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松田は世界陸上オレゴン、加世田はベルリンとマラソンコンビが快走。ダイハツの目標は3位だがチャンスがあれば…【クイーンズ駅伝2022プレビュー⑤】

 ダイハツはマラソンで日本トップに定着している松田瑞生(27)と、急成長中の加世田梨花(23)の2本柱を押し立てて戦う。クイーンズ駅伝in宮城2022(第42回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月27日、宮城県松島町をスタートし仙台市弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmで行われる。
 松田は今年7月の世界陸上オレゴンで9位と、入賞に迫った。加世田は9月のベルリン・マラソンで2時間21分55秒、日本歴代10位とトップレベルに躍進した。クイーンズ駅伝は2人で長距離区間の3区と5区を分担する。そして1区候補の大森菜月(28)も今季、5000mで自己記録に迫るなど好調だ。3人以外の選手の頑張り次第では、資生堂と積水化学の2強に迫る可能性を持つ。

●故障をはねのけて入賞に迫った世界陸上

 松田の足の状態は完全に回復している。
 左足第二中足骨の疲労骨折が、世界陸上マラソンの約3週間前に発覚した。「一か八かじゃないですけど、そのくらいハードな練習をしました」。ドクターからは欠場をうながされたが、「現役最後のレースになることも覚悟の上」と、痛み止めを服用して出場した。
 夏開催の世界陸上としては涼しい気候に恵まれ、5kmを16分10秒と先頭集団は超高速で入った。米国勢を中心とする第2集団も16分32秒で、不安を抱える松田には速かった。松田の5km通過は16分43秒で、1人で走るシーンが続いていった。終盤で追い上げ、41km地点では8位のK・ダーマト(米国)を2秒差まで追い上げたが、最後の1.195kmで13秒まで差を広げられてしまった。
「順位は把握していましたが、ずっと全力だったので、ラストは脚(余力)が残っていませんでした。私は(東京五輪は補欠で)世界の舞台に立てない悔しさと、世界の舞台に立つプレッシャーと責任感の、どちらも経験させていただいています。私が悔しさというものを一番わかっていると思う。この悔しさを糧にまた、次、この舞台に戻ってきて、結果を残せるように一から頑張っていきたい」
 代表として走ることに、ここまで強い気持ちを持っているのが松田である。
 帰国後はリハビリトレーニングを続けたが、9月18日に入籍したパートナーが協力してくれたこともあったという。「上級者コースの山登りができるので、一緒に山登りに連れて行ってもらいました。故障で走れない間に、楽しみながらトレーニングができましたね」
 10月半ばから強度の高いポイント練習も再開した。山中美和子監督は「体はまだ6~7割で絞り切れていませんが、ポイント練習は一番やっています。集中力、調整力はやはり高いです」と、松田の復調ぶりに目を細める。
 昨年は5区で区間3位。プリンセス駅伝前に故障をして、クイーンズ駅伝は練習を再開して1カ月で出場した。それに比べると、今回は1カ月半の練習期間がある。同じ5区なら区間3位以上が期待できる。

●マラソンを経験して成長した姿を

 加世田は今年に入ってマラソンを2本走った。初マラソンだった3月の東京が2時間28分29秒で11位(日本人4位)、9月のベルリンが2時間21分55秒の7位(日本人1位)。2本のマラソンの間、7月には5000mで15分15秒03の自己新で走っている。そして今季の戦績の、ある意味起点となったのが昨年のクイーンズ駅伝だった。
 大学女子長距離界のトップランナーだった加世田だが、初のクイーンズ駅伝は3区で区間10位。チームの順位を6位から8位に落とした。
「ある程度勝負できると思って臨みましたが区間10位で、2人に抜かれたときもまったく抵抗できなくて。(3区のコースは直線部分が多く)前が見えるのですが、追いつきたくても追いつけない。学生までのステージと明らかにレベルが違う、と感じました」
 加世田を抜いた1人は区間賞の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・22)で、もう1人は吉川侑美(ユニクロ・32)。廣中は5000m日本記録保持者で昨夏の東京五輪10000m7位入賞者、吉川は1500mからハーフマラソンまで幅広い走力を持つベテラン選手。廣中は1学年下だが加世田は「実業団の洗礼を受けた」と感じた。
 しばらく「気持ち的に沈んで」しまい、クイーンズ駅伝後に休養期間を設けた。
「しかしその悔しさがあったから、今年に懸ける思いが強くなりました。マラソンにも挑戦して、2つのマラソンを経験して、成長できたところを今年のクイーンズ駅伝で見せたいです」
 マラソンに取り組む過程で「走りを変えられたこと」が大きな収穫だった。
「私の走り方は腕振りが大きくて、先に上半身が疲れて呼吸が入ってこないような動きだったんです。もって10kmくらい。そこを改善して、無駄に大きな動きをやめて、長く淡々と走れるように変えました。しかしトラックでスピードを上げるときは、腕振りの大きさが自分の良さになるので、スピードによって使い分けています」
 7月には前述のように、5000mで自己新をマークできた。腕振りの使い分けができ始めたことに加え、加世田のマラソン練習が、トラックのスピードを生かしながら行う内容だったことも一因だろう。
 今年のクイーンズ駅伝は5区の可能性もあるが、3区起用が濃厚だ。
「マラソンを経て楽な走り方も見つけられたので、それを生かしたい。マラソンと駅伝ではペースも全然違いますが、距離も4分の1で、去年と比べたらあっという間に感じられると思います。去年はプリンセス駅伝が区間5位で、練習ができていたのにイマイチで、自信のなさがクイーンズ駅伝の走りに出てしまいました。自信としては今年の方があります」
 加世田の2年目の成長が、ダイハツを上位の流れに乗せるはずだ。

●大森が1区に行くことの意味

 松田と加世田以外では、大森の1区が有力視されている。前回も1区で区間賞と12秒差の区間5位。昨夏には「5000mの自己最低記録」(大森)を出して競技をやめることまで考えたが、体調不良の原因が判明し、対処して秋には調子を上げてきた。クイーンズ駅伝翌月には、ハーフマラソンの自己記録(1時間10分18秒)でも走った。
「去年の駅伝はわりと調子は上がっていましたが、夏の練習が積めていなかったので、自分でもビックリした走りでした」
 今年は6月に5000mで15分29秒46をマーク。自己2番目の好記録だった。9月末の全日本実業団陸上では初めて5000mと10000mの2種目に挑戦し、10月中旬にはハーフマラソンにも出場。その3レースの記録は良くなかったが、3本をセットにして、高負荷で追い込む練習と位置づけた。「去年より蓄積したものが多いので、駅伝でも少しは安心してスタートできます」と今年は手応えがある。
「でも1区のレースは、そのときどきで流れが違います。私が1区に行くのなら目的は区間賞というより、松田と加世田が長い区間を走ったり、チーム全体が適材適所の区間配置ができるようになることです。区間10位でも周りとの差やライバルチームとの位置関係が、走りやすいところで2区以降にタスキを渡すことが仕事ですね」
 ダイハツの2区候補は前回区間6位の武田千捺(22)と、ルーキーの西出優月(22)の2人。武田は2年前も区間2位と、2区での実績は高い。西出は専門の3000m障害で日本選手権2位に入っただけでなく、1500mでも4分18秒49とダイハツ記録を更新したスピードがある。
 前回6区区間9位の上田雪菜(24)、出産を経て復調してきた前田彩里(31。15年世界陸上マラソン代表)、マラソンで2時間26分23秒を持つ竹本香奈子(26)らが6区候補だ。
 2年前に出産した前田は、「体のバランスが崩れていた」(山中監督)ため、故障が出やすくなっている。練習も故郷の熊本で行っているが、今季は徐々に本隊チームと「距離やスピードはきっちり決めませんが、似た内容のメニュー」もこなせるようになった。加世田と松田に何かが起きたときは、前田が長い区間を走ることになる。
 1区候補の大森が区間トップと大差なくつなげば、2区でトップ争いに加わることも可能だろう。そして3区候補の加世田が、昨年抜かれた廣中や新谷仁美(積水化学・34)といった、トラックの強豪選手相手にどこまで対抗できるか。
 山中監督は「3位以内が目標ですが、目指せる状況になれば悲願の優勝も目指します。しかしレースになったら、選手たちは冷静に走ってくれたらそれでいい」と、上を目指す意欲と、足元を見て落ち着いて走ることのバランスに言及した。
 優勝候補チームに取りこぼしが生じたとき、ダイハツが冷静に走っていればチャンスが巡ってくる。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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