雫は風に乗る。

雲の多い空の下に小さく陽の槍が伸びている。

風がぶわあと前と後ろから吹いて。

すーんとした大きな風の動きによって、

大きすぎる音も聞こえずに、

雲も風も各々に動いて、進んでいく。

晴れの日の今――――。


この世界はどこまで続いているんだろうか。


ずいぶんと小さな頃に、

そう、考えたことがあった。

青々とした空や、どんよりとした空に漂い流れている雲のように、

わたしの生も、同じように時間が流れていった。

ぐんぐんと進んだり、植物が成長する速度より遅くなったり、

様々だった。

雨が降っているとき、

雨粒は、空から地に降り注いでいて、

外に出ている人や他の動物や植物を、

濡らし潤し、じわりとも、するりとも、染みていく。

そんな中を、暗く沈んだ空のしたを、

なんとなく重くもどかしくなったわたしは、

ただ、冷たさと何かに浸ることで、

落ち着きたかったのかもしれない身体と心を、

動かすことなくジッと濡らした。

どうせなら、何もかも、

水かさが増すように、満タンに、

何も考えられなくなってしまえたらいいのにとも思いながら、

ただ、ひたすらに、澄んだ雨粒と黒雲に浸っていたときもあった。

数時間後、身体の感覚もなくなって、

涙なのか、空からの雫なのかも、わからなくなって、

やっと視界がぼやけてきた頃、

降り注いでいた雨が、

明かりをふっと消したかのように、

静まり止んだ。

自分の意識が雨粒に満たされることを望んでいたのか、

と言われれば決して、

そんなことはなかったのかもしれないけれど、

その時のわたしは多分雨に浸りたかったんだと思う。


雲に向かって雨は降らない。

同じように時の流れが進んでいく中で、

決定的に違うその事柄が、

なんだか羨ましくなった。

まるで、

水たまりに映り浮かぶ、太陽の陽のように。

それでも、思う存分濡れた身体を迎えてくれたのは、

やんわりと明るくなった空と、

ゆっくりと開いていった雲、

そして、温かい陽のひかりだった。

雲に向かって、雨は降らない。

けれど、今の空は、わたしを明るくさせてくれた。

今日もいい日だ、良い雲だと笑わせてくれたのだ。


そのことがきっかけだったかはわからないけれど、

時々、思い出したように雨降りの空に出て、

なんとなく、戻ってを繰り返したり、

繰り返さなかったりして、

雲のように、空のように、

同じ時間を過ごして。

雨上がりの今、

雲の多い空の下に小さく陽の槍が伸びている。

風がぶわあと前と後ろから吹いて。

草木の上に乗っていた雨粒は、

風に急かされて動き出す。

さわさわ、ざわざわ、

ビュウルリと。

太陽の陽が、

また強く照らし始めた頃に、

雲を眺めている誰かの、

ふわあとしたあくびを合図に、

そうして、雫は風に乗る。




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