流産ともいえない流産になった時の話⑤
これは誰に伝えるでもない、ただの覚え書きだ。
私が勝手に喜んで、勝手に落ち込んだ2週間を忘れたくないがために書く文章だ。
人によってはこれを読むことで落ち込んだり気分が悪くなったりするかもしれないので、気をつけてほしい。自己防衛は大事。
12月8日 家
妊娠初期の出血はよくあることだと知識を得ていた検索魔の私は、同時に鮮血が続くと危ないという知識も持っていた。
トイレに行く度に鮮血を見て、手のひらが冷たくなっていくのが分かった。
午前8時15分。妊活を始める時にもお世話になった、産婦人科の病院に電話をかけた。
この日は日曜日だったから、産婦人科に繋がらなければ隣町の総合病院なら時間外で繋がるかもしれないと考えていたら、コールが3回鳴り終えたところで優しそうな女性の声が聞こえた。
「いかがなさいましたか」
妊娠検査薬で陽性が出たこと、初診は明日の予定になっていること、起きてから鮮血が止まらないことをたどたどしく伝えた。
「当直の先生に確認しますね」
聞いたことはあるけど曲名は知らないクラシックの待機音が流れる中、自分の心臓の音の方がずっと大きく聞こえていた。
1秒、2秒、3秒……30秒を超えたあたりで時間を数えるのはやめた。
ずっとスマホを持っていない方の手のひらに爪を立てていたことに気がついたのはこの時で、広げた手のひらにはくっきりと爪跡が残っていた。
爪痕をさすっていると、名前も知らないクラシック曲が途切れた。
「今日のところは安静にして、今よりも出血の量が増えたり腹痛がひどくなったら、また連絡をいただけますか」
あったかくしてね、という声がとても優しく響いて、電話が切れた。
それからは、こたつに入って横になっていた。
仕事が休みでゆっくりと起きてきた夫に、出血したことを伝えて、目を瞑る。血の感覚と心臓の音が鮮明になった。
出血の感覚はいつまでも止まらない。腹痛は少しずつ強くなっていく。
10時にもう一度病院に電話をしたけど、やっぱり言われることは変わらなくて、とにかく安静にするしかなかった。
このときの電話は寝室からかけていたから、そのまま真っ暗な寝室でしばらくぼーっとしていた。不安と、悲しみと、わずかな希望がごちゃごちゃと心の中で絡まっていた。
なかなかリビングに戻ってこない私の様子を夫が見にきたので、たぶん30分くらいはそこにいたのだと思う。
それからは朝昼兼用の食事を済ませて、トイレに行く時以外はこたつで横になっていたら、いつの間にか寝てしまったようだった。
痛みで目が覚めたのは15時半だ。
きゅっと内臓を強く掴まれたような痛みと、明らかに増えていると感じる出血の感覚。
トイレでナプキンを見ると夜用のそれが真っ赤に染まっていた。
16時5分。3度目となる電話をしたら、出血量が増えているのが心配なので今から来てくださいと言われた。
夫はついていこうかと言ったけど、ついてきても時間外で内診くらいしかできないだろうからと断った。
玄関先で、もしだめだったら今晩は近所の天ぷら屋さんかお寿司屋さんに行こうと話をして、外に出た。
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