2021年買ってよかったレコード
あけましておめでとうございます。2021年は今になってちょっと反省しているほどたくさんのレコードを買うことができたので、総合的に "レコードとして" 買ってよかったなというお気に入りのものを何枚か選んでみようかと思います。
その前に去年公開しました年間ベストの方を少し振りかえってみます。まだチェックしていないという方、この機会にどうぞ。
実は、ちょうど去年の今頃に「2021年はこんな音楽を中心に聴いていくんだろうなー」と薄っすらと予見していたところと比べると、けっこう遠いリストが出来上がってきたなという印象が去年の自分のベストにはあるのです。
一番大きなところでは「LPレコード中心のベストにならなかった」ということで、例えば一位のYumbo、2位のWorld Standard、さらに10位のTsuki No Waは全てレコ―ドでなく(おまけにストリーミングですらなく)、CDを買って聴いた音楽です。さらに2020年はエチオピアのTsegue Maryam Guebrouという素晴らしいピアニストの音楽に出会ったことを筆頭に、非英語・日本語圏の作家の音楽へ興味が強まったことから、例えば「2021年はディスクユニオンのラテン/ブラジル/ワールドミュージック アカウントの投稿をつぶさに追ったり色々聴いてみよう!」等々思いはあって、実際にそっち方面で気に入ったレコードを買うこともしばしばあったのですが、蓋を開けてみたらそういう一年間の動きがベストには全くと言っていいほど反映されませんでした。あとは一応の得意ジャンルとして実店舗でもオンラインでも最優先でチェックしている70年代を中心としたSSW作品もベストには1枚も入らず。我ながらまさかというほかありません。
ということで、年間ベストがA面だとしたら、この投稿が2021年の私の音楽周りの動きのB面となるような、そんな気持ちも込めましてこれを書きたいなと思い立ち、始めることとします。出会った順でいきたいと思います。
Ed Drake『Friend of Mine』
Holy Kiss Records – HK - 03
1977
ディスクガイド「歌追い人たちのアメリカ」と、「ブラックホーク99選」というリスト。それぞれからめぼしいものは全てDiscogsのウォントリストに入れて、なんとなくのジャケットの雰囲気を覚えて、ショップやオンラインで出会えたら(気づけたら)ラッキーという流れをメインに普段SSW作品を探しています。掲載作品は多くがリイシューなしの廃盤となっているのは当然のこと、超難関作品もちらほらありますが、現実的な値段で買えて素晴らしい作品もまだまだたくさんあります。例えばこのミシガン州のシンガーソングライターEd Drakeによる唯一作。「歌追い人のたちのアメリカ」掲載作品で、新宿のユニオンで比較的お手頃価格で見つけました。
クリスチャンミュージックサーキットを周り続けていた作者が旅の途中で産み落とした小品、らしいんですが、それにしては録音が凝っているように聴こえて面白いです。1曲目に代表される伸びやかなサックスの空間配置とか、2曲目のデッドなドラムに対してクリアで前面で鳴るギターの対比が効いたアンサンブルとか丁寧にポイントを突かれる感覚があります。ソングライティングもめっぽうよくて、最初もっとアシッドなのを想像していたら、Jackson Browne等を彷彿とさせるように割と闊達な雰囲気なのも意外性がありよかったです。
Tsegue Maryam Guebrou『Spielt Eigene Kompositionen』
Mississippi/Change Records – MRP-025
2012
私の中でオールタイムベスト級の存在になっているエチオピアのピアニスト Tsegue Maryam Guebrou。
エチオピークスシリーズの1枚としてコンパイルされた編集盤中の頭5曲が、このレコードでは聴けます。彼女のレコード作品は、本作を筆頭に10年代のリイシュー盤でさえ高騰していてどうしたものかと半年くらい悩みましたが、DiscogsでコンディションVGのやつ(ノイズ少しあるよという注記付き)がやや値下がりしていたので、えいやっと購入。届くまでけっこう不安でしたが、クリーニングしつつ、高頻度で聴いていたら静かなピアノ演奏が気持ちよく聴けるようになりました。
ちなみにエチオピークスシリーズに収録されている残り後半をアナログで聴くにはさらにもう一枚買わなきゃいけないんですが、こちらのが相変わらずお値段しますね…どこかのレーベル、そろそろリプレスどうですか??…
Gianluigi Trovesi Trio『Cinque Piccole Storie (Five Small Stories)』
Dischi Della Quercia – Q 28010
1981
イタリアのサックス/クラリネット奏者 Gianluigi Trovesiがリーダーの81年作。これがなかなか強烈な作品で、ディスクユニオン御茶ノ水店で偶然掘り出した時は超興奮しました。もうこれはどう見てもジャケットから才気がダダもれているのが皆様も確認できることと思われます。
秩序と無秩序の境を常に揺れながら疾走するようなエクスペリメンタルジャズ/フォークロアとでも言いましょうか。サックス、クラリネット、フルートを操るリーダーGianluigi Trovesiはすごくキレイにフレーズを弾くこともあれば、とんでもないインプロに突入することもあり、ドラムスは割合きっちり刻んでいて、チェロはその中間というトリオのバランス感覚が秀逸です。ドラムスを聴くと特にこのレコードの録音の素晴らしさもよく分かりますね。
けっこう最後まで悩みながら年間ベストからは選外にしてしまいましたが、今聴くとやっぱ入れとけばよかったかもという気もしてきます。
澁谷浩次『Lots Of Birds』
Small Cow Fields Records – SCFLP_4001
2021
総合してこれが私の2021年ベストレコードかな。音楽的なところは年間ベストをご覧ください。
ジャケット、レーベル、盤面、付属ブックレット、インナースリーブその全てのデザイン、作り・質感があまりに完璧すぎて、このレコードを棚から取り出して聴くという一連の動作全てに喜びを感じてしまう稀有なレコード。フィジカルそのものを讃えすぎると、ストリーミングとの二項対立みたいなそういうくだらない話の萌芽を感じてまあ嫌なんですが、レコードというメディアが私にとってかけがえのない存在なのは確かです。
そういえば、このレコードは180g重量盤 × カラーヴァイナルと普段私ができるだけ避けたい要素の掛け算で構成されているわけですが、なんならそれがむしろ魅力の一要素として転化してしまっている気もしていて末恐ろしく感じます。単なるご都合主義と言われることに異論はありません。
Alfred Harth 『This Earth!』
ECM Records – ECM 1264
1984
ECM Recordsのドイツオリジナル盤が好きです。いま巷で売られている新譜からしたら考えられないくらい極薄のジャケットと盤面。そんな見かけによらず針を落とした時のキリっとした音の立ち上がりには毎度惚れ惚れしてしまいます。70年代作品のジャケのラミネートの剥がれ具合も味わいがありますし、なんなら今や深緑のあのレーベルを目にするだけで幸福をもたらす脳内物質が分泌されることに…
そんな中でこちらの作品は、ECM-1002のフリーインプログループJust Musicにも参加しているAlfred Harthが83年に残したリーダー作品です。Just Musicの作品も含めてECMでAlfred Harthの関与した作品は、なぜかCD化されることなく、ストリーミングにも存在しない完全廃盤状態に追いやられてしまっているのが現状です。(マンフレート・アイヒャーとの関係性に何かあったか?という噂もささやかれている。)
それでも信頼のおける情報筋からのレビューを見てしばらく聴いてみたいなと思っていたのでした。
ピアノのPaul Bleyを始めとして、名うてのメンバーによる音響空間全体に音を散らばせて空間を拡げるような演奏の中心を、Alfred Harthのサックスが貫くアンサンブルは痛快かつ美しいです。Maggie Nicolsの器楽的なボーカルもポイント(一気に主役に躍り出る最終曲もまた最高!!)。ジャケットの質感の変遷とかまでは追えてないんですが、70年代の諸作とは異なったラミネートなしのザらッとしたジャケットの質感、デザインも大変クールで雰囲気があり、一躍お気に入り盤となりました。
たくわん『らくがき』
Not On Label – AOLS-76
1980
2021年、数少ない私の実店舗ディグで最大の衝撃と言えばこれでした。東陽町ダウンタウンレコードに初めて訪れたときの事。
ショップの紹介用ポップを購入後もつけたままにしてくれたので、まずは全文ご覧ください。貴重な情報です。
Excellent ガリ刷り楽譜集付き
保育士でシンガーの関根照子と楽曲提供者たくわんのユニット、らくがき80年自主制作アルバム。自作ラブソング&童謡をダルなソプラノ・ヴォイスで歌ったアシッド・フォーク作品。
これに加えて、インターネット上で出てくる情報はDiscogsでの最低限のプロフィール(これまで取引はなし、7月に見たときは1件¥29,999という超いかつめプライスで出ていたが取り下げられている)と、ダウンタウンレコードのTwitter投稿くらい。
あまりに気になりすぎて試聴して2曲目の「憧れ」にやられました。清廉なアコギのストロークに並走するマンドリンは繊細かつ音響的で、関根照子のアシッドに揺れるボーカルを引き立てます。この年代のアシッドフォーク作品を聴くと気になってしまうことの多い日本語詞の載せ方も流麗で素晴らしい。
4曲目「愛の証し」も「憧れ」に並ぶ名曲でこちらは実にフォークロックらしいエレキギターが鳴っています。上記2曲から分かるに、基本的にカラっとアップテンポな楽曲の方が、ボーカルの声質的にウエットに傾き過ぎずバランスがいいですね。
名盤級のラブソング集となっているA-side「道しるべ」に続く、B-sideのオリジナル童謡集「おさなご」もけっこう粒ぞろいの出来で素晴らしいです。
多分実際に関根照子さんが園児たちと歌っていた曲たちなんだろうと思いますが、それにしてはマイナー調の憂いある旋律ばかりなのが時代性たっぷりでおもしろい。
帰り際店主さんにこのレコードについてちょっと聴いてみたところ、レア盤だけどちょくちょく入荷するとのこと。なんでも葛飾区 東新小岩で作られ、地元保育士さんが歌う童謡集というその性質上、近くの家々に眠っている個体が掘り出されることがしばしばあるようです。まさに東京・ルーラル・プライヴェート・フォークとでもいうようなその性質にすっかり魅せられてしまったのでした。
Chris Smither『Don't It Drag On』
Poppy – PYS 5704
1972
ブラックホーク99選で存在を知ってずっと欲しいと思っていたレコード。メルカリでこれ!という出品があったのでハントしました。USのSSW Chris Smitherの2ndアルバムになります。同じく最高な1stアルバム「I'm A Stranger Too!」はストリーミングにもありますが、こちらはなし、再発もレコードでは一度もなく、2002年にCDで一度だけという状況です。
名曲揃いですが、中でもスペシャルなのが、戦前のブルースマンBlind Willie McTellの「Statesboro Blues」のカバー。持って生まれたChris Smitherさんの声質と、本家の滾るような性急なニュアンスを尊重したWillie McTell愛が相まって最高のカバーを生んでいます。
他のオリジナル曲にもけっこうブルージーなものが多く、スワンプとかのカテゴリにも入りそうな作品ですが、海外ではアシッドフォーク作品としての認知が主流らしいです。どう考えてもジャケットの雰囲気と、レーベルの妖しく鮮やかなポピーのイメージに引っ張られているだけに思うのですが…
くるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』
Speedstar Records – VIKL-30018
2021
2021、音質大賞です。ドーナツ盤(しかもなぜか33 rpm)でこんな音が鳴るものがあるんですね。音圧もあれば、アンサンブルの機微も実に鮮やかに表現されていて本当に驚きました。
くるりのレコードはカッティングの神と称される小鐵徹さんが手掛けているというのはなんとなく知っていて(以下記事参照)、近年のアルバム中心に手持ちの数枚をレコードで聴くと確かに素晴らしいサウンドなのですが、このドーナツ盤が知る限り最強だと思います。
今回は待望に応えて再販という形でしたが、再販前にあれだけ高騰していたのってもしやこの音が理由だったりとかしますか?
以上でした。今年もレコードという素晴らしいメディアを通して、素晴らしい音楽・その他アートに出会えることを期待しています。
どうぞお気軽にコメント等くださいね。