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女子100mハードルの福部が自身の日本記録を大きく破る12秒73。来年の世界陸上ブダペストの参加標準記録も突破。レース後の一問一答【全日本実業団陸上2022レビュー②】

 全日本実業団陸上(9月23~25日・岐阜メモリアルセンター長良川競技場)女子100mハードルで快記録が誕生した。福部真子(日本建設工業・26)が12秒73(+1.1)と、自身が世界陸上オレゴンで出した12秒82(+0.9)の日本記録を0.09秒更新。2位にもオレゴン代表だった青木益未(七十七銀行・28)が13秒03で入り、青木も従来の大会記録を上回った。福部は来年の世界陸上ブダペストの標準記録(12秒78)も初めて突破。新記録の要因や今後の展望などを、レース直後のコメントから抜粋して紹介する


●標準記録(12秒78)ぎりぎりの感覚だった

――今の気持ちは?
福部 狙っていた12秒7台を出すことができてすごく嬉しいのと、後半何回かハードルに当ててしまった部分があり、まだイケると感じながらの12秒73だったので、嬉しいが大きいですね。
――12秒73の数字を見たときは?
福部 ビックリです。えー!みたいな。
――世界陸上のときの日本新と、今回の日本新の心境の違いは?
福部 世界陸上は世界記録も出たし、私の組だけすごく良いタイムが出て、グラウンドコンディションが良すぎたのかな、と。今回の日本新は心の底からガッツポーズができました。正真正銘だー、と。
――まだまだイケる手応えがある73を出せた要因は?
福部 予選もそうでしたが、アップの時から体が重いな、とすごく感じていました。暑さもあって。正直、重たいというか、神経系がよくないな、というのと腰が落ちているな、と感じていました。予選は中・長距離用のスパイクで走りましたが、乗って来ない部分がありました。決勝は短距離用のスパイクで走りました。短距離用は少し腰が高くなるので。そういった面で予選と決勝を変えたことが、上手く作用したのかもしれません。
――走っていて12秒73が出た感覚がありましたか。
福部 (追い風に)押されているなあ、スムーズにハードルを越えているなあ、と感じていたので、自己新は出ると走っていて思いました。しかし最後の方はハードルに当ててから立て直しがきかなかったところがあったので、12秒80か78、ぎりぎりいったかな、くらいの感覚でした。
――ハードルに当てた理由は、これまでと刻み方に違いがあったからですか。それともまったく違う部分の理由ですか。
福部 どうですかね。スムーズに加速には乗っている部分がありましたが、自分のコントロール外のスピードが出ていたと思うので、リード脚の踵が当たっていました。スプリント力のなさが要因です。もう少し(脚の動きが)前さばきができていれば、もっと早い段階でリード脚を上げることができますし、タイムも更新できます。

●接地の2ミリ、3ミリのズレがわかるようになった

――地力や土台がついた、と感じられていますか。
福部 そうですね。予選が向かい風1.5mで13秒00だったので、決勝は少しでも追い風が吹けば12秒80くらいは狙えるのかな、と感じていました。予選はあまりにも悪かったのですが、それでも13秒00でしたから、地力はついているな、と。練習では狙える状態だったんですが、昨日、刺激を入れ過ぎちゃったかな、疲れちゃったかな、という部分が今日の朝になって不安になりました。
――練習のどういった内容で12秒80が狙えると感じましたか。
福部 いつも8m間隔(試合は8.5m間隔)でハードルを設置してタッチダウン(ハードルを越えて接地した瞬間)で区間タイムをとっていますが、8台置いて7区間中6区間で1秒を切っていました。4月のオダリク(福部の地元広島開催の織田幹雄記念陸上)前には10台で5区間が1秒切り、残りが1秒00とか1秒01だったので、オダリクで向かい風2.8mのなかで13秒21だったときの体の状態にやっと戻ってきていると感じました。(12秒82の日本新を出した)世界陸上のときよりパワーもスピードもついていると感じていたので、12秒80は出るかな、とは思っていました。
――今年になって0.4秒くらい記録を縮めていることは、どうしてだと?
福部 12秒台を出せる力はもともとあったのかな、と思っていて、なかなか噛み合わず、自分で体現させられなかったのだと思います。くすぶっていたのですが1回12秒台に入って体がスピード感覚とか、(動きの)感覚を覚えたら、そこからは上げやすかったです。
――噛み合って再現できるようになった一番の要因は?
福部 接地がミリ単位のところで敏感になれています。2ミリ、3ミリだけど接地が前になるから、あるいは後ろになるから乗り込めていないな、という部分が自分の中でわかるようになってきました。練習でもあまり誤差がなく、練習でも試合でも常に同じ動きができる。ロボットじゃないですけど、そういう感じでやれるようになったんです。再現性が上がれば無意識領域もどんどん上がってくるので、そういうところで安定してきているのかな。
――今回の記録で12秒6台のイメージもわいてきましたか。
福部 6台もちょっと見えてきましたね。これで73なら。
――これで、というのはハードルに当てた部分ですか。
福部 私、ハードルにはめったに当てないんです。当てると急に我に返って、そこからのレースが長くなってしまう。
――それも数ミリのズレというところですか。
福部 いえ、それに関してはインターバルランで前さばきができていない分、踏み切ったときの脚の高さという部分でもあるんです。海外の選手は私のヒザがこの高さにあるときすでにもう、越える準備をしている。(ヒザの高さや動きが)そこまで行かないと12秒5とか4は見えてきません。やっぱり、もう少し前さばきで行かないと。


●標準記録を破ったことで来年は8月にピークを

――世界陸上で経験したスピード感は、どう生きてきていますか。
福部 (世界陸上後)いつもスタートで腰を上げた瞬間にフラッシュバックするんです、パッと前に行かれる感覚が。3台目から一気に離されるシーンも未だに鮮明に覚えている。セット(用意)と言われたときから、斜め前に絶対に(世界トップ選手たちが)いると意識してやれています。
――今日のレースでも、スタートからトップに出ていましたが、斜め前に誰かいるイメージで走っていた?
福部 そうですね。でも絶対に青木選手が来るとわかっていたので、絶対に抜かされないようにしないと、と思って走っていました。
――世界陸上ブダペストの標準記録(12秒78)を切ったことについては?
福部 めちゃ嬉しいです。ゴールしたあと、青木選手が『絶対に私も切るから』と言ってらっしゃいましたから、また一緒に世界陸上に出たいです。そして12秒台の選手がもっともっと増えてきたら、国内レースの緊張感が全然違ってきます。私も(世界の)上に行きたいですし、みんなで行きたいですね。
――みんなで、と言うと、(復調過程でアドバイスをしてもらった)寺田明日香(ジャパンクリエイト・32。日本人初の12秒台)選手への思いもある?
福部 寺田さんありきの100mハードルだと思っています。早く元気になっていただいて、来年また3人で競えたらいいな、と思っています。
――冬期練習に入る前のタイミングでこの記録を出せた意味は?
福部 とっても大きいですね。今シーズンは結構ハイアベレージで走っているので、シーズン終了後は1カ月くらい休もうかな、と思っています。冬期の入りを遅めにして、4月末のオダリクくらいまで冬期練習をして、8月(世界陸上ブダペスト)にピークを合わせられます。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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