターが完成するのは、 役者さんがキャスティングされて、衣装が決まって、ヘアメイクが決まるとき。「誰がやるか」が見えた時に、キャラクターが決まってくるような気がしています。
知らない場所への興味と関心
——作品に対してテーマが課されていることが多いと思うのですが、鶴岡さん自身の興味関心はどんなところから見つけますか? やはり映画?
鶴岡:実は、映画から自分の作品に生かせるような興味を発見することは少ないんです。
それはもう、誰かがやっちゃってることなんで、興味関心自体は現実から発見していってるかなと思います。
——例えば、お休みの日なんかはどうやって過ごされていますか。
鶴岡:お休みの日はやっぱり映画に行っちゃうんですが、映画以外だと、知らないところに行くのが大好きです。 車でいろんなところに行っています。
誰にも気づかれていない、 人が気にも留めなさそうな場所を探すのが好きです。「こんなところにも建物があるの?」みたいな発見が楽しい。「あの道、なんだか怪しいな」とか思ったら入っていきたくなってしまうんです。
——作品が生まれる予感がしますね。
鶴岡:知らないところへ行くのは、本当に好きですね。
あとは、自分が行ったことのない土地で、そこにいる人たちと関わりながら撮ることには、もともとすごく興味があります。『バカ塗りの娘』を撮る以前、わたしは弘前に行ったことがなかったんですよ。そこで土着的なテーマをやろうというのは無謀な話なんですが、周りの方がすごく協力してくださって、迎え入れてくださったおかげで、成立させられました。弘前って、とても魅力的な場所なんですよ。
よく見る、ということ
——映画を撮りたい人へのアドバイスはありますか?
鶴岡:とにかく見る。よく見る、ってことですね。目を使って見るって、意外と難しい。見てるものより、 見落としているものの方が圧倒的に多いので、見ることの難しさを ちゃんと知って、意識的にちゃんと見る。それが映画をつくる人の基本です。見ることをおろそかにして撮ってると、誰でも撮れるものになっちゃうんです。 抽象化されたイメージになってしまう。見ることを意識したり、鍛えていったりした上で、何を撮るか。それが、その人らしさに繋がってくると思います。
——鶴岡さんのように映画監督になるには、どういうルートがあるんでしょうか。
鶴岡:まず、自分の経験でいうと、コンペに出して、デビュー作に結びつけていくというルートがあります。あとは広告系の会社とか、テレビ会社とかで、まず映像制作の経験を積んで、やりたいって言い続ければ、チャンスが来るかもしれない。企業に勤めてから映画を撮るっていう人もたくさんいらっしゃいますよね。
今現在、すでに大学で映画を学んでいるという人は、卒業制作に気合いをいれてください。卒業後のキャリアにつなげるんだ、社会に出たときの武器にするんだ、という気迫で撮ってください。
——最近は、あちこちに映像が溢れていますよね。街のあちこちで映像が流れているし、YouTubeにもすさまじい数の映像があると思うんです。その中でも、やはり鶴岡さんは「映画」なんでしょうか。
鶴岡:そうですね。わたしは、映画の面倒くささというか「ものすごい労力をかけて、何が起こるかもわかんないけど、やる!」みたいな不確かさが好きなんです。きっと、映画が性にあっているんだと思います。
鶴岡さんは、誰かと一緒にはたらくことを楽しみ、人や場所のもつ力を大切にしながら、作品をつくりあげているのだということは、うえだ映画づくり教室本番でも強く実感しました。あの温度や湿度を感じるような、鶴岡作品の唯一無二の空気は、こういった作品づくるからうまれているんですね。
鶴岡さんのみつけたもの、見ているものを、もっともっとスクリーンで観たい、という気持ちになりました。
今回参加者のみなさんと撮った短篇作品『かげぼうし』は、うえだ城下町映画祭でも観ることができます。みなさんでつくった作品がスクリーンでどう見えるのか、ぜひ確かめにいきましょう!
インタビュー・文責> TEAMMATE たえ
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