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小説

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note内で発表した短編小説をまとめています。今後増えていく予定です。
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#連載中

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第二回-

 ホテルの部屋で一息ついたあと、宇野は再び雨里の都市部へ繰り出した。目的は役場だった。パンフレットに記載されている人魚の版画を直に見たいと、宇野は思っていた。  役場に着くなり、宇野は名刺を差し出して、自分の身分と目的を告げた。 「へえー、リゾート会社の方ですか。それはどうも御苦労さまです。それでその版画ですがね、市役所の資料課の方で保管しておるようでして、この役場には無いのですよ」  役場の職員は宇野に対して警戒する様子もなく、鷹揚で朗らかな調子で対応した。役場には宇

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第三回-

 深い森に囲まれた誰もいない湖。  近くには舗装された車道が延びているが、往来する車の数が極端に少ないため、排気音や雑音が全くと言っていいほど聞こえてこない。  ただ静かな自然の環境音だけが木霊している湖の畔を歩きながら、宇野はこの静かな環境を壊してしまってはいけないのでは? といった感傷的な気分に次第になっていった。  湖畔を歩く宇野の目の前には広大な森が広がっている。  あの森の木々を切り倒してリゾート施設を建設する。  ・・・・・・それよりもこの大自然を活かすべき

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第四回-

「市役所の方?」  女が聞いた。  その声で、棒立ちで気の抜けた顔をしていた宇野は我に返った。女の方に向かって歩きながらおもむろに名刺入れを取り出し、中に入れておいた名刺の中から一番状態の良い物を選んで抜き出す。それを差し出しながら、 「いいえ。市役所からリゾート開発の依頼を受けて調査に来た、リゾート会社の者です」  宇野は咄嗟に、調査の一環としてやって来た態を装った。  女は名刺を受け取り、黙って文面を眺めている。 「青い鳥・・・・・・有名なトコですね。このサナト

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第五回-

 前回仕事で訪れた時とは違い、今回はレンタカーを借りて宇野は雨里に来ていた。目的の地――町外れの山腹にある、雨里唯一の墓地がある磯寺に向かって車を走らせている途中に寄ったコンビニの駐車場で、宇野はスマートフォンで万里奈の名刺にあったアドレスにアクセスし、彼女のホームページを覗いてみることにした。  MARINAと大きく表示されたトップ画面に、経歴やライブラリーなどの目次が並んでいる。ライブラリーをクリックすると、彼女が撮影した数々の写真が表示された。中には自分自身を被写体と