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仕事で俺のみぞおちが深くなりピーマンを食う

先週、ワクチン2回目接種日の前日という誤りでしかないタイミングでエニタイムフィットネスという24時間開いているジムに加入した。俺はランニングによるダイエットに励んでいるのだが朝は日焼けするから外で走りたくないという今どきの子みたいな気持ちがありルームランナーを使いたいのだ。それに外を走っていても人間と車しかいないがディズニープラスでLokiでワニを観ながら走るといつもより長く走れる。続きが気になるからだ。エニタイムは前も入っていたことがあるが違約金とかが無いのでわりかし嫌いではない。

また、どうせ月額払うならバーベルというやつを持ってみたいと思い、一度、死ぬほどビビりながらフリーウェイトのエリアに入ってみた。エリアと言ってもなんか黒っぽい床のとこに一歩足を踏み入れるだけなのだが、普段はマッチョがたくさんいてポケモンで言うとゴーリキーやカイリキーがたくさん歩いているサファリゾーンの草むらエリアみたいな感じなので手ぶらで入ると殺されそうな雰囲気がある。気圧が違う。
しかし早朝であればマッチョも大半が寝ているので早起きマッチョの視線を掻い潜り早起きガリメガネの俺はバーベルにそっと触れてみた。
バーベルと言っても重りはついていない。今日は怖いのでバー(棒のとこ)だけ持ち上げたりしてみて様子を見ることにした。と言ってもバーも結構重い。YouTubeで見た通りのやり方をやってみるが姿勢を維持するのが難しい。細マッチョへの道は険しい。そしてすごく緊張した。早起きマッチョはバーベルを上げながら「ンゴー!」と叫んだりしてはいたが舌打ちしたり唾を吐いてこなかった。マッチョの中には良いやつもいるのかもしれない。

朝ジムへ行くと1日が長く感じられる。朝ごはんが美味しく感じる。すると昼過ぎには眠くなり、仕事が手につかなくなる。しかしそんなことはお構いなしに上司は仕事を雑に振ってくる。俺は転職して1年経つが専門的な経験がまだ全然ないため今完全にチームのお荷物になっている。一切わけのわからない仕事を頼まれ、「いつまでにできる?」と聞かれ「何をするのかわかっていないのでいつまでにできるかわかりません」とは言えないので「今日中にやります!」と言ってこなせずクソでかいため息をつかれることを毎日繰り返している。「それは無理だからちゃんとやってね」と呆れた声で言われる。仕事が俺を嘘つきにしたのである。俺は本当は嘘のつけない、善良な人間なんだ。その度に俺は悔しくて泣きながら早寝早起きをしてバーベルを上げる。俺はまだフリーウェイトコーナーに3回しか入っていないが、今日みぞおちがとても痛いことに気づいた。最初はまたコーヒーの飲みすぎで胃を壊したのかと思ったが、おそらくこれは筋肉痛のようだ。

上司の無情なタスクアサインが俺のみぞおちを深くしていく。苛立ちや、失望や、苦痛や、悲しみを、全て引き受けた俺のみぞおち。それはいつか奈落の底のような、マリアナ海溝のような、何もかも光すら飲み込みそうな深淵(アビス)になるだろう。その前に仕事ができるマンになるかもしれない。できれば後者がいい。

じゃあ早起きして筋トレじゃなくて仕事をしろよという声が聞こえてきそうだがそんなにやる気があったら今怒られていないのだ。悲しい。甘いものが食いたい。俺は泣きながら何か甘くてカロリーがない食べ物でゼリーじゃないものを探しにキッチンへ向かう。そんなものは地球にはない。甘くてカロリーがない固形物は全てゼリーである。泣きながら俺はハナマサで買ってきたピーマンを見つける。泣きながらヘタのところに指を押し付け、眼球を潰すように押し込む。種ごとヘタを引き抜き、引き裂き、手で八つ裂きにする。ピーマンの破片はカンカンに熱せられたフライパンにぶち込まれ少量のオリーブオイルとともに醤油、鶏ガラスープのもと、にんにくパウダー、焼肉のたれ、めんつゆが気化していく中焼き付けられる。野菜!野菜だ。地球には野菜がある。根菜では駄目だ。カロリーがあるから。緑黄色野菜たるピーマンにはない。あるけど誤差だ。栄養はたっぷりある。野菜、野菜!!!惑星ベジータだ。

俺は涙を拭きながら火傷したピーマンを食う。ほのかに甘みがある。これはピーマンの甘みだ。焼肉のタレの砂糖では決してない。断言する。俺にはわかる。これは太陽を受けてピーマンが作り出した宇宙エネルギーの甘みだ。俺は噛みしめる。ピーマンが俺を抱きしめる。旬の野菜。緑色。自然を感じる。そうだ、なんてちっぽけな悩みなんだ…そう思いながら調べたがピーマンの旬は夏だ。旬ではない。だが美味いので良い。俺は明日もピーマンを買うつもりだ。




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