Cという男。1

僕が彼にあったのは、
うんと昔の学生時代の夢の中だ。

暑い孤島の海辺、
寝れるくらいの大きさの椅子に身体を預けて、
本を読む人物がいた。

彼は老人だった。

タキシードのような、
スーツのような姿をしながら、
何もなかった自分に問いかけをしてくる。

君はどんなヒトになりたい?
君は何を望んで歩く?

夢の中であると言うのに、
自分は間髪入れずに彼に叫んだ。

自分が幼い頃から観ている不思議な夢や、
得体の知らない映像を頭の中から出したいと。

理不尽な事柄や、
状況を自分で救えるようになりたいと

彼は日傘をこちらに傾けながら言う。

ならば、私を観ているといい。

君の到達地点は私だと、彼は言った。

彼は陽射しに眼を細めて、少し笑っていた。

上を見ると太陽のひかりが強くて、
けれど、雲ひとつない青空だった。

それから、長い長い時間、
何日も何日もかけて彼と話をした。

自分が観ているものを、
なかったことにするのではなく、
ゆっくり時間をかけて指に伝えていくのだと。

草や木はもちろん、無機物にさえ、
ある種の命と呼ばれるものがあるのだと。

景色の見方、描写の表現、
嫌悪するのではなく、とにかく観るのだと。

たくさんのことを伝えて貰った。

ある日、どしゃ降りの雨が降った。

青空には暗雲たちこめ、
空の少し下に黒い鎖が張り巡らされていた。

この風景こそが自分であると言われて、
女の子に振られ、あげく滑って転んだ話をした。

物凄く笑われたのだ。

クールを装っていながら、
その実無口なだけだったことを彼は指摘した。

なおかつ、相手が例え美人でも、
豊かな胸をもっていても、当然ながら、
自分が緊張している状態でアプローチをしても、
伝わりにくいこともあると。

いつもの自分を見せて居なければ、
人は惹かれないと。

君は元来、甘く頑固で駆け引きを知らない。

ならそれにプラスして、
素直さを前に出して、伝えることを練習しようと。
その時の彼は、
とてもイジワルなにやけ顔をしていたので、
初めて彼を呼んだ気がする。

Cと。

そうして月日をかけながら、
僕はモノを観ることに集中して、
今に至る。

彼と夢の中で会うと、
出会った時も、帰るときも、
決まってこういうのだ。

私の世界へようこそ。

と。

にやついた笑みを浮かべて。

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