【シチュエーション作文】今週の『金曜カワウショー』

作: 結友

〜しゃべるカワウソ、カワちゃんとの生活〜

 ああ、ここに連れて来たのが間違いだった!―荒れ狂う波の中。私は小さく、寒さに震える手をしっかりと握りしめていた。冷たい暗闇で、この子が迷子にならないように。私は心に誓う。死んでも離すものか。

 愛しのカワちゃんが人間の言葉を話すようになってから、事態は一変した。テレビを理解し、本を読むようになった彼の瞳は、その知性ゆえに濁り、悲しみを帯びはじめた。窓の外を見ては、ため息をつく。そんな毎日。その瞳はまるで、遠く離れた同胞に思いを馳せているようだった。数週間後、私は居ても立ってもいられなくなり、立ち上がった。

「私の可愛い、可愛いカワちゃん。一体何が、あなたをそんなに悲しませるのですか。私はあなたの言葉がわかる。けれど、カワちゃんよ。私は日に日に、あなたのことが理解できなくなっているのです。これぞ神が、我々に与えた愛の代償!あなたにかかった呪いを解くために、飼い主であるこの私に、一体何ができましょう!」カワちゃんは額にかかった前髪をかきあげながら、物憂げにつぶやいた。「海が、見たいな」。
 というわけで私は、この自由を求めてやまない少年と一緒に、大型クルーズ船に飛び乗った。食事や音楽、優雅なダンスを楽しみ、デッキへ。ついにカワちゃんは「海」を見た!広く輝く大西洋の上。私たちはすごい速度で、世界を旅していた。

「こんな感覚、初めてだ。ぼくたち、飛んでるよ」。その時、ドン!と音がした。激しく揺れる。船が氷山とぶつかったのだ!カワちゃんはその拍子に、船外へ投げ出されてしまった。私はとっさにカワちゃんの手をつまんだが、その手は小さく、とてつもなく短い。私は指にぐっと力を込めた。カワちゃんは、私が守る!

「もう、いいんだ。君だけでも助かってくれ。ぼくに海を見せてくれて、ありがと…う…」。

掴んでいたものの重みが消えた。カワちゃんは冷たい海の底へ、ゆっくりと、安らかに沈んでいく。
「カワちゃあああん!」

後ろのドアが開いた。私は涙をまき散らして振り返る。

「姉ちゃん、何してんの。カワちゃん洗うって言ったきり戻ってこんし、風呂場から変な曲流れて来くるし…ていうか、カワウソって泳げるよな」。

弟が扉を閉めた。「お、弟よ、ムード、ムード」。カワちゃんはすーいすいと、ちょっぴり眉をひそめて浴槽を泳ぎまわる。「前半は楽しかったけどさあ、後半の展開早すぎんか?」
「はいはい、参考にします。さてと、シャンプーしよっか」。

タイタニックごっこは、これにて終了。来週の金曜日はハリーポ「オッター」の放送を予定しております。

※結友は甘味地獄にこっそり改名しました

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