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SF最強チャンピオン野尻智紀はなぜSUPER GTで勝てなかったのか?

SUPER GT開幕目前ということで、シリーズタイトル最右翼の野尻智紀について、誰しもが気になっている事を個人的な考えを元に推測していきたいと思う。

スーパーフォーミュラは共通モノコック、タイヤワンメイク、違うのはエンジンだけながら、規定によりほぼ同一性能のエンジン。従って、セッティングとドライバーの技術で順位が決まるのは周知の通りだ。

ということは、スーパーフォーミュラで速い以上、SUPER GTでも速いのは当たり前。タイヤかマシンが余程パフォーマンスしていない場合を除いて結果が出るはずだ。

野尻智紀と同じ
ホンダ・NSX×ブリヂストンのパッケージのチームは
チームクニミツ(STANLEY)とREAL RACING(Astemo)
それぞれ2022年シーズンはランキング3位と4位だ。

ところが野尻智紀擁するARTAは12位。これより下の順位は2度のリタイアがあったZENT CERUMOとタイヤが発展途上のRed Bull無限、Moduloのみである。最強パッケージの1つであるNSX×ブリヂストンのARTAにおいてこんな事があってはいけない。

2022年のARTAの低パフォーマンスの原因はなんなのか。
そこで私はこんな仮説を立てる。

ARTAは終始セッティングに迷い続けたのではないか

ARTAは2022年シーズン途中にチーフエンジニアがライアン・ディングルから伊与木仁へ交代している。

ライアンは優秀なエンジニアだ。
一時期は予選一発はあるものの、決勝はまだまだだったが、21年終盤のオートポリス、もてぎの連勝からわかる通りライアンの作った8号車は確かに速くて強くなっていった。

ではなぜ8号車のエンジニアは交代することになったのか。
ここからは完全な推測であると理解して読み進めてほしい。

ライアンは戸田レーシング等で日本でのキャリアをスタートさせると、レーシングプロジェクトバンドウ、チームルマンを経て、セルブス・ジャパンでパフォーマンスエンジニアやレースエンジニアを歴任した。

そして、2022年からトヨタチームのWECのエンジニアも担当することになる。エンジニアリングは勿論のこと、日本語、英語の双方を話せることが評価されてのことだと思われる。

ところが、このWECのレースエンジニア就任から程なくしてARTAレースエンジニアから外されることになる。

何故だろうか。
私はライアン・ディングルがHRC、もっと言えば本田技研工業に話を通していなかったのではないかと考えている。だからこそ、シーズン途中の離脱となったのではないだろうか。WECに合流するまでのシーズン途中まででもライアンで行きたい…とARTAが思っていたとは考えにくい。となると
「いきなり他社の海外カテゴリーと兼任なんて道理が通らない。ライアン君分かるよね?」というわけだ。

そこで白羽の矢が立ったのが大ベテランの伊与木仁だ。
伊与木は2021年シーズンにホンダ契約のエンジニアとして、GT500クラス5台のNSX-GT500を統括する立場で活躍していた。2022年はGT300クラスのBUSOU Drago CORSEにてチーフエンジニアとして活動。それ以前にはチーフエンジニアとしてTEAM KUNIMITSU2度のチャンピオン獲得に貢献している。
(山本尚貴×ジェンソン・バトン組、山本尚貴×牧野任祐組)
更に遡ればARTAの総監督、鈴木亜久里が現役時代にもエンジニアとして傍に居続けた。

その縁もあり、ARTAを運営する株式会社アルネックスの取締役も務めていて、HRCのエンジニア、Drago CORSEのエンジニア業務にしても、それぞれがアルネックスと業務提携契約を結び、出向という形で行われていたと思われる。

BUSOU Drago CORSEはスポンサーフィーの不履行(という噂)でDRAGO CORSEがシーズン途中で撤退。伊与木にしてもアルネックスに役員として戻っていたところ、ARTAのチーフエンジニアが空席に…伊与木仁なら実力には申し分無いしアルネックス所属なら出向も容易いという訳である。

さて、話を本題に戻そう。
ライアンらエンジニアと野尻、福住らが作り上げた8号車はそもそも2022年のスタートから前年終盤のようなパフォーマンスを出せないでいた。
前年のようにシーズン後半戦に成績向上する可能性もあったが、ライアンが上記の流れで離脱。
第4戦富士から伊与木の元で1からやり直しとなる。
名伯楽の伊与木仁といえど、他人が作りかけた車を高々5戦でトップパフォーマンスに持っていくのは簡単では無い。
結果としてシーズンを12位で終えた。
事実、伊与木は昨季途中のインタビューにて現在のGT500についてこう語っている
「コンピュータを駆使して全てを調整していくしかない。自分もコンピュータは使えるけど、若い頃からそれを手にしている世代のようには簡単にはいかないね。本当にハードワークだよ」そして、「将来的なことは何も決まっていないんだ」と。

これはARTAとアルネックスそれぞれのトップである鈴木亜久里が「とりあえず伊与木さんお願いします。後任は(メンテナンスを担当する)セルブス・ジャパンのエンジニアを連れてきますから」という事だと思われる。

さて、混迷を極めるARTAエンジニア問題だが、Aドライバーの野尻智紀はスーパーフォーミュラではポールポジションとポディウムの常連であった。

それを支えたのが一瀬俊浩エンジニアである。
一瀬は前年に野尻とともに最年少でスーパーフォーミュラのチャンピオンに輝いたエンジニアである。
その功績を評価され、セルブス・ジャパンから無限へと転籍している。

ARTAの野尻智紀は混迷の象徴。無限の野尻智紀は最速の象徴。あまりにも皮肉である。

ARTAは2022シーズン終了とともにメンテナンスを長らく担当していたセルブス・ジャパンとも契約を満了。今季から無限とジョイントすることになった。

これも邪推ではあるが、セルブス・ジャパンのピットワークのミステイクは21年SUGOの「トリプルピット事件」に始まり、22年にも8号車、55号車両方で連発され懦弱さを露呈していた。

それにスポンサーのオートバックスが難色を示したのではないだろうか。

オートバックスはメインスポンサーとして、ARTAを支えている上に主力商品のPIT-PROのロゴをスーツに入れている通り、ピットワークに力を入れている印象がある。
車が壊れないこれからの時代、用品の買い替えも減少していくだろう。オートバックスとしても用品に変わってメンテナンスで稼いでいななくてはならない。
2021年のジョイフル車検・タイヤセンターを始め、オートバックスは2019年には滋賀県で整備工場を1店舗運営する企業を、2020年には三重県で整備工場を4店舗展開する企業をそれぞれ子会社化している。
オートバックスロゴが大きく入ったの作業着のメカニックが何度も何度も、ど派手なピットミスを繰り返すことは我慢ならなかったのではないだろうか。

もちろんだからといって長年続いたパートナーシップが簡単に切れたとは考えにくいが、鈴木亜久里としても、一定のケジメをつけたいと思い、セルブス・ジャパンと袂を分かったのではないか。そして、レッドブルジャパンが契約満了となった無限に目をつけたのではないだろうか。

いつからこのプランを想定していたのだろうか。(あくまでも空想です。)
若き天才エンジニア・一瀬俊浩は無限に籍を移している。
セルブスと縁が切れても野尻とのタッグは途切れない。

だから私は思う。
今年の野尻はちょっと凄いぞ。


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