I

いつまでも――いつまでも観ていたいと思った。

陽にきらめく彼女の姿を、

華に揺れる彼女の姿を。

砂にはしゃぐ彼女の姿を。

雪に驚く彼女の姿を。

あの日と同じように――。

僕と彼女が初めてあったのは、夕陽が妙に切なく感じた日だった。

朝から肌寒く、着込んだうえにカイロを何枚も貼り付けて外に出た。

家から長い階段を下ると耳には波音が、鼻には潮の匂いがやってきて、

この二つはどれだけ季節が変わっても変わる事なんてそうそうないんだと。

そんなふうに思っていた矢先、目に飛び込んできたのは、

寒い最中に砂浜から移動して海へ向かう一人の女の子の姿だった。

「ダメだああああああ!!」

聴こえると限らない場所から、僕はそう叫んで急いで階段を駆け下りていく。

チラりと僕の方をみた気がした

階段を降りきる数段前、勢いと焦りのせいなのか足を踏み外して尻もちをついた。

骨にグンッと痛みが沈んだ気がした。

そこから先、僕自身がどうやって、

海辺に辿り着いたのかは正直覚えていなくて。

気がはっきりとした時には、

眼の前にいた、あの階段越しにみた女の子がいよいよ海へと進んでいた。

僕は――――女の子の手を自分の方に引き寄せて。

女の子の手は冷たかった。

氷のように、冬の水のように。

砂が絡んだ足が少しだけ視界に入って。

女の子が苦しそうにそっぽを向いた。

胸をトントンと叩かれて、彼女と同じ方向を向くと。

そこには――空から海にささるような、

大きな黒い虹のようなものが視界いっぱいにみえていた。


「きれいだ――けれどこれは、くるしい。」





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