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【日本選手権クロスカントリー2022プレビュー②女子展望】

世界陸上オレゴン標準記録突破の小林が中心の展開に

東京五輪代表の山中、好調の吉川と木村らにもチャンス

 女子は世界陸上標準記録を破っている学生選手と、好調の実業団選手の対決が予想されている。日本選手権クロスカントリーは2月26日、福岡市の海の中道海浜公園で以下の4部門が行われる。

U20女子・6km

U20男子・8km

シニア女子・8km

シニア男子・10km

 今大会出場者中唯一、世界陸上オレゴン大会標準記録(10000mで31分25秒00)を破っている小林成美(名城大3年)が優勝争いの中心になりそうだ。東京五輪3000m障害代表だった山中柚乃(愛媛銀行・21)もエントリー。吉川侑美(ユニクロ・31)、木村梨七(積水化学・20)ら好調の実業団選手たちも、簡単には引き下がらないはずだ

●小林のクロカン出場の目的は現状確認

 小林が昨年後半の不調から抜け出し、復調をアピールする試合になりそうだ。

 名城大の米田勝朗監督は、クロスカントリー出場の狙いを次のように話した。

「クロスカントリーは不整地や上り下りを走ることで、平地では確認できない体の状態を把握できます。上りのパワーが付いているか、下りではブレーキをかけずにスピードに乗ることができるか。どちらも体幹がしっかりしていないと走れません。距離も8kmあるので、持久力にプラスして筋力を最後まで持ち続けないと走り切れない。現時点でそういった力がどれだけあるかを確認します」

 小林は昨年7月のホクレンDistance Challenge網走大会10000mで31分22秒34の日本学生新(当時)をマークし、世界陸上オレゴンの標準記録を突破した。だが夏に体調を崩し、1カ月ほど練習が継続できず、筋力が落ちている状態で復帰を急いだため故障するパターンを繰り返した。9月の日本インカレ5000mは2位、10月の全日本大学女子駅伝5区(9.2km)は区間3位と、個人では勝てなかった(チームは全日本大学女子駅伝に優勝)。

 だが12月の富士山女子駅伝は7区(8.3km)区間賞で、区間2位に25秒の大差をつけた。練習を継続できたことで、状態が上がってきた。当初は3月の日本学生ハーフマラソン(松江)で6月のワールドユニバーシティゲームズ(中国・成都開催)の代表権を取るプランだった。だが大会自体が中止になり、ハーフの選考レースも4月の日本学生個人選手権10000mに変更された。学生個人選手権に合わせるための日本選手権クロスカントリー、という位置づけになる。

「この時期にやるべき練習ができているかを、クロスカントリーの中で確認することが目的です。優勝は狙っていませんから、調整して出場することはありません」

 今大会での結果を求めてはいない。しかし現状確認のためには「レースの流れの中で、前の方でしっかり走る」ことが必要になる。10000mの21年シーズンベストでは断然トップなので、小林を中心とするレースが展開されることになる。

●「脚が長く体幹もしっかりしていて、大きなフォームで走ることができる選手」

 小林は長野東高出身で全国高校駅伝は2、3年と連続2位。名城大では全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝と3年間勝ち続けている。長野東高は練習で、クロスカントリーを多く行うことで知られている。東京五輪5000m代表だった萩谷楓(エディオン)も同高出身で、前回のこの大会でも優勝した。小林とは同学年だ。当時の長野東高を指導した玉城良二現日体大監督は、「練習のほとんどを河川敷のクロカンコースで行っていた」と話している。

「長野東は高校でいっぱいになる、という指導ではありません」と米田監督。「名城大に入って長い距離のトレーニングも行い、持っている力を発揮できるようになりました。脚が長く体幹もしっかりしていて、大きなフォームで走ることができるのが魅力ですね。単独走でもリズムに乗って、前に進む力が出せる選手です。学生時代にマラソンもやりたいと言っています」

 オレゴンの標準記録を破った昨年7月の網走でも、長野東高の先輩の細田あい(エディオン)や、名城大の先輩の加世田梨花(ダイハツ)らを振り切って独走した。

 前述のようにクロスカントリーで育った選手である。

「上りも下りも、難なくこなせます。調整はしていませんが、メンバー次第で優勝争いに絡めると思います」と米田監督。

 女子10000mは東京五輪7位入賞の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ・21)、小林の学生記録を破った不破聖衣来(拓大1年)、全日本実業団ハーフマラソンで女子単独レース日本記録を出した五島莉乃(資生堂・24)ら、標準記録突破者が多い激戦種目。

 だが今大会で、順位よりも内容を重視した走りで勝つことができれば、4月の日本学生個人選手権に弾みが付く。そこでワールドユニバーシティゲームズの代表を決められれば、気持ち的には乗った状態で5月の世界陸上選考レースの日本選手権に臨むことができる。

●昨年自己新連発の五輪選手&20歳&31歳の3人もV候補

 小林以外では山中柚乃、木村梨七、吉川侑美の3人に注目したい。

 山中は言わずとしれた東京五輪3000m障害代表で、9分41秒84の日本歴代2位(現歴代3位)を持つ。五輪後は股関節の痛みが出て9~10月の個人レースを欠場したが、10月のプリンセス駅伝は1区(7km)で区間新をマークして区間6位となった。20年は区間22位だったことを考えると、5km以上の距離での成長は明らかだ。

 12月には5000mで15分46秒78と自己記録を大幅に更新し、ハーフマラソンにも挑戦した(1時間12分43秒)。今大会の8kmの距離にも対応できるだろう。傾向として3000m障害の選手は、起伏があったりリズムの変化が求められたりするクロスカントリーに強い。3000m障害でも同学年の吉村玲美(大東大3年。9分41秒43の日本歴代2位記録保持者)にライバル意識を持っている。同学年の小林にも食い下がるだろう。

 木村は昨年11月のクイーンズ駅伝に積水化学が初優勝したとき、アンカー(6区6.795km)を務めた。仙台育英高でも全国高校駅伝アンカーで優勝のテープを切った選手だが、入社1年目の20年は故障が多く出場試合数も少なかった。まったく自信を持てない状態だったようだ。

 だが入社2年目の21年はシーズン前半こそくすぶっていたが、後半は駅伝優勝を目指すチームの雰囲気に上手く乗った。10月に新谷仁美(積水化学・33)と佐藤早也伽(積水化学・27)がペースメーカーを引き受けた5000mで15分35秒61の自己新を出すと、クイーンズ駅伝6区で区間2位、そして12月の5000mで15分29秒36とさらに自己記録を更新した。

 勢いに乗っている木村が、先頭集団で積極的に走るだろう。

 最後に紹介する吉川は、21年シーズンで5種目の自己新をマークした。5月16日の800 m2分10秒28(東日本実業団4位)を皮切りに、7月10日に10000mで33分38秒90(ホクレンDistance Challenge網走大会22位)、9月24日に1500mで4分15秒07(全日本実業団陸上4位)、同26日に5000mで15分39秒87(全日本実業団陸上12位)、そして12月にハーフマラソンで1時間10分07秒(山陽女子ロード5位=日本人1位)。実業団9シーズン目の31歳が、ここまで自己新を連発するのは驚異的だ。

 10000mのレベルが他種目と比べると低いが、高校時代は800 mが専門種目で、その後も1500mや3000m障害を中心に出場してきたからだろう。しかし駅伝の10km区間では、昨年10月のプリンセス駅伝3区区間4位、11月のクイーンズ駅伝3区区間5位と、トラックのタイム以上の走りを見せている。

 有力選手に若手が多いが、実業団9年目で何かをつかんだ吉川も、トップ集団で存在感を見せるに違いない。学生時代は5000mが16分台だった選手が、女子のレースを盛り上げそうだ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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