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慧眼

「褒められることが好きではありません。だから褒めないでください」

忘れもしない。小学校4年生の新学期。コトミちゃんという子がそう自己紹介をした。

ヘンな子 と思った。

私は父親の転勤に伴って、小中高とふたつずつ行っている。履歴書を書くと入学と卒業が全部違う。この転校経験で得たもの。とりあえず初対面でも誰とでもうまく対応するスキルがある。(その代わり誰とも深くは付き合わない)

だから、コトミちゃんのそれはうまくない。
特段嫌われるとか虐められるではなかったけれど、誰とも連まない孤高の子だった。

その後私は転校しちゃうから、コトミちゃんがどんな青春時代を送り、どんな大人になったか知らない。名前を覚えているくらいだから、至って普通の子であった私に相当なインパクトを残した。

だけど今になって思う。
コトミちゃんは齢10歳にして世の中が見えてたんじゃないか。達観していたというよりも。綺麗事でウワベの世界とか、世の不条理とか、物事の本質とか。馬鹿な大人とか。ウソで虚構の世界とかとか。子供ながらにわかってしまっていた。
慧眼の持主だったんじゃないか。無邪気な子供の世界もまた、さぞかし生きにくかっただろう。

私は充分過ぎるほど大人になってから。コトミちゃんがいうところの「褒められることが好きではない」という表現で何を言わんとしていたのかが、わかった気がした。しらんけど。春になると思い出す。

世界中が敵だと感じたなら
選ばれたってことさ

Ub

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