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若い医師への贈る言葉、と私の反省

 私の務める小豆畑病院には、大学病院から定期的に地域医療に興味を持つ若い研修医が勉強に来てくれます。最近は、新型コロナウイルス感染が医療機関に広がることを恐れて、私の病院の地域医療研修は一時中断になっていました。しかし、2021年6月、一年ぶりに地域医療研修を再開することができました。そこに、我が母校の若き研修医が来てくださったので、久しぶりにじっくりと彼と話しました。そこで感じたことがあります。

 彼は非常に医療に前向きで、誠実な性格で、好感が持てる青年です。しかし、彼の言動にはどうしても気になるところがありました。彼が僕に問うてきた質問の一例を挙げてみます。

「何科をやるのがこれから有利なのでしょうか?」
「大学病院で研修するのと、有名研修病院で勉強するのと、どちらがいいですか?」
「大学で研修するとしても、母校(東京の私大)でやるのと、僕の地元の国立大学の病院でやるのとどちらがいいと思いますか?」

先輩医師に対するこれらの質問、皆さんはどう感じられますか?普通じゃないかな?と思われる人が多いのかもしれません。しかし、僕にはどうも違和感が残りました。私はこう、感じていたのです。「彼は将来に対して、殆ど制約のない立場にある。でも、その中で、どんな医師になりたいと思っているのだろう?それが、全然見えてこないな。なんか、どうしたら将来の自分にとって得か、それしか考えていない気がするぞ。」
 そこで、私は彼にこう言いました。

「●●くん、僕はそういうことはあまり大切だとは思わないんだ。大切なのは10年後、20年後の自分がどういう医師になりたいか、ということだと思う。今、君が考えるべきことはそれじゃないかな?それさえ決まれば、進路は、その理想を実現するために最も適切と思える道を選べばいいんだよ。それは、母校であろうと、有名病院であろうと、国立大学であろうと何でもいいのだと思うよ。」

実は、彼の「なにが自分にとって有利か」の思考法、彼だけのものではなくて、私が接する20-30代の若い医師に共通なものだと思います。なにか、未来の自分に夢を抱けなくて、目先の小さな選択肢を「どっちが得か」を判断の基準に選択していく。この選択を続けて40代、50代になっていった医師とはどのような医師になるのだろうか?最近、若い医師に接するたびに感じる不安です。
 そして、さらに強く思うのは、「僕たちが若い頃には、憧れの先輩医師がいたものです。今の若い医師達には、そういった理想モデルがないのかもしれない。それが彼らの思考法を作り上げている原因なのかもしれない。」という危惧です。私達先輩医師が彼らに「あんな医者になりたいなぁ」と憧らるるような存在にならなくてはいけないということを、強く考えさせられ、自分たちの力不足に悔いる数日間となりました。

(注)写真は、研修最終日にみんなでお別れ会をしたときに撮影しました。

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