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『夏とふたり - July. 21. 2023』

   今日は終業式。
   夏休みが始まる日は毎年地元の海に来て遊んでいる私たち。ここになっつん や ちなっちゃんが入ったり、幼馴染の穂鷹が来ることもあるけれど、必ず遊んでいる。
通称『夏始めの儀』
みやにはなんだそれって笑われたけど、これがないと夏が始まらないっていうのは2人の中での不文律だと思う。
   今年も例に漏れず、終業式が終わったら地元の最寄り駅に集合して海まで一直線に目指す。 みやの自転車に二人乗りして切る風が気持ちいい。田んぼだらけで全然発達もしていないし、小さな神社とおきにの駄菓子屋さんがひとつ、駅前の小さいけれど温かみのある商店街があるだけの小さな町だけど、私はこの町が好きだ。時間がゆっくりと流れていて両手両足をゆっくり伸ばせる感覚がする。

 高校受験の時、みやが隣町の都会に進学をすると知った時に中学生とは思えないぐらい駄々をこねたのが懐かしい。だってこの先もずっと同じ学校に通って、時間を共有すると思ってたから。みやは、このド田舎が好きじゃないらしくて。制服と周りの利便性を決め手に高校を選んだみたい。
 それでもこうして私と定期的に遊んでくれてるのは、愛だなって思う。

 なんて少し黄昏てたら、みやからなんか静かじゃん!どした?なんて不思議がる声。そりゃそうだ。いつも迷惑がられてしかめっ面されるぐらい騒いでるんだから。(なっつんのせいでもある。)
 住宅街と言える程でもない民家の集まるエリアを抜けて、海まで続く坂道を一気に駆け下りる。途中、すれ違った漁師のヤマオカさんに挨拶をする。どうやら今日はあまり釣れなかったらしい。
 私とは正反対に知り合いの範囲が狭いみやに誰彼構わず話しかけるのやめなー?なんてお小言を言われるけれど、きっと仲良しが多いほど毎日が楽しい。でも、そこだけは合わないみたいで私の知り合いと話す時は1歩後ろに下がっていることが多い。多分みやなりの気づかいだと思う。

 坂道を抜けると両脇の木々も無くなり、一気に視界が開ける。沖縄とか南国みたいな、透き通ったエメラルドグリーンってわけでないけれど、夏の強い日差しに照らされてギラギラと輝いている。自転車から飛び降りて、前カゴから水鉄砲をひったくる。後ろからみやの静止する声がきこえるけれど、気にせずそのまま海に一直線。自転車を止めて追いついたみやに首根っこを掴まれた。

 「どーせ、日焼け止め塗ってないんでしょ。」
 「忘れてた!」

えへへと笑えば、もーってはにかみながら顔と腕に日焼け止めを塗りたくられた。ありがとうみやこママ。
 5月の時点で楽しみすぎて駄菓子屋さんで買っていた水鉄砲。毎年海水で撃ち合いをしてダメにしちゃうから、新調が必須。なんだかんだ言いながらお揃いを買ってくれちゃうみやが大好き。できた!ってぺちんと頬っぺたを両方から挟まれた。その手をそのまま掴んで水際まで走る。砂浜の走りずらさも大好き。海水でベタつくのも服が濡れるのも夏だけの特別感がある。水鉄砲に水を汲んで、その日は日が傾くまで遊び続けた。


 地元のいつも見ている海なのになんでこんなに綺麗なんだろう。この場所が田舎臭くて嫌いだとか、そういうことじゃないけれど、やっぱりいつでも見れるものだから感動もありがたみも薄れて当たり前。なんだけど、いつもと違う顔を見せられると途端に好きなんだなということを再確認させられる。
 はしゃいでいる私を横目に座って黄昏れるみや。楽しい時間はあっという間で、綺麗な夕日を眺めながら何となく帰るのが名残惜しくて、海岸線の堤防でぼーっとしてしまう。今日は黄昏れるのが多いねぇとみやに指摘されてしまった。

 「なんか、学校が違ったってずっと仲良く遊んでくれる子がいるって幸せだなって、噛み締めてた」
 「なんだそれ」

 ふはっと吹き出してしまうみや。それを見て、私はそんなに笑わなくてもいいじゃんと頬を膨らしてしまう。一頻り笑ったあとに、でもね、とみやは続けた。

 「絶対こうやって大人になってからも遊んでくれるんだろなって信頼があったから、安心して他の学校を選べたよ。」
 「そんなこと言われたら泣いちゃうよ〜」

 えーんと泣き真似をして見せれば、そーゆうノリやってくれるのが好きって言ってくれる。何このノリなんて2人で吹き出してしまった。
 帰路につきながら、今年も絶対楽しむ!と意気込んだ。

 だって高2の夏は1度きりだもん。




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