壊滅前夜

 蒸した空気が装甲を撫でていた。
 ゆっくりと歩く三機の小隊にホバートラックからの通信が入り、その足を止めて身を屈める。18メートルの巨体が荒れ地の砂を巻き上げた。

「2時の方向に足音を確認。五機と思われます」

「機種は分かるか?」

 周辺マップを開きながら、情報を纏める。旧型が二機。現行機が二機。近接型が一機。これが隊長機だろうか?後方に控えているようだ。

「敵部隊の進路に渓谷有り。待ち伏せますか?」

「間に合うかは難しいラインだな。挟撃も無理だろう」

「なら背面からっスか?」

 少尉と曹長の言う通り、渓谷で後方からの攻撃ならば、数の不利は消えるだろう。装甲の厚さはこちらが上だが、接近戦となれば些細な差でしかない。

 こちらの装備を確認する。

 90ミリマシンガンに中型のシールドを装備した自機。同じく90ミリマシンガンと小型のシールドに、ミサイルランチャーを携帯した曹長。そして…

「少尉、狙撃は得意かね?」

「知っているでしょう?狙撃の成績はB+ですよ…おまけに今持ってるのは…」

「気にするな。今、得意になればいい」

 何をバカな…とぼやく少尉に狙撃ポイントを伝え、移動を開始する。さあ、ブルーリカオン隊の腕の見せ所だ。

「一つ目全機、渓谷に入りました。隊長、指示を」

 曹長にポイントを指示し、私は突撃を開始した。狼狽える敵機の群れに90ミリをばら蒔きながら、渓谷の入り口を駆け抜ける。その頭上にミサイルの煙が橋をかけた。渓谷の少し奥に着弾したミサイルは、砕けた岩を敵機の頭上に落とす。

「下敷きになったのは一騎だけです!」

「十分だ!」

 渓谷から飛び出した旧型が120ミリの銃口をこちらに向けた。そこに、空のミサイルランチャーを捨てて走ってきた曹長の銃撃が叩き込まれ、二機目を撃墜。続いて三機目を……

「隊長!上に!」

 近接型がバーニアを吹かし、渓谷の上に立って居た。マシンガンをこちらに向けながら、ヒートソードを構え、飛び降りようとするその瞬間!

「三機目撃墜。A+の狙撃だ。少尉」

近接型はコクピットを正面から撃ち抜かれていた。180ミリのキャノンが、索敵範囲のギリギリから狙っていたのだ。

「次からはせめてビームライフルを下さい…」

「贅沢は戦争が終わってから言ってください、上官どの~」

 ヒュンッッッと───

 軽口を叩きながら、渓谷の入り口からマシンガンを叩き込んでいた曹長の側を、180ミリの弾丸が通り抜け、四機目の左肩に着弾した。

「おっと、なんだって?曹長?」

「何でもないであります!少尉!」

 四機目も程なく撃墜し、五機目の足を破壊した所で、敵は投降した。完勝であった。生存者は3名。捕虜として基地に連れ帰ろう。
 道すがらの尋問では、敵はアジア方面に逃れようとしているそうだ。
 局面は近い。敵の本体を叩く先鋒に立つであろう誇りを胸に、我々は帰還した。
 ここを攻略し、アジアで確認されたという新型も撃墜してくれよう。そう言いながら祝杯を交わしたのだった。


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