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怒った天王さま

昔、足崎村の本田という所に、太郎兵衛という人の良いおじいさんがいまし
た。ところが、太郎兵衛じいさまは鼻天狗が玉に瑕で、何かにつけて人前で自慢したり、いばりちらすので、だれからも嫌われていました。
ある日、太郎兵衛じいさまが沢田あたりの海岸を歩いていると、妙に光り輝く流木を見つけました。
「こんてに光る木は、今まで見だごだねえ」
太郎兵衛じいさまは、その木を大事に持ち帰ると、さっそく村の氏神さまに御神体として祭りました。それ以来、氏神さまは年々お盛りになり、三台の山車が繰り込むほど、村をあげてお祭りをするようになりました。鼻天狗の太郎兵衛じいさまは、ますます威張り散らすようになりました。
「氏神さまがこんてに、にぎやがになったな、おれがめっけできながらだ。おれのおかげなんだぞ」
お祭りでみんな楽しく酒を飲んでいる席で、太郎兵衛じいさまは例によって、またいばりはじめた。そばにいた村びとは機嫌をそこねて、一人また一人、こそこそと席を立って帰ってしまいました。
ところが、あくる日のことでした。太郎兵衛じいさまが氏神さまへ行ってみると、祠と氏神さまは消えてなくなっていたのです。太郎兵衛じいさまは、真っ青な顔をしてあちこちさがしました。けれども、氏神さまはどこにも見当たりません。そこへ村びとが通りかかって、おどおどしている太郎兵衛じいさまを見て、わけをたずねました。
「本田のじいさま聞いでねえのげ。村の衆の話だど、本田の氏神さま何だがしんねえが、西原ほんでんほんでんにしばらの方さ、うづってきっちまったど、村中大さわぎだ」
太郎兵衛じいさまがあまりいばってばかりいたので、氏神さまが人知れずこっそりと、よそへ移ってしまったのです。このことがあってから、太郎兵衛じいさまは心を改め、人前では決していばらなくなったということです。
この氏神さまとは、現在の深茂内にある素鵞神社のことで、もとは北根にあ
り、今でもそこを古天王さまとよんでいます。

市報かつた昭和61年12月10日号

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