『飽食エスケープ 0 』
プロローグ
『あぁ〜!しあわせ!ねぇ、ジャックもそうでしょう?』
「うん、そ、だね」
いつもの澄んだエメラルドグリーンとは違う、何かに飢えたような、ルビー色の真っ赤な瞳が、うっとりと目の前のプリンを見つめる。 レトロブームに乗っかって流行っていた、硬めの何処か懐かしいそれを大きな口で一口、心底幸せそうに頬張る彼女。一口食べるかと勧めてくれるが、都合上 ”今は” 食べられないため、丁寧にその申し出を断る。
しっかし本当に美味しそうに食べる。体質がなければ僕も何か食後のデザートを注文していたところだった。
ちなみに、僕の名前はジャックではない。
今はど平日の昼下がり。僕、佐田ヤマトと新山茅穂は学校の最寄りから隣の駅にある、喫茶店に来ている。今頃、みやは数学のはげたおじさんの話をつまらなそうな顔で聞いているところだろうか。本来ならば、ゆったりとした昼休みを過ごした後、僕もあの親父のつまらないダジャレをBGMにお昼寝に入っているところだった。
こんなふうに、この甘いものに飢えた悪魔とエスケープするようになったのはいつからだろうか。
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