芸術特別講座の感想を見て-02。日本人である事をポジティブに捉えること

全三学年からの感想が手元に届きました。書いてくれた皆さん、ありがとう。丁寧に目を通そうと思います。

と言っても、もう殆ど読みました。大変感激しています。僕が嬉しく読んだ感想、沢山あるのですが、一つは、自分が日本人である事をポジティブに受けとめてくれている記述が多かった事です。本校にはアジアからの留学生を含め、日本の国籍を持たない人もいますが、アジアの地を出自として持たない人はいない。今回は大きく「東洋と西洋」と括ったわけですが。

日頃、「だから日本(人)はダメなんだ」というような言い方をよく耳にします。我々の謙虚さの表れである部分もありますが、どこか、日本人はダメ、と言う表現をして安心してしまっているようなニュアンスを感じる事もかなり多い。このセンテンスに込められた想いの正確な分析は難しいですが、往々にしてこの様な文言が使われるとき、それを発している人は思考停止に陥っているようにな気がします。

今回の講座のテーマの一つは、東京音楽大学付属高等学校の生徒のみんなに「自分の頭で考える」人になって欲しい、と言う願いでした。自分に何が必要なのか、自分の強み、そして弱みはなんなのか。音楽家としてのシーンに繋げるならば、どんな曲をオーディションで弾けば、歌えば、自分の良さをアピールできるのか。自分がこれから学んで行くべき事はなんなのか。そう言う事を、自分の頭で考えられるようになって欲しい。

慶應義塾大学の塾長が、5月に発表した、「新型コロナウイルス感染症拡大にともなう緊急学生支援について」(https://bit.ly/3gBwWKS)には、以下の様な記述があります。

「慶應義塾の創立者である福澤諭吉は、封建制の名残で人々が上に寄りすがり、上からの指示や命令に従順で、主体的に行動する習慣を持たないことを憂い、学問を修め、世の中の流行に惑わされず、主体的に行動できる独立自尊の精神を持った市民の育成をめざしました。」

まさにこう言う事だと思います。今回は、音楽の演奏という、みんなにとって一番の関心事における「自己認識のきっかけ」を作りたかった。そこで草津音楽祭でのエピソードをお話しました。このエピソード、殆ど毎年お話してますが、その時の聴いていた皆さん(昨年まで、目の前で聞いてくれていた3年生達)の顔を見ていると、少なからずショックを受けていることがよくわかります。「耳が痛い」話ですね。

でも僕はあの60分の中で一応の道筋、希望への道筋までたどり着いて話を終え、次の話へ向かう勇気を持ってもらうことを希望しています。日本人の欠点を羅列して話を終えても仕方ない。日本人の美点を真っ直ぐ見て、それを正当に評価し、言うなれば愛すること。それはつまり自分を愛すること、自分を認めること、自分の限界を知って、だからこそ限界を拡張しようとあがくことに繋がって行くかも知れない。少なくとも僕はそうやって来ました。

感想の中で、日本人の欠点や癖を理解した上で、美点を活かし、またこれから日本人という存在について真摯な興味を持って音楽と向き合っていこうという姿勢を多く見る事が出来ました。これは、まさに僕が望んでいたことだし、なによりも嬉しい事、涙が出るほど嬉しい事です。

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