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「お金を出したい私」と「お金を出させたくない店員さん」の仁義なき戦い
先日、ある晴れた日の午後のこと。
「捨てようと思っていたけど、もし一円でも値が付くなら」
ということで、友人の「いらないもの」処分に付き合って、某リサイクルショップに行った。
友人が査定を依頼したのは季節モノの服数点と、相当昔のテニスラケット、そして古いギター。
服とテニスラケットは10分ほどで査定が終了したのだけれど、ギターだけなかなか査定が終わらない。どうやら楽器はかなり念入りに査定をするようだ。
最初の10分ほどで店内をざっくり散策していた私たちは、想定外の査定時間つぶしのために店内をもう一周することにした。すると、さっき見落としていたエリアにCDコーナーがあった。
今やサブスクの時代だが、昭和世代の私には今も「現役バリバリ」アイテムである。しかも、そこはCD「110円」コーナー。いわゆる「たたき売り」ゾーンだが、見方を変えれば「お宝探し」ゾーンともいえる。
誰もが知っているアーティストから、「ん?誰??」という人まで。時代を感じるモノもあれば、比較的新しいモノもある。お宝を追って昭和、平成、令和を行ったり来たりした結果、ギターの査定が終わるまでに、私は3枚のお宝CDを見つけた。
友人がギターとの別れを無事に済ませたのち、私はそのお宝たちを丁寧にレジに並べた。3枚なのでお会計は330円・・・のはずだったのだが、会計しようとしたその時に事件は起きた。
「こちらの商品はシングルですか?」
店員さんから、そう訊かれ、私は答えた。
「はい」と。
すると、店員さんが予期せぬ言葉をかけてきた。
「シングルだと半額になりますので、3枚で165円になります」
「・・・えっ!?」
思わず声が出てしまったがそういえば・・・棚の一部には「シングル55円」と書いてあった気がする。がしかし、私はすぐにその店員さんの言葉に対し、
「でも、110円のコーナーにありました」
そう答えた。
「でも、これシングルですよね?」
再度、店員さんが確認する。
「確かにシングルですけど、でも110円コーナーにありましたよ」
私は念押しした。
「シングルは55円なので・・・」
「いや、でも110円のところに・・・」
「でも、こちらはシングルですよね?」
「そうですけど、でも・・・」
どちらも一歩も引かない、まるでチキンレースである。
この場合───
「110円で売りたい店員さん」と「55円で買いたい私」なら話はわかる。
しかしその時、目の前で繰り広げられていたのは、
「55円で売りたい店員さん」と「110円で買いたい私」
お互いの立場を冷静に考えれば、なかなかシュールな光景である。少しでも高く売りたいはずの店員さんと、少しでも安く買いたいはずの私が、なぜかそれぞれ真逆の主張をしているのだから。
ただ、このまま押し問答を続けていても、お互いが疲弊するだけ。それに、お店のルールで考えれば「シングルは55円」なのだから、シングルCDを3枚165円で買うのが常識ある社会人だろう。まさに「郷に入っては郷に従え」だ。
しかも、アラフィフの私に対し、店員さんはおそらく20代の若者である。ここは大人として懐の広さと深さを示さなければならない。
渋々だが、私が折れた。
CD3枚はついに、165円で決着した。
お店を出てすぐに友人から
「まるおさん、どんだけいい人なの?」と言われたが、いい人でもなんでもない。私は3枚のCDが110円コーナーに置いてあったから、最後までそれを訴えていただけであって、いい人でもなんでもない。
私は「ズル」をしたくなかっただけであり、正直でいたいだけ。
たとえそれが僅かな金額でも。
いや僅かな金額だからこそ、そんな金額をズルするような人間にはなりたくなかったのかもしれない。その金額=自分のセコい人間性みたいに思ったのかもしれない。
ただ───
レジ前で店員さんと私の押し問答を見ていた友人には
「ここは私が・・・」
「いや、ダメですよ。ここは私が」
「いやいや、今日は私に奢らせて下さい」
「いやいやいや、今日は私が」
どちらが払うかで揉めている、一風変わった組み合わせの「レジ前あるある」を見ているようで面白かった、と言われ、鼻で笑われた。人間、必死であればあるほど、はた目には面白いのかもしれない。
店員さんとの熱いバトルを終えたのち、私は思った。
リサイクルショップというのは、売るときは少しでも高く売りたいし、買うときは少しでも安く買いたいと思うもの。しかし、安く買い取られるからこそ、安く売ることが出来るわけで、もし高く買い取れば、その分安く買うことは難しくなる。
売る側、買う側、双方の立場で考えると果たしてどちらがいいのか、悩ましいところだ。
ただ、本当にいらないものや捨てようと思っているものなら、リサイクルショップで売る方がいいことは間違いない。
それに、リサイクルショップでの売買というのは今回のような予期せぬドラマが生まれることもある。もし査定がすぐに終わっていたら、私が110円のCDコーナーを見ることはなかったし、だとしたらお宝に出会うこともなかった。
実際は、もともと165円だったものを165円で買ったにすぎないのかもしれないけれど、私はその浮いた165円で、そして友人はテニスラケットやギターを売ったお金で飲み物を買い、そして乾杯した。
リサイクルショップで売っているものは、誰かの思い出が詰まったモノであり、そして別の誰かの未来の思い出を作るモノ。
友人は、服やテニスラケットやギターとの思い出をそこへ遺し、明日からまた「新しい思い出」を作っていく。そして、友人が手放した服やテニスラケットやギターはきっと、別の誰かの思い出になっていくのだろう。
今度また、このリサイクルショップに来よう。誰かの思い出になるようなモノを携えて。
正直で誠実な店員さんがいるこのお店にまた来たい、そう思った。
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