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【全日本実業団山口ハーフマラソン2021展望⑤ 古賀淳紫】

前回2位(日本人1位)の古賀が「誰が来ても勝ちたい」と意欲
自称“無名”だった選手の1年後の成長は?

全日本実業団ハーフマラソンが2月14日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。前回男子の日本人トップとなる2位と健闘したのは、自称“無名”選手の古賀淳紫(安川電機・24)だった。
 古賀はその前年のニューイヤー駅伝7区で区間賞を取っていた。本人が言うほど無名ではなかったし、昨年12月の日本選手権5000mで12位と結果を残し一発屋でもなくなった。今年のニューイヤー駅伝は3区(13.6km)区間3位と、日本トップレベルの走りを見せた。
 今年は前回以上に強力なメンバーになったが、古賀も1年間で確実に成長している。長距離ファンを驚かせた大会の1年後の走りに注目したい。

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●「残り5kmで勝負」が本音だが…

 今年の目標を古賀は「誰が来ても勝ちたい」と、最後に付け加えるように話した。昨年以上の顔ぶれがそろったことを考えると強気のコメントに聞こえるが、古賀の言葉には控えめな内容が多い。
 この1年の成長を踏まえたら、どんなレース展開ができるのか? という質問に「今年は残り5kmくらいから勝負に出られれば」と答えて、すぐにそれを撤回した。
「やっぱり(残り5kmは)無理ですね。集団の選手が強ければ自然とペースが上がって絞られていくと思いますが、ラスト1kmでも早いかもしれません。勝負を仕掛けるならもう少し待たないとダメでしょう。集団だったらトラックに入ってからですかね」
 昨年も集団を引き離そうとしてできなかった。20km手前で2位集団から抜け出したが、トラックでいったん追いつかれた。残り300m以降で再度スパートして日本人トップを占めたのだ。
 それに加えて1月の実業団連合合宿で、高いレベルの練習を行ったところ疲れが出てしまった。大会1週間前の取材だったが、「あまり走れていません」と、威勢の良い言葉を言いにくい状態だった。性格的にも冷静に自身を分析するタイプである。
 エントリー選手の一覧表も、ざっと目を通したが、「きちんとは見ていない」と言う。
「見たらプレッシャーを感じてしまうと思うので。誰が強いとか、この選手には勝てないとか、深く考えないようにしています」
 弱気にも感じられるが、古賀にとってはメンタルをコントロールするための方法なのかもしれない。
 勝負に行こうとする積極的な部分と、自身を冷静に見つめる部分。古賀はその2つのバランスを取りながら、全日本実業団ハーフマラソンに臨もうとしている。

●無名選手が得た自信

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 1年前の取材で古賀が強調したのが、「無名選手」という点だった。佐賀県鳥栖工高を卒業後、隣県の安川電機(福岡県北九州市)に入社した。箱根駅伝で活躍した選手に比べ注目度が低く、同程度の成績だった場合メディアの扱いが明らかに小さい。そこには世間の関東(箱根駅伝)一極集中への疑問や対抗心も、少なからずあっただろう。
 だがメリットもあったという。
「自分の知名度がない分、他の選手たちが『すぐ落ちるだろう』と思って引っ張ってくれます。無名選手なりのメリットもあるんです」
 これは駅伝のことを言っていたと思われるが、昨年の今大会でも集団の後ろの目立たない場所で、楽に走ることができた。
 前回の1時間00分49秒は日本選手では大会歴代2位。山口のコースでの1時間0分台は、15年大会で1時間00分32秒の大会記録を出した菊地賢人(コニカミノルタ)と、12年に1時間00分53秒を出した宮脇千博(トヨタ自動車)の2人しかいなかった。菊地は昨年マラソンを2時間7分台で走った選手で、宮脇はニューイヤー駅伝主要区間の区間賞を、3区、1区、4区と3年連続でとった選手である。
 それでも古賀は、「僕の記録なんかすぐ抜かれていくと思います」と話している。謙遜もあるのかもしれないが、風が弱かった昨年は好コンディションで、10位までが1時間0分台で走っていた(日本人は8人)。自分の記録だけを見て喜ぶのでなく、全体を客観的に見ることができる選手でもある。
 その一方で、前回も「(第2集団で)勝ちに行ったレース」
だった。全てに冷静で控えめなわけではなく、行くべきところでは自身を奮い立たせて積極的に行く。
「日本の上位でやれるんだ、という自信にはなりました。去年の結果で、今年は少しは意識してもらえると思います」
 自信を持つとともに、無名選手という甘えがもう通用しないことは自覚している。今年は集団の人数が絞られたとき、他の有力選手たちが古賀の後ろにつく展開になるかもしれない。

●五輪への意識も積極的に

 この1年間、トレーニング面ではどんなテーマでやってきたのだろう。
「前回区間11位だったニューイヤー駅伝の4区(22.4km)を走り切れる土台、体力をつけることを中心にやってきました。初歩的なことだと思いますが、体力づくりとしてはロングジョグが重要です。そこをやった上で12月の日本選手権5000mのためにスピード練習をしたことで、結果的にニューイヤー駅伝は3区を区間3位で走ることができました」
 古賀は強くなるための方法をしっかりと考えられる選手である。安川電機には12年のロンドン五輪の中本健太郎(翌13年の世界陸上モスクワで5位入賞)、16年リオ五輪の北島寿典と2人のマラソン五輪代表選手がいる。このチームに入れば強くなれる。そう考えて加入する選手がいても不思議ではない。
 だが、そういった選手は強くしてもらう意識が頭のどこかにあり、自分が頑張って強くなる姿勢に欠ける傾向が出てしまうこともある。強豪チームが弱くなるときの1つのパターンかもしれない。
 安川電機の選手が強くなる理由を、古賀にも質問したことがあった。それに対して古賀は「強さの秘訣は見てパッとわかるものではなく、人それぞれだと思う」と答えていた。安川電機に入れば強くしてもらえる、という意識は持っていない選手だとわかった。
 この1年間で、自身が強くなる秘訣を見つけられたのか。その質問には少し考えた後に「継続してやることだと思います」と答えている。100%の自信は持てていないのかもしれないが、そういった部分に可能性は感じている。
 山頭直樹監督は古賀のこの1年間を「前回の全日本実業団ハーフの結果を自信に、チーム練習では常に先頭を引っ張ってきました」と振り返った。
「去年はあの順位も、あそこまでの記録も練習の中では見えていませんでした。しかし今年は、去年の結果を踏まえて練習を続けてきました。強い選手が多いので勝てるかわかりませんが、勝負にこだわった位置では走れると思います」
 安川電機のスタッフからは「中本と北島に続くのはオマエだ」と言われている。冷静な古賀には、その域に達する道筋がなかなか見えなかったが、以前よりも「意識できている」と山頭監督は感じている。
 古賀が自身の積極的な部分と冷静な部分をコントロールし、今年も全日本実業団ハーフマラソンで好成績を取ったとき、先輩2人に続く道を積極的に考えられるようになるのではないか。

TEXT•写真 by 寺田辰朗

14日(日)午後2時 TBS系列


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