【プリンセス駅伝2021見どころ④ 資生堂】
世界陸上ドーハ代表だった木村が復活しV候補筆頭に
「あくまでも予選だが意味のある予選に」と岩水監督
資生堂で注目すべきは着順ではなく、どんな予選通過の仕方をするのか。
10月24日に福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmで行われるプリンセス駅伝は、3強(資生堂、エディオン、ダイハツ)の争いを言われているが、中でも資生堂を優勝候補筆頭に推す声が多い。代表経験選手、昨年の駅伝で活躍した選手、勢いのある新人とメンバーが充実しているからだ。
だが、就任1年目の岩水嘉孝監督は「トップ通過にはこだわらない」と言い切る。現時点で力のある選手よりも、“試したい選手と起用法”でプリンセス駅伝を戦うつもりだ。
●代表経験選手から新人まで
選手層の厚さでは資生堂が一番だろう。
高島由香(33)は16年リオ五輪10000m、木村友香(26)は19年世界陸上ドーハ5000m代表で、2人ともクイーンズ駅伝で区間賞を取ったことがある。
入社2年目の佐藤成葉(24)と五島莉乃(23)は、学生時代に日本インカレ10000mで1位と2位。昨年はプリンセス駅伝、クイーンズ駅伝とも佐藤、日隈彩美(24)、五島の新人トリオが1、2、3区を走り、プリンセス駅伝では区間4位、2位、2位と実績を残している。
新人は樺沢和佳奈(22)、木之下沙椰(18)、ジュディ・ジェプングティチ(18)の3人。樺沢は中学時代に3000mで全国チャンピオンになり、高校、大学で全国タイトルは取れなかったが、上位の成績は残してきた。木之下は神村学園高時代に個人でも全国大会で入賞したが、1年時に全国高校駅伝で優勝した経験がある。樺沢も全国中学駅伝に勝っている。
タレント揃いのチームだが、全選手がいつも一番良い状態にいられるわけではない。昨年の両駅伝では前述の新人トリオは好走したが、代表経験コンビが故障で力を発揮できずにプリンセス駅伝5位、クイーンズ駅伝12位と不本意な結果に終わった。
チームには復活した選手もいれば、復調途上の選手もいる。今季自己記録を出していても、トラックシーズン後半はちょっとした故障で試合に出ていない選手もいる。実業団駅伝の経験を積ませることで、成長のきっかけとしたい選手もいる。
岩水監督は層の厚いチームのいくつものピースをまとめて、プリンセス駅伝で試そうとしている。
●木村はエースの走りを取り戻す駅伝に
まず注目されるのは、昨年の両駅伝で失敗した木村の起用区間だ。プリンセス駅伝は5区で区間19位、クイーンズ駅伝は6区で区間20位。痛みを抱えながら出場していたのははた目にもわかった。クイーンズ駅伝では7位でタスキを受け取った順位を12位に落とし、クイーンズエイトを逃した当事者に。
「踵の痛みをかばって走ったことで、大腿部に軽度の肉離れを起こしていました」と岩水監督。すぐに走ってしまう選手なので、駅伝後はしっかりと休ませ、本格的な練習を始めたのは3月下旬から4月上旬だったという。
東京五輪の選考に無理をして合わせなかったが、それでも6月の日本選手権5000mでは6位(15分31秒37)まで状態を上げた。
夏のレースは抑えめの走りに徹して、「しっかりと土台を作った」(岩水監督)という。そして9月の全日本実業団陸上は2種目に出場し、1500mは5位(日本人4位)、5000mは8位(日本人3位)と好成績を残した。5000mの15分15秒70は自己2番目の好タイムである。
「夏にスピード練習をしていない中であれだけ走れています。駅伝で調子を上げて、12月には来年の世界陸上オレゴンの標準記録(15分10秒00)も期待したい」(岩水監督)
プリンセス駅伝では「去年、悔しい思いをした選手にリベンジしてもらって、きっかけをつかませる」ことがテーマの1つだという。木村の起用はおそらく1区か3区。主要区間でエースとしての走りを取り戻し、個人種目につなげていく。木村が去年のリベンジに成功すれば、チームも間違いなく優勝争いに加わっていく。
●岩水監督の考えるプリンセス駅伝の位置づけ方
岩水監督はプリンセス駅伝を「クイーンズ駅伝への戦略の一環として使いたい」と考えている。具体的には「去年悔しい思いをした選手にリベンジさせることと、新人を積極的に活用すること」だという。ということは、高島も起用する方針ということになる。
高島も昨年は、プリンセス駅伝こそ6区を区間2位で走ったが、クイーンズ駅伝は大会2日前に欠場を決めた。大腿部の肉離れだった。資生堂は2区以外は全て、選手を変更したという。高島が出場できていれば、クイーンズエイトから落ちることはなかったかもしれない。
木村と同じように完全復活のきっかけをつかませたいが、今季の高島は1試合に出ただけで、復調へ歩み始めたばかり。プリンセス駅伝に起用するとすれば後半区間だろうか。
新人ではジェプングティチが絶好調で、9月の全日本実業団陸上5000mに14分57秒55の自己新で優勝した。プリンセス駅伝4区でも区間賞候補だ。
樺沢も5000mで、タイムは15分55秒29ではあるが、9月に自己新で走った。「距離を走れるよう、地道に取り組んできました。度胸もあって試合で力を出し切れる選手なので、実業団の駅伝でその走りがどこまでできるか見てみたい」(岩水監督)
木之下は自己記録こそ更新していないが、U20や実業団のジュニアカテゴリーの試合で、確実に走っている。「前でガンガン走るタイプでスピードもあります。あとは長い距離をどう走るか」(同監督)
岩水監督の口ぶりから推測すると、新人は3人とも起用したいようだ。
プリンセス駅伝の資生堂は、必ずしもベストオーダーとはならないかもしれない。木村や佐藤は主要区間でエースとしての走りを期待されているが、復調途上の高島や新人には不確定要素もある。岩水監督は「あくまでも予選」と、多少の失敗も覚悟しているが「でも、意味のある予選にしたい」と言う。
各選手とは設定タイムを話し合い、「そのタイムを刻むこと」が大きなテーマになる。その上で他チームの区間エントリーを見て、最終的にはタスキを受け取る位置でどういう走りをするかを選手が判断する。
岩水監督からは「仕上がりとしてはいいですから」という言葉も出ている。“意味のある予選”にできれば、自ずと優勝が見えてくるはずだ。今年の資生堂にはそれだけの力がある。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト