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【READY STEADY TOKYO日本新記録の期待③男子110mハードル 金井大旺】

13秒16のスーパー日本新を出した金井
国立競技場で再現力を見せることの意味

 4月29日の織田幹雄記念国際男子110mハードルで、金井大旺(ミズノ)が13秒16(+1.7)と日本記録を0.09秒も更新。同レベルのタイムをREADY STEADY TOKYOでも出せれば、東京五輪の決勝進出が確実になる。
 東京五輪テスト大会として5月9日にREADY STEADY TOKYO陸上競技が、五輪本番会場である国立競技場で行われる。なかでもワールド・アスレティクス・コンチネンタル・ツアーとして行われる男子11種目、女子6種目は参加選手のレベルが高く、日本記録更新や五輪参加標準記録突破を期待できる。今季の実績などから、世界でも通用する記録、日本新記録が期待できる選手たちを、TBSのLIVE配信で自宅から応援できる。

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●13秒1台なら五輪決勝進出は確実

 すごいパフォーマンスを1回すれば、記録として残る。だが1回だけでは、国際大会で好成績を残すことはできない。自己記録を出したときと同じレベルの動きを再現することが、国際大会では重要になる。
 織田記念で13秒16(+1.7)を出した直後から、金井はその点を意識していた。
「東京五輪の決勝進出が一番の目標ですが、まずはそのラインを突破できたのはよかったです。ただ、追い風1.7mという好条件でしたし、オリンピックの準決勝で13秒1台を出すことが重要になります」
 近年の世界大会の準決勝のリザルツを調べてみた。準決勝はどの大会も3組行われ、各組2着までと、全組を通して3着以下のタイムの良い選手2人が決勝に進出している。16年リオ五輪、17年世界陸上ロンドン、19年世界陸上ドーハの直近3大会で、13秒1台を出して準決勝を通過できなかった選手はゼロだった。13秒2台で落ちた選手もわずか2人だけだった。
 13秒1台の力をつけ、多少失敗しても13秒2台を出す。それが五輪決勝への確実な道ということになる。その力を確認するのに最適な場が、五輪本番と同じ国立競技場で行われるREADY STEADY TOKYOだ。
 織田記念で13秒16を出した金井を見たばかりなので、次も13秒1台を出してくれると思ってしまうが、文字で書くほど簡単なことではない。昨年8月に国立競技場で開催されたゴールデングランプリ(GGP)で、金井は優勝したが記録は13秒45(-0.4)だった。織田記念のように絶好の追い風だったとしても、13秒台前半だっただろう。
 織田記念翌日のインタビューで国立競技場のトラックの印象を質問され、金井は若干答えにくそうに話した。
「とても硬いトラックで、地面からの反発が強く、違和感があるというか、慣れていないタイプのトラックでした」
 新記録を出した選手が、その後記録を更新できないと落胆する陸上ファンは多い。期待の裏返しではあるが、日本記録は更新したらすごいこと、再現するのは難しいことだという認識は持って観戦すべきだと思う(記録の出る革新的なシューズの登場などは別として)。

●18年に日本新も再現力がなかった

 金井にも苦い記憶がある。
 18年の日本選手権で13秒36(+0.7)の日本新をマーク。谷川聡(当時ミズノ)が04年に出した13秒39の日本記録を14年ぶりに更新した。
 だが、その年のアジア大会は13秒74(±0)で7位。海外の試合は、確認できている4試合すべてが13秒7台だった。13秒3台の動きをまったく再現できなかった。シーズン最後の国体で13秒46(+1.2)のセカンド記録をマークし、なんとか面目を保った。
 翌19年は世界陸上でも13秒7台で予選落ちしたが、シーズンベストが13秒51にとどまった。金井は「ブレーキ動作を含んだ踏み切りをしていたので失速率が大きかった」と不調だった原因を振り返っている。その間に日本記録は、髙山峻野(ゼンリン)が13秒25まで縮めていた。
 その反省から昨年は、動きの修正をするときには必ず、全体の流れを意識するようになったという。
「何かを変えるときは必ず、一連の動作が遅くならないように修正するようにしています。2年前くらいまでは部分的に修正しようとしていました。踏み切りの部分、空中動作、着地の部分と1つ1つ修正していく感じでしたが、1つを良くすると必ずマイナス部分が出てきました。そのマイナス部分をどれだけ減らせるかが、タイム短縮には重要になってくる」
 それに加えて、「トレーニングと試合の組み方や割合がわかってきた」という。レース後の疲れの残り方、トレーニングを再開するタイミングなどが理解できるようになり、20年は13秒27(+1.4)の自己新(=当時日本歴代2位)を筆頭に、13秒38以内を5回出し、日本選手権も優勝した。再現性が格段に高くなっていた。

●今シーズンが競技生活最後

 再現力とともにキーワードとなるのが集中力だろう。
 金井は歯科医になる目標があり、競技生活は今季が最後と決めている。シーズンに入ってからはそれほどでもないが、冬期練習中に「これが最後なんだな」という気持ちになっていた。
「毎年合宿している場所に行って最後だと思うと寂しさも感じましたが、1日1日の重さを感じてトレーニングに取り組みました。最後ということがモチベーションにつながって、僕にとっては良い方向に働きましたね。もう一度この冬期トレーニングができるかと聞かれたら、イエスとは言えないくらいに充実していました」
 織田記念ではブレーキ動作の入らない、流れるような動きを最後まで行うことができたが、スタートでは課題が残ったという。
「予選ではスタートで浮いてしまいました。決勝はそこが今シーズン初めて上手くできて、上に行かず前に進めたのですが、まだまだ完璧ではありません」
 10日後のREADY STEADY TOKYOまでに修正し、その動きをいつでも再現するレベルに仕上げることは、簡単なことではないかもしれない。
 だが、そうした修正作業をするのもこれが最後になる。その気持ちで集中力が高まることは、冬期トレーニングが実証している。集中力が高まれば、修正のためのヒントを感じ取る力も上がるはずだ。国立競技場の硬いトラックへの苦手意識の克服にも、集中力が高まることが役立つだろう。
 国立競技場での13秒1台の再現は簡単ではなく、実現したらものすごい快挙であるが、現役最後のシーズンで五輪決勝進出を目指す金井なら、可能性は必ずある。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

9日(日)よる6時30分 TBS系列生中継
「READY STEADY TOKYO陸上」
東京2020オリンピックテスト大会

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