2021年1月31日「風をよむ~ ワクチン外交の裏側」
ここは、800年の歴史を誇る、イギリスのソールズベリ大聖堂。大勢の人が集まり行われているのが・・・ミサならぬワクチン接種です。
新型コロナの死者が累計で10万人を超えたイギリス。有名な大聖堂も「史上最大」といわれるワクチン接種作戦に、一役買っているのです。
街には、接種を待つ市民の長蛇の列が・・・
英国・92歳女性「ワクチンを信じているし、害はないと思うわ」
イギリスは12%以上の国民が接種を受けている、いわば”ワクチン先進国”。これに比べてフランスは、未だ2%未満です。接種に同意する、と答えた人も40%と、他の先進国と比べ低調、その理由は・・
パリ市民「ワクチン全般に対する不信感をもっています。このワクチンは急いで作ったので、なおさらです。」
パリ市民「政府はワクチンを無理強いしようとしていて、どうも怪しい」
フランス国民には、ワクチンへの不信感が強いようです。そんな中、ヨーロッパで深刻な問題になっているのがワクチン供給の遅れ。
EU・フォンデアライエン委員長(26日)「EUは世界のために、新型コロナワクチンの開発に何十億ユーロも投入しました。今こそメーカーは自らの責務を果たすべきです」
EUに対し、イギリスの製薬会社、アストラゼネカは3月までに8000万回分の供給で合意していましたが、ここにきて、3100万回分と突然、半分以下に減ると通告。これにEU側が猛反発したのです。
EUは、EUの域内で作られたワクチンが、域外に輸出される場合は、事前の報告を要求、”囲い込み”ともとれる姿勢をみせました。
各国が神経をとがらせるワクチン獲得競争。そんな中、世界最速で接種が進んでいるとされるのが、イスラエルです。
イスラエル・ネタニヤフ首相「我々の健康にとって大きな一歩。ぜひワクチン接種を受けてください」
高齢者などから始まったワクチン接種はすでに34%が1回目を終了。この24日からは、学生など若年層への接種も始まりました。イスラエルの国民皆保険制度で個人情報を管理し、接種の順位づけを効率よく行っている、といいます。
一方で、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に住むパレスチナ人は、いまだ接種を受けられず、国際人権団体からは「差別的」という指摘も。
こうした動きの背景には、総選挙を3月に控える事情もあるようです。
さらにワクチンをめぐっては、大きな課題が浮上しています。
国連グテーレス事務総長(25日)「ワクチンは高所得国にはすぐに届くが、貧しい国々には全く届いていない」
25日、国連のグテーレス事務総長は、ワクチンの分配が、重大な不公平を生んでいると指摘、先進国に協力を呼びかけました。
これに呼応するように、同じ日、中国の習近平国家主席は、
中国・習近平国家主席(25日)「発展途上国がワクチンを入手でき、費用負担できるよう促進し、世界が早期に感染症に完全勝利できるよう後押しする」
新興国を中心にワクチン供給の推進に言及。中国はすでにアフリカ諸国など60カ国以上にワクチンの優先提供を約束しています。
その中国とワクチン外交で火花を散らしているのが、インドです。
製薬産業が盛んなインドでは、国産ワクチンの製造に加え、アストラゼネカのワクチンも国内で製造。この20日からアストラゼネカのワクチンをブータン、バングラデシュなど5カ国に無償提供しました。
中国も、これに負けじと、インドと対立するパキスタンへのワクチン無償提供を決定。
カシミール地方の領有権問題など緊張が続く中国とインド。ワクチンをテコに、影響力拡大を図りたいという狙いが、垣間見えます。
こうした、ワクチンを巡る政治的な動きは、他の地域でも・・・
自国で開発したワクチンで、ワクチン外交を目論む、ロシアのプーチン大統領は・・・
ロシア・プーチン大統領(27日)「新型コロナ感染拡大と闘いワクチンを入手しやすい状況を作っていくために、世界が力を合わせるべきだ」
そのロシアはすでに国産ワクチン・スプートニクVを、アルゼンチンに供給。メキシコやイランへも供給する方向です。
イランといえば、アメリカとは犬猿の仲。その隙を突いて、ワクチンを手土産に、存在感を強めたいというロシアの打算ものぞきます。
本来なら、全世界が一つに協調して立ち向かうべきコロナ禍。しかし、世界の動きは、逆に分断を深めているかのようにも見えます。
ワクチンを巡るこうした状況を、国連のグテーレス事務総長は、
国連・グテーレス事務総長「全世界が持続可能な回復を果たすには、全ての人に効果の高いワクチンが行き渡ることが必要です。これが世界経済を再開させる最速の方法なのです」
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