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医療と制度③

在宅医療・ケア提供者の安全を確保するためのワーキンググループ(後半)

前回は、「在宅医療・ケア提供者の安全を確保するための合同ワーキンググループ(以下、WG)」が考える在宅医療・ケアの特性とそれに伴う課題について述べた。

前述の在宅医殺害事件直後の2022年2月、一般社団法人全国在宅療養支援医協会は在宅医療を行っている医師に対してアンケート調査を行った。その結果、在宅医療を行う医師のうち、患者本人やその家族の暴力行為により身の危険を感じる経験があったと解答する割合は「毎年ある」が5%、「数年に一度」が12%、「一度はある」が23%にのぼった。すなわち、在宅医療を実践する医師の40%に、身の危険を感じる経験があったということになる(島田潔:緊急報告:在宅医療の安全確保に関する調査報告書. 日本在宅救急医学会誌 2022:6:16-19)。

今回は、WGが趣意書に掲げる4つの活動目標について述べる。

【在宅医療・ケア提供者の安全を確保するための4つの目標】

1.在宅医療・ケア提供者の安全が脅かされることの無い仕組みを作る

例)在宅医療・ケアの現場の実情に即した安全管理マニュアルの作成、社会への啓発活動など

2.在宅医療・ケア提供者と利用者間で関係悪化が生じた際に相談できる仕組みを作る

例)中立的立場にある公的機関が双方の意見を聞き積極的に解決に導く制度の構築、弁護士会が主催する法律相談ができる窓口の新設など

3.在宅医療・ケア提供者の安全が脅かされる事件が発生した際に救助する仕組みを作る

例)警備会社の緊急通報システムの改善・普及、被害を受けた時の保険会社による保険商品の開発、警察や弁護士への介入依頼方法の整備など

4.在宅医療・ケア提供者の安全に関する問題の情報を集めて調査、分析する

例)問題を一般化し、予防策や解決方法を検討し、その結果を共有する仕組みを作るなど

2016年の年間訪問診療件数は60万件であったが、2022年の統計で90万件を超えている。これは予想より早いスピードで在宅医療の需要が増えていることを示す。日本の医療に在宅医療はすでに必須であり、在宅医療の充実がない限り医療レベルの維持はできない。日本の医療を守るために、在宅医療・ケア提供者の安全確保は喫緊の問題である。WGは趣意書作成を終え、具体的な提言作りを開始している。今後、公表していく予定なので様々な意見を頂ければ幸いである。

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