見出し画像

俺が昨今のAI絵師叩きを嫌う理由

AIイラストの話題でお絵描き界隈が騒がしい。すでに方々で語られていると思うので法令や倫理の観点からこれについて私見を述べるのはやめておく。単にムカついているというだけの話を今からする。
AIによるイラスト生成という行為やそれを積極的に行っている人物(AI絵師と呼ばれ始めているようだ)に対する否定的な声にもいろいろあるが、今回苦言を呈したいのは、

「AIによって描かれた絵は手抜きだ」
「AI絵師は絵師ではない」
「邪道だ」「味わいがない」

こうした考えに基づいてAI絵師を揶揄している層だ。
彼らを見ていると非常に嫌な思い出が蘇る。今から25年ぐらい前にデジタルでお絵描きをする人たちが「邪道だ」と揶揄された時のことだ。
あれとかぶるのだ。
俺が今回何より堪えたのはデジタルでお絵描きをしている者までもがAI絵師を白眼視している様子を観測した時だ。お前らアナログで描く作家からボロクソに言われた時の事忘れたんかいと。
(もっとも、当時まだ生まれていない20代とかが言うなら仕方ないとは思うんだけどさ・・・)

その昔、何があったか

25年前の話を続ける。
もともとそれよりも前からパソコンでお絵描きをする文化はあった。しかし当時は1画面で同時に使える色は16色(このあたりは環境により前後する)まで。この厳しい制約の中で、どれだけ表現の幅を持たせられるかを競う趣味の世界でもあり、その人口は少なかった。もちろん同人界隈においても。
ところが1990年代半ばからJPEG形式でのイラストの配布が増え始め、コンピューターの性能の向上によってフルカラーでお絵描きすることが珍しくなくなり始めた。この頃になるとアナログでイラストを描く人がちょくちょくデジタルのイラストに対して言及するようになった。
肯定的な意見の方が多かったが、否定的な意見も決して少なくなかったと記憶している。
ただ、否定的な意見は総じて感情的なものが多かったように思う。
「味わいが無い」というのはまだ良い方で、「邪道」だとか「こんなものを使うなんて作家を名乗らないで欲しい」という趣旨の罵倒すらあった。確かに存在していた。
当時、草の根BBSだったかインターネットの掲示板だったかはもう覚えていないが、俺はそうした声があるたびにデジタルで描く作家の擁護に回っ
た。若造なりに必死で。
しかしイラストの価値は手書きで時間をかけた物にこそ価値があり、デジタイズや時短は邪道だとする彼らに対して、表現活動においてデジタルを活用するのは選択肢の一つに過ぎず大事なのはそうした画材で何を表現するかだと考える俺の言葉はあまり響かなかった。

歴史は繰り返す

とはいえ俺の当時の危機感はすべて杞憂に終わり、その後デジタルお絵描きの世界は隆盛を極める事になり今に至る。
しかしここへ来て、かつて後ろ指をさされることもあったデジタル絵師がまさにあの時と同じ文脈で、AIでイラストを生成することを叩きに走っている構図を目の当たりにした。
自分でもClip Studio PaintやPhotoShopといった情報技術の結晶を駆使して時短を図り、作品を作っているはずなのにだ。
それなのに「時間もかけず一瞬で画像を生成している」という言い草で彼らをクリエイティブではないと断じる姿は俺からすればとても滑稽に映る。

どうやら人間がマウスや板タブのようなデジタイザを利用し、画面上のポインタがその動きと連動して描画される仕組みを利用したものこそが「お絵描き」と考えていそうな人たちが、そこそこ居るようなのだ。
彼らの中ではAIによる出力は反則であり、変形ツールや直線ツール、バケツツールといった一種の自動化処理を用いるのは反則では無いらしい。随分とムシの良い了見だ。
このあたりのバランス感覚がいまいちよくわからんのだが、むろん俺はそうは思わない。

筆を走らせれば「絵を描く」ということなのか

俺は紙に描こうがAIに出力させようが、それらは絵を通して行われる表現活動の一つであり、大差は無いと考える。
絵は必ずしも「手を動かして線を引き色を置き・・・」といった工程は必須ではないと思っている。そこはソフトウェアが全部やっても良い。
自分の頭の中にあるテーマを絵にする以上は、それがアナログであれデジタルであれトライアンドエラーの繰り返しになるだろう。
AIであればそれを最大限効果的に伝えるために手持ちの記号を厳選していくことになる。俺はこうした取捨選択とトライアンドエラーの過程そのものが創作の本質だと思っている。
結局は「絵心」のある奴がAI絵師の世界でも名前を売っていくことになるだろう。ペンを走らせて絵を描くことが出来るかどうかというのはスキルの話であり、このスキルの有無は「絵心」の有無とはあまり関係は無いと考える。
従来それは必須スキルであったが、今後は必ずしもそうでは無くなるはずだ。これは歓迎できる話ではあるまいか。

仲間を潰すな

アナログではうまく表現できなかった人がデジタルでは開花したように、手を動かしてペンを走らせる事が苦手な人でも絵を通じて自分の世界を表現できるようになる可能性がAIにはある。
そりゃ批判の一つや二つはあるだろう。でもそうした表現者としての仲間が増えることを問答無用の態度で叩き潰すような真似だけはどうかやめてもらいたい。
言いたいことはそんだけ。

ついでに

付け加えると、アニメやゲームの二次創作をしているデジタル作家がAI絵師を罵倒している構図は余計にイラッとくるものがある。
彼らの多くは権利者に無断で二次創作をアップロードしているはずで、中にはFANZAなどを使ってマネタイズしている者も居たりする。
俺はそれが必ずしも悪いとは言わない。
日本では権利者がおおむね二次創作を静観してくれているところが確かにあって、同人作家などがその懐の広さにうまく乗っかっている格好だ。そう理解している。
しかし、それならばせめてそうした二次創作を行っている者は、AIによって自分の作品が学習されたり、法に抵触しない範囲でアウトプットされる事について(たとえ認めずとも)理解のあるところを示してやれはしないだろうか。それぐらいの矜持みたいなものは持ってて欲しいね。

AIが出力した画像の悪用事例は知っている。でもだからと言って即AIは悪なんだ、規制を急げという態度も俺は好きではない。
もともとオタク界隈は「道具が悪いのではない。道具を扱う人間の問題だ。規制するべきではない」という論を採用する傾向が強いはずで、それがどうしてAIの事例になるとそうも駆け足で法規制を叫び出すのだろう。
俺はやはり法令違反とかモラルを欠いているというのは表向きの主張であり、特に絵描きの場合は他意があるような気がしてならない。まあ俺もイラストは描くのでそこは書かないけどさ。
いずれにせよ法規制とかは最終手段ぐらいに考えて、基本は現行法だけでなんとかする道を模索してほしいね。
おわり。じゃあね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?