企業の戦略、日本の戦略、個人の戦略

BCGの元パートナーの菅野寛氏が書いた「全社戦略がわかる」という本を読んだ。理論と実践がわかりやすくブレンドされた大変良い本だった。

全社戦略と個別事業の戦略は違う。求められるスキルもまったく違う。個別事業をうまく動かせた人が全社をうまく動かせるとは全く限らない。CEOが事業部長の仕事をするのは例外時以外は全体最適ではない。

PPMが一世を風靡したのは、事業を「シェア」と「市場成長性」という切り口で並べて比較できたから。また、キャッシュをどう振り分けるか、という指針を与えてくれるから。
一方で、PPMを使いこなすのは難しい。軸は必ずしも上記でなくてよく、自社に合ったものを選ぶべき。経営の意思が必要、単なるお勉強になりがち。「搾り取られるキャッシュカウというレッテルが貼られた部署で誰が働きたいか。。。「犬」はグレーハウンドにすべき」、、、というハロルド・ジェニーンの指摘。

複数事業を持つときのキーワードはシナジー。シナジーは、「強み (コアコンピタンス)の共有」と「活動の共有」の2種類。コアコンピタンスは厳密に定義しないと失敗する (ブリタニカ国際大百科事典)。
ボストンサイエンティフィックは、医療機関とのリレーションを強みとして、販売に特化。ベンチャーと買収・提携 (イノベーションは彼らに任せる)。GEのシナジーは、トップ人材のレベル向上への集中投資・最前線の現場で使える共通コンセプトを重視 (きわめて薄いシナジー)。トヨタのコアコンピタンスは、自動車が持つ特殊性 (大量生産、大量のサプライヤー、品質の要求高、使用期間の長さ) で発揮。

全社ビジョンはどの会社も持つべき (投資会社除く)。構成要素は、一般的には、理念/ミッション、目標、戦略、経営インフラ、価値観/文化/行動規範。異なる事業を営んでいる我々がなぜ一つの傘の下にいるのか。何を"やらない"のか。 (ミッション→ビジョン→Valueの話は特になし)
良いビジョンは、ビジョンにより、ステークホルダーが認識/価値観を持ち、結果的にアクションを起こし、成果が生まれる。ビジョンが浸透するには時間がかかる。BCGは、Insight/Impact/Trustが、従業員に染みついている。
ビジョンが浸透している企業は現場まで良い行動をとれる。J&Jのタイレノール毒物混入への対応。スターバックスではシュルツがCEOを退いた後、ビジョンに反しピザを売り始めたが、シュルツ復帰後、第三の居場所となるよう軌道修正。

企業レベルの戦略も大変難しいが(社内政治のコストがかかるが)、国レベルでは、戦略の立案も実行もプロセスそのものが政治になる。学生のとき、公務員の説明会で担当者の経済成長戦略を面白いと思い、「戦略は実行も大事だと思うが、どうしているのか」と聞いたことを思い出した。その担当の方は聡明で説明全般が明晰だったが、この問の答えは、学生心にも曖昧だったように記憶している。企業レベルでも事業をつぶすことは難しいが、国レベルでは、特に民主主義国家では、何かを切り捨てることは本当に難しい。リーダーが強く、信頼されていないといけない。

個人レベルでも、ミッション・ビジョンが明確で、コアコンピタンスが他と差別化されていれば強い。厳密に定義すべき。

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