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【日本選手権クロスカントリー2022プレビュー③三浦龍司】

東京五輪3000m障害7位入賞の三浦。「練習の一環」でも2連勝有力

小刻みなアップダウンでも平地と同じ動きができることが武器

 2月26日、福岡市の海の中道海浜公園で行われる日本選手権クロスカントリー。シニア男子(10km)は前回優勝者の三浦龍司(順大2年)への期待が大きい。昨年はトラックシーズンに入ると5~7月に専門種目の3000m障害で日本記録を3回更新し、東京五輪では7位とこの種目初の日本人五輪入賞を成し遂げた。苦手意識のあるロードにも積極的に挑戦し、1月の箱根駅伝では2区区間11位と、爆発的な走りはできなかったが、1年前よりも成長を見せた。

 今季最大の目標は7月の世界陸上オレゴン大会でのメダル獲得だが、三浦はどんな練習過程で、何を目的にクロスカントリーに出場するのだろうか。

●勝負にはこだわらないが競り合いになれば負けられない大会

 2連勝がかかる大会だが、三浦自身はそこまで勝敗にこだわっていない。だが競り合いになれば負けたくない気持ちが働く。順大の長門俊介監督の話を聞くと、その両方を狙っているようだ。

「本人から『何としても勝ちます』といったコメントは出ていません。あくまでも練習の一環、トラックシーズンに向けて脚筋力強化やスピード養成など、トレーニングの要素を考えての出場になります。それでもメンバーが良いので、駆け引きを楽しんでほしい。最後の競り合いになったら負けられないでしょうけど」

 1月2日の箱根駅伝は2区(23.1km)で区間11位だったが、1年時に比べれば「積極的な走りができた」という。箱根駅伝後は疲れも出ていたが、「予定の練習を回避することは一切なかった」という。東京五輪までは3000m障害用の練習に専念していた。五輪後に長い距離の練習に切り換えたときは、練習のダメージが大きくメニューを変更することもあった。それに比べれば順調ということになる。

 それでも「1月中は(出場予定だった全国都道府県対抗男子駅伝が中止になったこともあり)わりとノンビリしていました。2月になってエンジンをかけた感じです。それが今大会でどう現れるか。負荷が物足りない可能性もあります」と、長門監督は慎重な姿勢をとる。

 しっかり準備をして出場するわけではないが、前回2位の松枝博輝(富士通・28)ら強力なライバルたちと競り合うことで、力が引き出されるかもしれない。三浦の高校の後輩で1500m、3000m、5000mの高校新を樹立した佐藤圭汰(洛南高3年)もシニアに参戦してくる。負けるわけにはいかないだろう。今大会で競り合う走りをすることが結果的に、トラックシーズンに向けて良いトレーニングになる。

●クロカンへの苦手意識を払拭した前回の優勝

 三浦は高校3年時の今大会U20の部では8位で、30年ぶりに高校記録を更新した3000m障害に比べクロスカントリーに苦手意識を持った。大学1年時の7月に3000m障害で日本歴代2位をマークしたものの、前回大会前は「20位以内。記録は30分半」が目標だった。箱根駅伝で失敗(1区区間10位)し、ロードの課題を克服できなかったことも影響していたようだ。

 しかし終わってみれば29分10秒で、5000mで2度日本選手権に優勝している松枝にも競り勝った。「苦手意識があった種目で結果を出し、大きな自信につながったと思います」と長門監督。

 三浦は本来、クロスカントリーが走れて当然の選手と言っていい。

「小刻みなアップダウンや(芝、土、コンクリートなど)サーフェスの変化があるなかでも、三浦は動きが変わりません。そこが一番の強み。3000m障害も小刻みな変化があり、後半に脚力や瞬発的なスピードを残さないといけないところは似ています」

 昨年は日本選手権クロスカントリー後にケガもあり、トラックシーズンに直接的につながっていったとは言い切れないが、5月のREADY STEADY TOKYO(8分17秒46)、6月の日本選手権(8分15秒99)、7月の東京五輪予選(8分09秒92)と3000m障害で日本記録を連発した。

 その三浦でも、ロードで距離の長い上り坂になると平地と同じ動きで走りきることはできない。箱根駅伝2区でも権太坂の終盤でピッチ寄りの走り方に変えざるを得なかった。そういったこともあって、期待されていた「爆発的な走り」(長門監督)はできなかった。

 しかし1年時と比べれば箱根駅伝の結果も上向きになった。区間順位は11位だったが、タイムは1時間07分44秒と設定通りに走ることができた。長めの坂がある箱根駅伝2区に積極的な気持ちで挑戦できたのは、クロスカントリーへの苦手意識を払拭できた前回大会の優勝も無関係ではなかっただろう。

 今季の目標は世界陸上オレゴンでメダルを取ることだ。そのためには「世界陸上に挑戦する頃には、8分ヒト桁台前半を安定して出せる力をつけておきたい」と三浦は考えている。8分ヒト桁台前半は世界歴代でも20位台に入るレベルで、昨年なら世界リストトップである。

 簡単なことではないが、周囲が考えているレベルを一気に超えてきたのが三浦龍司という選手だ。3000m障害だけでなくクロスカントリーやロードの力をつけることで、走りのベースとなる部分が向上する。豪華な顔ぶれとなった今年の日本選手権クロスカントリーで2連勝を達成すれば、未踏の領域に挑戦する三浦のキャパシティと自信が大きくなる。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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