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知的障害がある人の「はたらく」

私は、現在、知的障害がある人を支援する仕事をしています。

障害がある人とは、自分の生活のほとんどを自分でしていて、車いすに乗って自力で車を運転し、会社に行って仕事をする人もいますが、私が支援をしてきている人の中には、食事もトイレも着替えもなにもかも、全部人の手を介さないとできない人もいます。

その人たちにも「はたらく」を提供してきて、「はたらく」は、どんな障害がある人でも大切な場や機会だろうと思っています。

1.知的障害がある人の施設とは

人は、はたらける時間には、限りがあります。その間に、はたらけることは、その人にとって生きがいになるなど、大切なことだと考えます。
また、はたらくことで、社会の一員として、人のためになったり、経済を動かすことの一助になる役割も大切だと考えています。

そして、障害者施設は、その人の「自立を支援する」ことに目的を置いているので、「人生の中で働ける時間を大切にする」ことは重視している施設が多く、全国たくさんの施設では、様々な働くための取り組みをしています。

障害者施設では「作業」という名目で、「はたらく」を提供し、そこで、得たお金は「工賃」として、ご本人に支払う仕組みがあります。
労働者ではなく、そこにいる人は「利用者」という立場の人たちです。
そして、「職員」が、様々な支援をする中で、作業の支援もします。

一般の方にはわかりにくいと思いますので、少し、事例を書いてみます。
(何年も前の事例もあります)

2.知的障害がある人の「はたらく」事例

(1)ある障害者施設では、手すき和紙を作る「作業」をしています。
Aさんは、いつも両手を握っていて、作業として指を動かすことは困難です。生活全般を職員が介助します。その人に「はたらく」ことができるのか?職員は「できること」を探します。
その人は座っていることができます。ですから、漉(す)いた紙の上に座っているという仕事を作りました。水を抜くためです。作業をすれば、他の利用者の人と同じように工賃が出ます。ちなみに、漉いた和紙は、販売されています。

(2)ある障害者施設では、ガラスを溶かしてペンダントを作ります。
その色を選ぶのは、全身性の障害があり、全部介助を受けているBさん。
職員と何色にするかを真剣に選んでいます。そして、この色と思った時に「あ~」と言うことができます。
この、色を決めるのがBさんの「作業」です。
そして、月の工賃支給日はとても楽しみで、大きな封筒に入った100円の「工賃」を手にしてき、にこやかに大きな口を開けて笑っています。
販売会で、お客さんが「きれいな色ね!」と買ってくださることをうれしく思っています。

(3)Cさんは縫物ができます。
施設に併設しているお店にいらっしゃるお客さんは、もう高齢になって縫物ができません。
「これ、かわいいわね!昔はよく作ったのよ!今は、目が見えなくなっちゃって作れないんだけどね。これちょうだい」
お客さんの喜ぶ声を工房で聞き取り、「喜んでもらえた」とうれしい気持ちになり、また作業にいそしみます。

(4)ある施設は、25個ずつ金具を数え、ビニル袋に入れる仕事をします。
知的障害がある人の中には数が数えられない人もいます。
ですから、25のマスに金具を並べることで、正確に袋に入れるわけです。
Dさんは、数が数えらませんが、マスに置くことができますので、この作業を何年も続けています。
この金具は、全国で家を建てる時に、常に使われるような建築部材です。

(5)ある有名デパートのクリスマス用オーナメントは、毎年違うサンタさんを売り出します。その色を塗るのは、知的や精神に障害がある人です。
売り出す前には広告に載り、何時から売り出すというアナウンスに行列ができます。その様子を伝えたところ、広告を見ながら、誇らしそうな表情のEさんです。

3.知的障害がある人の、ものごとに取り組む姿勢

さて、知的障害がある人にとっての「はたらく」とは、スピード重視や難しい仕事ではない場合が多くありますが、長いこと同じことが続けられるという強みがあり、下請け作業をたくさんこなすことができます。
逆に私たちであれば、そのような単純な仕事は飽きてしまって、不良を作る可能性があります。
そして、支援を受けながら、できることをするということで、商品ができる場合もあります。

怠けるとか、手を抜くとかのようなことはせずに、職員の指示通りにこなそうとします。様々な作業があり、実は皆さんがご存知の商品の一部であったり、日本経済の「縁の下の力持ち」的な作業もあります。

ある零細企業に一気に多くの仕事が入ってきたときに、その企業だけではできないと感じた社長さんが、近所にある私の施設に連絡をくださったことがあります。「うちは3人しかいないし、場所もないので、到底無理な仕事だ」ということで、私の施設の利用者55人を投入し、部材を大量に施設に運んでいただき、納期に間に合う仕事をしたこともあります。

4.傍を楽にするという「はたらく」

障害が重い人たちの中には、お金に変えられないような「はたらく」もあります。

つまり、「はたらく」には「働く」のほかに「傍を楽にする」があると思っています。知的障害がある人たちが、「傍にいる人たちを楽にする」ことは、実はとても多くの場面で見られます。

笑顔でにっこりされて、ほっこりすることはありませんか?
やさしさが、人の心をあたたかくすることもありますね。

知的障害がある子が生まれて家族が一つになったと言われる方も多くいらっしゃいますし、親御さんをいつまでも助けるお子さんもいます。

彼らは、やさしさがあふれていて、殺伐とした感情や誰かを蹴落とすような感情がある人は、ほとんど見かけません。誰かと比べて、自分のプライドを重視したりすることも、あまりありません。

知的障害がある人がいるだけで、雰囲気が明るくなり、業績が上がったという会社もあります。

そうです。彼らは人を繋げ、人の持つ感情を穏やかにし、その人たちの本来持つ力を表面に出していくことにも関与している気がします。もちろん、知的障害があるご本人は、戦略的にそうやっているわけではなく、素の持つ力で「傍を楽に」しているのです。

こう考えると、その人ひとりの生産性だけに着目するのではなく、その人がいる会社や家族や施設として、知的障害がある人の「はたらく」環境を用意していくことは、何かを生み出す力になると思います。

だからなのか、私自身は、彼らといることで、楽しい時間が流れます。
支援者である自分は、彼らが困っていることを解決するのが仕事ですが、彼らは彼らが関わった人の心を楽にする人であり、私ができないことを彼らが喜んでやってくれることもあり、どちらが支援されてるのか?と思うこともあります。

知的障害がある人は「傍を楽にする」という「はたらく」をしている人たちでもあり、知的障害があろうとなかろうと、傍を楽にすることができる人は、人から求められる「人財」になります。

5.知的障害がある人の関わったもので、経済は支えられている

彼らの業績を知らない人の方が多いと思います。
エンドユーザーも、まさか知的障害がある人が関わっている仕事だと思わない人もいるでしょう。

ヘッダー写真は、ボールペンの組み立てをしているところですが、ボールペンの組み立てや、電球の袋詰め、ご祝儀袋の袋いれ、ふせんの箱詰めなども知的障害がある人が関わっているのです。

知的障害がある人が描いた斬新な絵が、喫茶店などの壁をかざることもあります。その絵を見ながらコーヒーを飲んで、心癒されている人も多いのではないでしょうか?

衣料量販店や大規模テーマパークや自動車会社関連など、大手企業の裏方でも、知的障害がある人が活躍しています。大手企業さんは、特例子会社として障害がある人を雇っている事例もあります。

もちろん、障害がありますから、できないこともたくさんあります。
でも、何もできないのではありません。障害を取り除き、できることを社会の中で活かせるようにプロデュースするのは、私たち支援者です。

知的障害がある人がいなかったら、どんな社会になっているのか?を知らない人の方が多いと思います。

知的障害がある人たちが関わった商品や下請け作業を知っている私から見ると、社会が成り立つのか?とさえ思うのです。それくらい、社会の中で、重要な「はたらく」をしているのです。

今からでも、知的障害がある人たちの「はたらく」ことに関心を寄せていただけると、自分の生活に彼らが関わっているからこそ、便利だったり楽しかったり、おだやかな日常になっていることを知ることができます。

6.はたらくとは、自分の役割を感じること

もし、ご自身の日常の働き方に疲れたら、知的障害がある人の施設を覗いてみることをお勧めします。どんな日常を送っているか見ることは、あなた自身の存在にもエネルギーをいただけることでしょう。
そして、きっと、彼らは、あなたを癒すための「はたらく」をしてくれることでしょう。

だって、どんな人か知らなくても、あなたを受け入れてくれる人たちだからです。少しの時間、そこにいるだけで、あなたに変化が現れると思います。

「はたらく」とは、相手の困っているところに対して、自分ができることをすることですし、そのことで、自分の役割を感じることなのではないでしょうか?

あなたが困っていたら、誰かが、はたらいてくれます。
それは、あなただけが喜ぶだけではなく、その人が自分の役割を感じることになるでしょう。
だから、Win-Winです。

知的障害がある人は、見かえりを求めず行動をしますが、「傍を楽にしよう」とも考えていないかもしれません。そういうむずかしいことが、考えられない人もいますから。
でも、役割を持つことは彼らにとっても、喜びになっていますし、頼られたうれしさを自分自身のエネルギーにしているようです。

不思議と知的障害がある人のいる空間の空気は、暖かかくなります。
それはきっと、「傍を楽にしている」からだと思います。

「はたらく」とは、傍を楽にすること。
見返りを求めず、相手に自分ができることをすること。

それは、知的障害がある人が教えてくれました。

私は、今年還暦を迎えます。
もちろん、ここからも、はたらきます!
知的障害がある人に学ばせていただきます!
そして、傍にいる人が楽になるよう、自分ができることで、自分の役割を続けていこうと思います。

それが私にとって、ハッピーだから。










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