利益と社会的インパクトを統合しようとする試み「インパクト加重会計」
チャーリーです。
1年間、ビジネス誌「THE21」で連載した内容を特別に公開許可いただいたので、1つずつ記事にすることにしました。
この記事では、利益と社会的インパクトを統合しようとする試み「インパクト加重会計」について紹介します。
インパクト加重会計
社会的インパクトを財務諸表に反映させる試み
企業は、製品やサービス、雇用を通じて、社会にインパクトを与えています。また、企業の事業活動は、環境にもインパクトを与えています。こうした企業の「社会的インパクト」に対する関心は、どんどん高まってきています。
しかし、社会的インパクトは、非財務情報として開示されることはあっても、従来の財務諸表には表現されていませんでした。
そこで、ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授や投資家のロナルド・コーエン氏は、「インパクト加重会計イニシアティブ(IWAI)」を立ち上げ、社会的インパクトを財務諸表に反映させる試みを進めています。
基本的な考え方は、利益と社会的インパクトを統合するというものです。負のインパクトを与えていれば、その分、利益をマイナスする。逆に、正のインパクトを与えていれば、その分、利益をプラスして計算するのです。
例えば、環境汚染をしていれば、その負のインパクトを利益からマイナスする。一方、通常より多くの給与や福利厚生などを従業員に与えていれば、正のインパクトとして、利益にプラスします。
こうすることで、「環境汚染をしたり、従業員の労働環境を厳しくしたりしてでも利益を上げよう」と企業が考えることを防げます。
社会的インパクトを定量的に把握するは難しいのですが、企業が排出する二酸化炭素の量を金額に換算して、投資判断に反映させる「インターナルカーボンプライシング」は一般的になったので、不可能なことではありません。
従業員のための投資は「利益」になる!?
これまでは、企業が環境汚染や人権侵害をしても、ESG(環境・社会・ガバナンス)の評価が下がったり、NGOから告発されたりすることで、株価が下がる、という形で、企業価値への影響は間接的でした。
インパクト加重会計によって、すぐに利益がマイナスになれば、より直接的に企業価値に影響します。すると、短期的な利益を追い求めるために外部のステークホルダーにコストを負担させるとことが減っていくでしょう。
また、従来は、従業員のための投資は損益計算書上の費用になり、利益を減らす要因になっていました。これを、正のインパクトとして利益にプラスするようにすれば、従業員の給与を上げたり、福利厚生を充実させたりしやすくなります。すると、従業員のモチベーションが下がって離職することも減るでしょう。
インパクト加重会計が定着すれば、株主だけでなく、すべてのステークホルダーに対して企業価値の定義が求められるので、株主至上主義ではなくなります。
日本にも、独自に社会的インパクトを定量化している企業があります。例えばエーザイは、福利厚生などの人的投資が、長期的に見て、企業価値にどのように影響するのかの相関関係を研究しています。
図解:チャーリー
取材執筆:桃山透
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説明は以上です。
こちらの記事は、PHP研究所が発行しているビジネス誌「THE21」で2021年1月号から12月号まで連載していた「図解で深掘り!時事ワード」の内容を掲載したものです。本記事が掲載された号は以下です。
誌面に掲載するフォーマット上、図解は2枚ずつ掲載しています。
本来は2枚じゃなくもっと枚数をふやして図解すべき内容もあるなと思いつつ、誌面の制限に従い、いったん全て2枚ずつでまとめるフォーマットで揃えています。
今回、日をあける形で記事の掲載を許可いただいたので、少し時間が経過しているものもありますが、ご了承ください。また、記事中にもし間違いなどありましたら直しますので、教えていただけると嬉しいです。
これらのテーマについて記事にしていきます。
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なぜこれらのテーマなのか?と聞かれると、その時々で気になっているテーマだったから、ということで選定基準はかなり属人的です。
振り返ってみれば、大きな枠組みの変化や、面白い仕組み、取り上げるべきイシュー、そういったテーマを選んでいた気がします。もともとの連載のリクエストとしては、時事的な話題をなんらか図解して紹介してほしいということだったので、時事的であることだけ縛りがあります。
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