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【全日本実業団山口ハーフマラソン2021展望④ 設楽悠太】

マラソン前日本記録保持者の設楽が出場
“設楽らしさ”を取り戻す第一歩に

全日本実業団ハーフマラソンが2月14日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。TBSでは男子レースに出場する設楽悠太(Honda・29)、塩尻和也(富士通・24)、松枝博輝(富士通・27)らにオンライン取材を行い、現状や今大会への思いなどを語ってもらった。絶好調で臨むことはできない選手もいるが、点ではなく線で今大会の走りを見ることで、彼らの山口での走りが興味深いものになる。

●自然体の取材対応だった設楽

 TBSのオンライン取材に応じた設楽悠太の受け答えに、力みがまったく見られなかった。
「全国からトップ選手が集まる大会です。そこで勝負をしたい思いが一番ありますし、ニューイヤー駅伝に出られなかったので、結果にこだわってアピールしたいですね。ただ、スピードの面でまだ万全の状態ではありません。しっかり全力で走って、今の状態を確認したいと思っています」
 マラソンやニューイヤー駅伝前であれば、レベルの高い目標を設定して突き進む。そんな研ぎ澄まされた様子はなく、今回の設楽には自然体で臨もうとする雰囲気が感じられた。それが今の設楽には適したやり方なのだろう。
 19年9月のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。東京五輪代表3枠のうち2人が決定した)は、スタート直後から2位を大きく引き離して独走した。後半で力尽きて14位(2時間16分09秒)と敗れたが、設楽らしい走りだった。だがMGC以降は1年半も、設楽らしさが走りに現れていない。駅伝では区間2~3位が続き、昨年2月のハーフマラソンは1時間00分49秒、3月のマラソンは2時間07分45秒という記録だった。
 ハーフもマラソンも自己2番目の記録だが、どちらも同じレースで日本記録が出た。ハーフは1時間00分00秒の小椋裕介(ヤクルト・27)に49秒差、マラソンは2時間05分29秒の大迫傑(ナイキ・29)に2分16秒差をつけられた。
 さらに昨年4月以降はコロナ禍で試合がなくなり、設楽自身も故障が続いた。「6、7、8月とほとんど走れなかったですね」。10月に記録会の5000m、11月に東日本実業団駅伝、12月に日本選手権10000mと出場したが、良いところなく終わった。そしてニューイヤー駅伝は調子が上がらず、7人のメンバーから外れてしまったのだ。
 全日本実業団ハーフマラソンは2カ月ぶりのレースになる。いきなり設楽らしさ全開にはできないが、テレビ中継のある全国大会だからこそ、自身のスイッチを入れやすい。
「昨年は応援してくれる人に良い走りを見せられなかったので、今年は結果を出したいと強く思っています。出る試合を1つ1つ大事に走りたいですね」
 再起を期す設楽にとっては必要なレースであり、目標タイムはなくとも重要な試合になる。

●マラソン日本記録のときの連戦パターン

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 好調時の設楽は、レースを連戦して調子を上げていくスタイルで結果を残してきた。
 17年9月にハーフマラソンで1時間00分17秒の日本記録(当時)を出したときは、8日後のベルリン・マラソンと、7日前の10kmのロードレースにも出場していた。
 18年2月に東京マラソンで2時間06分11秒の日本記録(当時)を出したときは、さらに試合数が多かった。前年11月の八王子ロングディスタンス10000mで27分41秒97の自己新、12月の甲佐10マイル(約16km)に45分58秒で優勝、元旦のニューイヤー駅伝4区(22.4km)で区間賞、1月の全国都道府県対抗男子駅伝7区(13.0km)で区間賞、2月の丸亀国際ハーフマラソンで1時間01分13秒の2位(日本人1位)、唐津10マイルに46分12秒で優勝と連戦し続けて、唐津の2週間後の東京マラソンに出場した。
 MGCのときも2カ月前のゴールドコースト・マラソンで、2時間07分50秒で走って関係者を驚かせた。「MGCも設楽では?」という見方が多くなった。
 練習メニューの特徴として、40km走を行わないことが話題になった。小川智監督によれば設楽はレースが好きで、レースを走ると結果的に負荷の高い40km走はできなるのだという。そういう側面もあるが、設楽だからできることなのは間違いない。
 さすがに東京マラソン直前の唐津10マイルは、小川監督が抑えるように指示していたというが、それ以外のレースは全力だった。記者たちから練習の一環かと質問されると、「僕はどのレースも全力で走ります」と本気で否定した。それが結果的に、大きなレースでの好結果につながった。

●新たな“設楽パターン”確立へ

 当時は具体的なタイムなど考えず、どのレースも最初から思い切り走った。今回の全日本実業団ハーフマラソンも「タイム設定はしない」と、その頃と似た言葉を設楽は使っている。「全力で走る」という点も同様だ。
 もちろん、以前とまったく同じ意味ではない。昨年のニューイヤー駅伝前の取材には「(以前のような連戦は)僕も若くないので」と話していた。故障期間が長く続いたこともあり、以前と同じスタイルはとれなくなっている。「やはり、気持ちと体が上手く噛み合わないと走れません」。昨シーズンを終えた設楽の、偽らざる心境だった。
 実際、今大会に向けての準備は完全というレベルではない。
「距離的なところは、1月の練習でメニュー通りにできたので問題ないと思います。しかしスピードは少し不安が残る内容でした。ラスト勝負になったところでそれが出てしまうかもしれません」
 練習状況などの体と気持ちを合わせることを考えれば、高い目標設定で意気込んで臨むではなく、一歩下がって落ち着いた雰囲気で臨む方がいい。以前の「どのレースも全力」と言っていた部分が、「1つ1つ大事に走る」に変わったのはそういうことだろう。全力で走ることは同じでも、練習してきたことや自分の状態に細心の注意を払う。言葉の違いからそういった部分が感じられる。
 だが、今年は積極的にレースに出て行くぞ、というニュアンスも含まれていた。連戦スタイルをやめるのでなく、応用していく。設楽らしい積極的なメンタルは変わっていない。
 設楽の全日本実業団ハーフマラソンは、現状に合わせながらも本来持っている良さも発揮する。そんなレースにしたいのではないか。ラスト勝負に不安はあるが、先頭集団には間違いなくついていく。その間に設楽本来のリズムが戻ってくる可能性もゼロではない。そのときは、集団から抜け出す設楽らしい走りが見られるかもしれない。

TEXT by 寺田辰朗 写真提供:フォート・キシモト

YouTube TBS陸上ちゃんねる


14日(日)午後2時 TBS系列放送


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