中東のいまを誰よりも知る、須賀川拓監督と高橋和夫氏(国際政治学者) が登壇!『BORDER 戦場記者 × イスラム国』 トーク付き試写会イベントレポート
いよいよ3月15日(金)から開催されるTBSドキュメンタリー映画祭に先駆けて、上映作品の一つである『BORDER 戦場記者 × イスラム国』がいち早く鑑賞できる、『BORDER 戦場記者 × イスラム国』トーク付き試写会イベントが3/6(水)都内にて実施されました!(D会議主催)
登壇者は、同作の監督であり、世界の紛争地域を飛び回る TBS「NEWS23」専属ジャーナリストで昨年 TBS の人気バラエティ番組「クレイジージャーニー」に戦地から生中継で出演し、その緊迫したリポートが大きな反響を呼んだ須賀川拓監督。そして、トークゲストには、中東情勢に詳しく、長年にわたり自書などでも現地のリアルを発信し続けてきた国際政治学者の高橋和夫氏!
トークイベントの前には、共感シアターにて<イベント直前生セッション>も実施されたため、その模様はぜひ以下よりご視聴ください!
>ここからは、試写会後のトークイベントの模様をご紹介します!
須賀川監督が手掛けた最新作にして、過激派組織イスラム国の“いま”を追いかけた今作では、シリア奥深くの砂漠にある難民キャンプを取材し、壊滅したと思われていたイスラム国の極めて危険な思想にいまだ共鳴する人々がいる現実をあざあざと映し出しています。映画本編では終始シリアスな表情を見せている須賀川監督ですが、上映が終了し観客からの大きな拍手で迎えられると、思わず笑顔に。本作で取材したシリアについては、「ずっと行きたい国でした。もともと取材しようとしていた2019年頃は、イスラム国の活動はだいぶ下火になっていて話題になりづらかったんです。戦争は終わった後が地獄だけど、終わった途端に報道がなくなってしまうんですよね。イスラム国についても報道がガクンと減ってしまった中で、こんな地獄のような場所があることを伝えたくて。安全管理の面などいろいろ準備と調整を繰り返して、ようやく取材に行くことができました」と、本作の取材に対する熱い思いを語りました。
映画の本編では、難民キャンプを訪れた須賀川監督が、子供たちに話しかけた際に「お前の首を切り落としてやる」と衝撃的な言葉をかけられる場面も登場します。須賀川監督は当時を振り返り、「石を投げられたり、嫌いだとか出ていけと言われたり、ある程度のことは予想していましたが、まさか子供たちに『首を切ってやる』と言われるとは思わなかった。映画でも僕が動転しているのが伝わると思いますが、消化するのに少し時間がかかりましたね」とショックを受けたことを明かしました。これには高橋氏も、「こうしてイスラム国の思想が脈々と受け継がれていることは、わかってはいたけれども、映像で現実として突きつけられると、心を突き刺されるような感じがありますね」とコメント。さらに「須賀川さんは結構ヤバい所に取材に行っていると思っていて、すごく評価している」と、あらためて須賀川監督の姿勢を絶賛しました。
海外メディアに比べ、日本のメディアが戦地含む危険エリアへの取材報道に消極的な状況を問題点とした高橋氏に対して、須賀川監督は、「僕はありがたいことに結構自由にやらせていただいていています。ちゃんと安全なルートや装備を確保して、何か起きた時のためにプランCぐらいまで作っているので、それで会社が行きたいところに行かせてくれているのかな」と現状を分析した上で、「組織だからこそお金で安全を買えることは間違いなくある。組織に所属していれば、なおさら危険地の取材はやりやすい環境にあるはずなので、僕はやったほうがいいしやりたいと思っています」と、専属ジャーナリストとしての活動について自らの考えを力強く話しました。高橋氏はそんな監督に対し、「現場に行きたい記者は多いけど、なかなか難しい。須賀川さんのようにリスク・アセスメントをしっかりやって取材が実現すれば、『TBSで取材できるなら我が社でも』と続くところがあるかもしれない。ぜひ須賀川さんには、これからも“ヤバくない程度にヤバいこと”をやって欲しいと思っています」とさらなるエールを送りました。
続いて行われた観客からの質疑応答では、2人に次々と質問が寄せられました。
危険な紛争地域での取材について、現場での対応やその時の心境について問われた須賀川監督は、「僕は現場に行くと入り込んでしまうので、やばいときは襟首をつかんで引き戻してくれとクルーや同行者に伝えてあります。ちゃんと安全対策はしていきますが、危険が迫ってきたときは、結構テンパっています(笑)」と本音を明かしました。また、本編で現地コーディネーターに「カメラを止めろ」と言われても撮影が続行されている場面について質問されると、「実はカメラマンには、1回目の『止めろ』では止めるな、2回目の『止めろ』では絶対に止めろ、と指示しています。現地コーディネーターや通訳が最初に『止めろ』というときはある程度安全を見積もっているので、そこで止めちゃうと撮るべきものを、撮り逃してしまう可能性がある。だから、2回目の指示で止めろと伝えてあるんです」と、撮影の裏側について語りました。
そんな過酷な取材活動を続ける原動力を問われた須賀川監督は、「むしろ先生の原動力をお聞きしたい!」と、さまざまな取材に赴き危険な体験も経てきた高橋氏へさらに質問を投げかけました。高橋氏は、「知的好奇心ですかね。僕はテレビ番組で解説をすることも多いのですが、ちゃんと勉強してしっかりわかりやすく伝えなければ、というのも原動力の一つだと思います。一人でも多くの人に伝えたいですし、例えば台所でお皿を洗いながらでもパレスチナ問題を考えてもらえるように、さらにわかりやすく伝える方法を考えていきたいです」と、活動のモチベーションについて語りました。「一人でも多くの人に伝える」ことに関して、須賀川監督は「僕も似ているかもしれません」と前置きした上で、「本作で取材したような場所には世界の大手メディアが取材に来ますが、日本ではニュースにならないことが多いです。だけど日本人の僕が現地に行くことで、一気に共感してもらいやすくなる。日本は共感力が高い国民性で、良くも悪くも何かきっかけがあるとすごく共感してくれる人が増えるんです。僕がそのきっかけになれるんだったら減るもんでもないし、減るのはスニーカーの底ぐらい。どんどん現場に行って、日本で世界の情勢を知ってもらうきかっけになりたいというのが、原動力ですね」と熱弁しました。
トークイベントの最後には、両者から観客と劇場での上映を心待ちにしている人々へメッセージが贈られました。高橋氏は、「体を張って、頭ではなく足で考えた報道をしてくれるジャーナリストは本当に貴重です。私は須賀川さんをずっと応援したいと思っているので、須賀川記者・監督に熱いご支援をお願いします!」と須賀川監督を猛プッシュ!対する須賀川監督は、「このご時世、配信もあったりメディアの報じ方が多様化しているなか、劇場にお金を払って時間をかけて観に来てくさる方は本当に貴重だなと思います。これからもこうした取材は続けて、1年に1本は映画を作っていきたいですね。作品をご覧になった方のご意見もぜひうかがいたいなと思っています」と、今後の新作ドキュメンタリー映画製作についても意欲を見せました。
以上、トークレポートでした!!
★『BORDER 戦場記者 × イスラム国』
世界を震撼させたイスラム国、その過激思想は“生きていた”
「お前の首を切り落としてやる」。シリア奥深くの砂漠にある難⺠キャンプで子供たちが記者に放った言葉は、 ただの脅しではなく、血の滴るナイフを突き付けられているかのようにリアルだった。壊滅したはずの過激派組織 イスラム国。しかし他者との共生を拒みながらも、世界に広がった極めて過激な思想に、いまだ共鳴する人た ちがいる。いったい、なぜ。忘れられた地で、記者が「境界 BORDER」を歩いた。
監督:須賀川拓
3 月 20 日(水・祝)15:00 の回上映後舞台挨拶決定!
【登壇者(敬称略)】
監督:須賀川拓
ゲスト:白川優子(国境なき医師団)
【会場】ヒューマントラストシネマ渋谷