【READY STEADY TOKYO日本新記録の期待④男子100m 桐生祥秀ほか】
9秒台が期待できる男子100mにガトリンも参戦
2年前のGGPで好勝負を展開した桐生、ゾフリ、小池が挑む
READY STEADY TOKYO(5月9日@国立競技場)の注目種目だった男子100mに、17年世界陸上金メダリストのジャスティン・ガトリン(米国)が参戦する。9秒98の日本歴代2位を持つ桐生祥秀(日本生命)と小池祐貴(住友電工)、スタートダッシュでガトリンを驚かせたことのある多田修平(住友電工)らの日本勢がガトリンに挑戦する。10秒03を持つアジア注目のゾフリ・ラルムハンド(インドネシア)も要注意の存在だ。
READY STEADY TOKYOは東京五輪テストイベントとして実施される。日本記録更新や五輪参加標準記録突破を期待できる選手たちを、TBSのLIVE配信で自宅から応援できる。
●39歳になったガトリンの実力は?
2月に39歳になったガトリンだが4月に2度、9秒98で走っている。シーズン早々にそのタイムなら、今大会では9秒8台で走ってくるかもしれない。そうすると付け入る隙はなくなるが、さすがのガトリンも来日する度に微妙に力は落ちている。
16~19年にゴールデングランプリ(GGP)で来日したが、3大会の上位選手の成績は以下の通りだ。
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▼2019GGP男子100 m(+1.7)
1)10秒00 ガトリン
2)10秒01 桐生祥秀
3)10秒03 ゾフリ
4)10秒04 小池祐貴
▼2018GGP男子100 m(-0.7)
1)10秒07 ガトリン
2)10秒13 山縣亮太(セイコー)
3)10秒13 I・ヤング(米国)
4)10秒17 桐生祥秀
▼2017GGP男子100 m(-1.2)
1)10秒28 ガトリン
2)10秒31 ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)
3)10秒35 多田修平
4)10秒42 サニブラウン
▼2016GGP男子100 m(+0.4)
1)10秒02 ガトリン
2)10秒21 山縣亮太
3)10秒26 R・ギッテンズ(バルバドス)
4)10秒27 桐生祥秀
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4月の2度の9秒98のうち1レースは優勝したが、もう1レースはキリー・キング(米国)という26歳の選手に0.01秒差で敗れている。キングは25歳で、そのレースで9秒97(+1.9)を出すまで10秒00が自己記録だった選手。おそらく4月のガトリンなら、レベルが上がっている今の日本選手は互角の戦いができる。
ガトリンはTBSの取材に「国立競技場で戦う準備はできています」とコメント。そうでなければ張り合いがない。
●桐生のスピード練習の成果は?
桐生祥秀は上記のように、2年前のGGPでガトリンに0.01秒差と善戦した。昨シーズンも国立競技場で行われたGGPでは、予選で10秒09(+0.7)と現時点の国立競技場記録で走り、決勝でも好調のケンブリッジ飛鳥に0.02秒差で競り勝った。
「去年も国立競技場ではしっかり走ることができたので、それ以上のタイムを出したい」
その結果、ガトリンにも勝ちたいと考えているはずだ。昨年1年間は外国人選手と戦う機会がなかっただけに、前日会見では「金メダリストと走るのは久々ですね」と、待ち望んでいた様子も見せた。
だが「相手が誰であろうと自分のレースをすることが結果につながります」と、ライバルの存在よりも平常心重視で臨む。
織田記念では山縣、小池に敗れ10秒30(+0.1)の3位。3月の日本選手権室内の60m決勝を棄権することになった左ヒザ(ふくらはぎ上部)の違和感の影響で、スピード練習が少なかったことが原因だった。
「ヒザは問題なく走ることができました。(本来より遅く)冬期練習が終わったので、ここからスピード練習をやっていきます。今日の決勝はスタートミスもありました。これからシーズンの体になっていくので、1本1本やっていけばタイムは上がって行きます。Ready Steady Tokyoに向けては、スピード練習ができると思う」
桐生はトップスプリンターの中でも練習で走る量が多い方だという。この冬期はさらに「トレーニングのボリュームとしては、これまでにないくらいしっかり積めた」(土江寛裕コーチ)という。
レース展開のテーマとしては、昨年は前半のスピードの上がり方が目指すレベルに達していなかった。桐生は今年イメージしている展開を、3月の取材で次のように話した。
「去年は50mくらいから出て行って勝つレースが多かったのですが、それでは前半で速い人と並んだときに遅れてしまいます。スタートからバンと出て、20~30mでトップに立ちたいと思っています。20~30mでトップに立って、中盤から後半も去年よりアップした走りをしたい」
その走りを試すには、前半に定評があるガトリンや多田は絶好の相手となる。
●17年GGPでガトリンをリードした多田
多田は17年のゴールデングランプリでガトリンの1つ内側のレーンを走り、80m付近までガトリンをリードした。ガトリンが「私も含め、全員が彼のスタートダッシュに驚いたと思う」と、何度も多田への賛辞を送った。
18年にキック時の地面を押す感覚を変えたことが、結果的に本来の持ち味を失わせたが、19年の世界陸上では4×100 mリレーの1走で銅メダル獲得に貢献。今季は3月の日本選手権室内60mに優勝した。苦手としてきたレース後半で、課題だった上体が反ってしまう走りの修正に好感触があった。
だが織田記念では10秒32で4位。「前半も良くはありませんでしたが、後半で(どんな走りをしたか)覚えていないくらい力んでしまった」と反省する。
READY STEADY TOKYOでは中盤までは先頭争いができるだろう。後半の多田が、力まずに、上体が反らずに走れていたら、ガトリンと好勝負をしているはずだ。
小池は織田記念では10秒26の2位。得意の後半で桐生と多田を抜き去ったが、山縣には0.12秒届かなかった。
シーズン初戦の出雲陸上100 m(追い風参考記録だが10秒04で優勝)では前半がよかったが、中盤が良くなかったという。織田記念は前半がよくなかったが、「修正したかった中盤」はしっかりできた。前半と中盤の良かった動きの両方ができれば、ガトリンに勝負を挑めそうだ。
そして注目したいのが20歳のゾフリである。
18年にU20世界陸上100mで優勝し、世界にその名前が知られるようになった。その年のアジア大会では7位と力を発揮できなかったが、翌19年4月のアジア選手権では優勝した桐生に0.03秒差の2位。同年5月のゴールデングランプリでは2位の桐生に0.02秒差の3位と、一気にアジアトップレベルに仲間入りした。
コロナ禍の影響が大きかったのだろう。昨年は試合出場が手元の資料では見当たらない。ブランクが懸念されるが、強敵であるのは間違いない。
ここまで見てきたように今大会の有力選手全員が、過去にガトリンと対戦している。今大会のガトリンとの差が、各選手の現時点の力を判断する材料ともなる。そのあたりに注目すると、五輪イヤーの最速男争いを面白くテレビ観戦できる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
9日(日)よる6時30分 TBS系列生中継
「READY STEADY TOKYO陸上」
東京2020オリンピックテスト大会