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弁護士とキャリコンでは話の進め方が違うと思った話


はじめに

こんにちは!弁護士兼キャリアコンサルタントのちーたらのパパです。

僕は、今、弁護士兼キャリアコンサルタントとして、弁護士(特に若手)の皆さんが自分らしいキャリアを歩めるように、また、法律事務所の組織そのものをより良い組織にすることで、そこで働く人がやりがいを感じられるように、サポートすることをミッションに掲げています(詳しい自己紹介はこちらをご覧いただけると嬉しいです。)。

最近、所内の弁護士と話をする中で、「あっ。弁護士とキャリコンでは話しのもっていき方が違うのかも」と感じたことがあったので、シェアしたいと思います。

きっかけとなった出来事

今回の記事のきっかけとなったのは、アソシエイト弁護士がパートナー弁護士に対し、対応に困っているケース(アソシエイト個人が受任しているケース)の進め方を相談するという場面に立ち会ったときのこととでした。

※ちなみに、一般に、
パートナー=経営者弁護士
アソシエイト=パートナー弁護士に雇用された弁護士
のことを指します。


少し脱線しますが、弁護士兼キャリアコンサルタントという特色をアピールして事務所の組織そのものに関する様々な取り組みを行っていると、自ずと各弁護士が抱えるクレーム処理的な仕事だったり、人事面でのいざこざ(弁護士・事務員とも)対応だったりいろいろな仕事が舞い込んできます。
これは果たして弁護士の仕事なのかと思ってしまう瞬間もありますが、マネジメント業務として得難い経験ですね。
パートナー弁護士=経営弁護士になると、やはり経営者としてこういう仕事はつきものになるんだなとしみじみ感じますし、こういう雑務的な仕事をやりたくないという人も結構いるだろうことを思うと、アソシエイト➡パートナーor独立という直線的なキャリアも考え物だなと思ってしまいますね。


さて、本題に戻ります。

僕としては、上記のアソシエイトとのMTGの前には、アソシエイトが何に困っているのかを丁寧に聞いた上で、解決の糸口を探っていくということを考えていたのですが、実際のアプローチはやや想定とは違ったものでした。

MTGは私より年次が上の弁護士が主導したのですが、そこでのやり取りは、概ね次のようなものでした。

アソシエイトから事案の概要の説明

パートナーからの(案件処理の見通しに基づいた)質問
↓↑(複数回繰り返し)
アソシエイトからの回答

パートナーによる方針の決定

上記の通り、パートナーが方針を示してくれたこともあり、MTG自体はスピーディに進み、解決の糸口も見えたように思います。
実際、困っていたアソシエイト自身も、「これで大丈夫そうです!」と、安心した様子でした。

他方で、僕個人としては、「本当にこれで解決したの?アソシエイト自身もすっきりしたの?」とやや疑問に感じてしまい、いろいろと考察してみた次第です。

キャリアコンサルタントのアプローチ

まず僕が違和感を感じた正体を探るべく、キャリアコンサルタントのアプローチを考えてみました。
※以下はあくまで僕の思うキャリコンとしてのスタンスを前提にした記述です。これが正しいというつもりは全くありませんのであしからずご了承ください。

キャリコンは、クライエント=相談者がどういった経験をしたのか、つまり、どういった出来事があったのか、それに対してどういう感情を抱いたのかといったことを問いかけることを通じて、自分自身のことを振り返ってもらう、そして、その中で、自分のありたい姿やそれを実現するための行動を見出すというアプローチを取るものだと僕は考えています。

そのため、カウンセリングの中で主に話をするのは相談者側であり、キャリコン側は、相談者の内省を深めるための問いかけをするという役割となります。

そうすると、必然、キャリコン側の投げかける質問についても、いわゆるオープンクエスチョン(下記参照)が主になります(もっとも、クローズドクエスチョンを使わないわけではありません)。

・オープンクエスチョン
「はい」「いいえ」などの限られた選択肢で答えるのではなく、回答者が答えを考えて回答する質問のこと
・クローズドクエスチョン
相手に回答の選択肢を与えて、そのなかから回答を選ばせる形の質問のこと

Chatwork株式会社HP

このようなキャリコンとしての姿勢を前提とすると、今回の件についても、事実経過がどうなっていたのか、その事実経過の中でどういった点で進みにくい・困っていると感じているのか、そして自分はどうしたいと考えているのかを、アソシエイトに語ってもらうということが必要ではないかと感じていました。

実際、僕自身、話を聞く中で、「今の話、どんなことがあったのかもっと聞きたい」、「今の発言ってどういう趣旨だったんだろう」などと感じた場面もありました。
でも、それが解消されることはなく、スルーされてしまったり、パートナーが必要と考える範囲での事実確認がなされた上で、方針が決定したことで、僕自身、「本当に事実関係を確認できたのだろうか」、「アソシエイトはこの方針に納得しているのだろうか」と、どこかモヤモヤした思いを抱いたのだろうと思います。

弁護士のアプローチ

他方で、弁護士としてのアプローチを考えてみます。

話を聴く姿勢

弁護士のアプローチも、基本的には、上記のアプローチと大きな差はないはずです。
事実関係を一番よく知っているのは依頼者ですし、事実関係が明確でないと適切な見解を述べることができないのは、弁護士であっても同じだからです(むしろ、事実認定という観点では、弁護士の方が上記のようなアプローチをとることがより重要といえるかもしれません。)。

その観点で、特にキャリコン資格を持っていない方であっても、依頼者との面談について傾聴を重視していると話す弁護士は多いですし、実際、依頼者の話をじっくり聞く弁護士も多いと信じたいところです(僕もそのような姿を目指しています)。

ただ、最近周りの弁護士の話の進め方を見ていると、弁護士は、より短い時間で答えを出そうとするからか、あるいは、自分が思う方向に話を持って行こうとするからか、相手の話をじっくり聞くことができていない(ひどいときには依頼者の話を遮ってしまう)部分があるように感じます。

その結果、依頼者との面談の場でも、話をするのは依頼者ではなく、弁護士が主となっているケースも相当数あるのではと感じます(この点は、僕自身、依頼者との面談を振り返った際に、こうなってしまうことがあると反省しているところです。)。

今回のMTGでも、本来の目的がアソシエイトの困っているケースを解決するという点にあったことからすれば、パートナーが方針を示してその通り対応するよう指示するということで良かったと思う反面、アソシエイト自身の考えを聞く場面が少なかったことで、アソシエイトの成長にはつながらないのではないかとも感じてしまいます。

話の進め方

また、弁護士は法律を駆使する仕事ですので、ある意味、答えが決まっているという側面があります。
というのも、法律上、要件事実という考え方があるのですが、これは、○○という事実がある場合に、○○という効果が発生する、例えば、契約を締結したという事実があるから、代金を支払えと請求する権利が発生するというような考え方です。

そのため、弁護士が依頼者の話を聞くにあたっては、この要件事実を前提に、自分の経験・見立てに基づいた質問をすることが多く、その結果、クローズドクエスチョンを多用する傾向があるように感じます。
もちろん、上記のような法律論を前提に事実関係を明確にするためにクローズドクエスチョンを使う必要があることは間違いありませんが、それを多用してしまったり、「○○〇(複数の事実を引用した上で)ということですね」と確認するような不適切な質問の仕方をしてしまうと、本当に依頼者の言いたかったことを聞き逃すことになってしまうのではないかと思います。

今回のMTGでも、アソシエイトの話を一通り聞いた後に、パートナーが「○○で、△△だから、□□になったということ?」というような質問をし、これにアソシエイトが「そうです」と答える場面が散見されました。
でも、このような長い文章で質問をすると、特にパートナーとアソシエイトという上下関係があることを踏まえれば、ちょっとした違いがあっても指摘しにくいだろうと思いますし、本当にアソシエイトの言いたかったことを聞くことができていたのだろうかと疑問に感じました。

僕の気づき

結局何が言いたかったのかまとまりがなくなってきましたが、僕個人としては、今回のMTGを受けて、弁護士という法律の専門家である以上、時にはクローズドクエスチョンなどを用いて事実関係を確認することは重視しつつ、やはり、原則としては、依頼者に自らの経験・思いを語ってもらい、それを受け止めた上で、解決策を探っていくというアプローチをとっていきたいと感じた出来事でした。

この点については、最近読んだアメリカの弁護士による『カウンセラーとしての弁護士:依頼者中心の面接技法』にも同様の趣旨のことが書かれていて(と僕は理解しました)、とても参考になりました。
同書では、依頼者中心の面接技法として、「弁護士の役割を、依頼者が満足と考える判断を自分でなすことを援助する」という弁護士の役割が紹介されているのですが、同書を読んで、僕の目指している弁護士像は、これに近いんだなという発見がありました。
詳細についてはまた改めて紹介したいと思っていますが、ご興味のある方はぜひ手に取ってみてください!

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