すずめの戸締まり

映画館の大画面で観たい映画、新海誠監督による災い×ボーイ・ミーツ・ガールエンターテイメントの集大成のようなロードムービー。

君の名は・天気の子で遠回しに描かれていた災いが、すずめの戸締まりではエンタメと共存できるギリギリまで直接的に描かれている。災いの幻想的で非日常な面が強調されていた過去2作とは異なり「禍々しく恐ろしい」でも「日常に存在する」という空気が漂う。

今作ではPV風の演出はないが映像の美しさは変わらず。オープニングのタイトルバックはぞくっとするかっこよさ。

すずめの成長と解放を描いた今作。好奇心と好意、そもそも生死を分けるのは運で、死ぬのは怖くないという考えを勇気の拠り所に無鉄砲に行動するすずめ。躊躇いを3秒で捨てて前進し続けるエネルギーのかたまり。草太=イスも想像以上に素早く動き回り、アニメマジックで動くと可愛い。

草太との旅の途中に訪れた土地、出会った人によって少しずつ世界が広がっていく。フィクションだからどのキャラクターも役割をもってバランスよく配置されてるけど、物語の歯車に収まりきらない人生が見える、というか実際に映画で描かれてることの外側にちゃんと"生活"と"社会"が広がっているのがわかる。そういう要素が織り込まれているにも関わらずテンポよくコミカルに話が展開していて、かつて栄えていた「場所を悼む」という情緒的なテーマと明るいエンタメが完璧に両立している。

そのうえ社会から完全に外れたアクションシーンのシークエンスも普通に良いから凄い。とくに聖橋からミミズの上に飛び移るシーンは高揚感があって好き。ちなみにこの聖橋は関東大震災後に復興局によって架橋された橋だそうで、あの場面に選ばれてのも偶然じゃなさそう。

最後まで世界が一変するようなことは起こらないし、理路整然とした解決策もない。相変わらずいつ何で失われるとも分からない土地の上にいて、それでも少しだけ行動原理が変わったり、自分自身との対話を通して自分自身を解放したりする。
鑑賞特典の新海誠本では「楽しくて、且つごく当たり前のことを言う映画」と語られている。すずめが自分自身にかけた言葉は文章や口頭で説明しても残念ながら響かないような、本当に当たり前のことだけど、映画を見ればそこに希望が宿る。映画を見た人にだけ訪れる体験だと思う。



・ダイジンに関しては勢いで話が進んで正体や伝承は明かされない。説明不足というか、恐らく最初から説明しようとしてない。あと動きが本物の猫ちゃんそのもの。犬と猫が死ぬ(と言っていいのか微妙だけど)映画はダメって決まってたのに覆されてしまった。

・ゲストで少し登場するだけだと思ってた神木隆之介さん、芹澤というほぼメイン級のキャラで登場。ずっと人間だしかなり良い役どころ。オーディションではなく監督からの指名で、君の名は。の瀧のイメージが大切だからという理由で一度NGを出したものの最終的に説得されたそう。成功したオタク伝説……。

・震災後放置され自然に飲み込まれた町をみて「綺麗」とのんびり評する芹澤と「綺麗?これが?」と驚くすずめ。わざわざ車止めさせてこの会話を挿入したの凄い。冒頭すずめと友人が廃墟と化した温泉街のバックグラウンドに無関心なシーンと対になって刺さった。"今"をフィクションに閉じ込めるシーン。

・必ず出てくる謎の美しい原っぱ。

・監督の声の好み分かりやすい。たぶん次回作も同系統の声質。

・CMで一瞬出てくるけど海外の街並みを描いて欲しい。でも結局新宿が一番美しいような気もする。

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