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【全日本実業団ハーフマラソン2022プレビュー④五島莉乃】

駅伝で五輪選手に連勝中の五島が入社後初ハーフマラソン

東京五輪代表の新谷、安藤に対してどんなレース展開で挑むのか?

 五島莉乃(資生堂・24)が新谷仁美(積水化学・33)と安藤友香(ワコール・27)の東京五輪代表にどう挑むのか。全日本実業団ハーフマラソン(2月13日。山口市開催)女子の一番の見どころだ。五島は中大を卒業して入社2年目の選手。シニアカテゴリーの日本代表経験はないが、昨年11月のクイーンズ駅伝5区(10km)では新谷に1秒勝って区間賞を獲得した。12月には10000mで世界陸上オレゴン(今年7月開催)の参加標準記録を突破し、1月の全国都道府県対抗女子駅伝1区(6km)では東京五輪1500m8位入賞の田中希実(豊田自動織機TC・22)にも快勝した。

 今大会が入社後初ハーフマラソンで、岩水嘉孝監督は「ハーフの距離の練習はしていないし、勝負するシミュレーションもしていません」と言う。だが、「練習内容からそこそこは行く」という手応えがあるのも事実だ。五島の走りがレース展開を左右しそうだ。

●クイーンズ駅伝5区で新谷に、全国都道府県対抗女子駅伝1区で田中に先着

 クイーンズ駅伝で期待以上の走りを見せたのが五島莉乃だった。ほぼ同時に中継所を出たJP日本郵政グループを引き離し、デンソーを抜き去って2位に浮上。東京五輪10000m代表だった新谷仁美に1秒勝って区間賞を獲得した。31分28秒は区間記録を42秒も更新する区間新記録。新谷が3区で区間新を出した前年ほど絶好調ではなかったとはいえ、駅伝の区間賞争いで新谷が負けることは想像できなかった。

 新谷に勝ったことについては本人も戸惑っている様子で、「今後、競技をやっていく上でプラスになったかな、と思います」と、控えめに話した。

 翌月には京都で行われたエディオン・ディスタンスチャレンジの10000mに出場。31分10秒02と世界陸上オレゴンの標準記録(31分25秒00)を突破して、日本代表入りに向けて大きな一歩を記した。

 そして1月の全日本実業団対抗女子駅伝1区では、東京五輪1500m8位入賞の田中希実を4km手前から引き離し、18分41秒で区間賞。田中に18秒の差をつけた。

「田中さんと勝負するには早い段階でペースアップするか、速いペースで押して行くか、でした。プラン通り走ることができました」

 一斉スタートの1区ということもあり、五輪代表選手との戦い方を明確に意識していた

●「五島は気持ちが前面に出るタイプ」と岩水監督

 世界陸上標準記録を突破し、駅伝2大会で東京五輪代表に勝った。資生堂の岩水監督は3大会の快走を、プリンセス駅伝のメンバーから外れたことに端を発している、と見ている。

「五島は練習のタイム設定は、ケガも怖いのでそれほど高くしていませんが、試合になると気持ちが前面に出るタイプで練習以上の結果が出ます。プリンセス駅伝は故障明けで練習が不十分だったので外しましたが、十分走れる状態にありました。出られなかった思いがクイーンズ駅伝で爆発して、5区の区間賞につながったと思います。そこで10kmを31分半を切るタイムで走ったことで、標準記録を目指す気持ちが強くなりました。世界を強く意識し出したんだと思います。石川県に対する思いも強い選手で、都道府県駅伝は故郷のために頑張る気持ちが強かった」

 ただ今回のハーフマラソンについては、岩水監督たちチームスタッフは、そこまで五島の気持ちを盛り上げようとしていない。練習も「ハーフマラソンの距離を走る準備はしていません」という。

「春先にトラックを狙って行くためのベーストレーニングの一環として走ります。どんな走りをするかは、僕らが“これくらい”と示すのでなく、本人に任せています。彼女が今回のハーフをどう感じているか、によって走りは変わってきます」

 どんなモードで走ることになるのか。五島本人もレースがスタートしてからでないとわからないのかもしれない。


●積極的に前に行く五島に好勝負の期待

 ペースや勝負どころの指示は、スタッフからは出さない。「感覚的に走ると思います。行けないと思ったら集団で自重すると思いますし、行けると思ったら行くと思います」(岩水監督)

 それでも好勝負の期待は大きい。クイーンズ駅伝5区区間賞、10000m標準記録突破、全国都道府県対抗女子駅伝1区区間賞。その3レースで五島の世界と戦う意識が明らかに高くなった。

 そして今大会には、新谷と安藤という東京五輪代表2人も出場する。新谷もレース前日練習後の取材で五島との勝負は意識すると話していたが、五島も新谷を意識しないわけはない。前日の朝練習後のスタッフとの会話で、新谷とすれ違ったことを話題にしていたという。

 五島が前に出るタイプの選手であることも、好勝負につながる要素だろう。「五島はフロントランナーで、10000mで標準記録を破ったときもペースメーカーを後ろから煽るような走り方をしていました。前に人がいると足が詰まるような走りになってしまうようです」

 新谷はコラム②で

紹介したように、今大会は「東京マラソンのためのハーフ」と位置づけ、前半は集団で走る予定だ。天候が悪くなれば別だが、マラソンの2時間19分前後のペースを意識して走る。安藤も3月のマラソン出場を控えているので、位置づけは新谷と同じだろう(練習のもって行き方は違うと思われるが)。

 それに対して五島は、特にペースは考えずに走る。遅いと感じればおそらく前に出る。そのときに新谷や安藤がどう反応するか。雨さえ降らなければ、置かれている立場の違いと、現在の体調を反映した興味深い戦いになるのだが。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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