花の記憶
横浜と東京を結ぶ、第三京浜と呼ばれる高速道路がある。
その真ん中あたり、春になると道路脇の大きな樹に白い花が咲いていた。
通るのは車でそこそこスピードが出ているから多分、モクレンでなくコブシだったかと思う程度で記憶は定かではない。
昔の話。
ずいぶん長く春先に通ることがなくなり他の季節にもそのあたりで目端にも樹そのものがもうないように思う。
だけれどいつだかふとした拍子に友人が第三京浜に咲く白い花が好きだったと言い出し、お互いに同じ頃に同じようにその花を楽しみにしていたと知って嬉しく思った。
あの道にあの山に毎年、決まって咲いてくれる花たちに力をもらう気持ちになる。
昨年は人の集まるのを避けるために丹精込めて育て上げた今が見頃の花をあえて切ったという切ない話をひとつならず聞いた。
この春は見る人も見せる人も穏やかに花を愛でられるひとときがおとずれますようにと願うばかり。
読んでいただきありがとうございます。 暮らしの中の一杯のお茶の時間のようになれたら…そんな気持ちで書いています。よろしくお願いいたします。