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在宅医療の真実 書評②

二木 立 先生

医療経済学者 

○小豆畑丈夫『在宅医療の真実』光文社新書,2021年5月。
…著者は救急医出身の医師。故郷の茨城県那珂市で、実父の後を継いで地域密着型の小規模病院を中核とする「保健・医療・福祉複合体」を経営する傍ら、日本在宅救急医学会の設立に尽力。その経験・実績を踏まえて、「在宅医療に関わる救急医の立場から見た『もう一つの在宅医療』について、その問題点・改善策などを」を系統的・包括的に論じる。「在宅医療=在宅での看取り」、「在宅医療は在宅医療だけで完結する」との俗説を、実体験・事例とデータに基づいて否定し、「生きる」を支える医療が在宅医療だと主張。さらに、「在宅医療の落とし穴は『急変時の対応』」であるとして、那珂市での「在宅医療と救急医療の連携」の実践・実績を示す。類書ではほとんど取り上げられない、障害当事者が運動で勝ち取った「重度訪問看護」の意義を熱く語る。一般読者向けの本だが、在宅医療・ケアに関わる医療・福祉関係者、特に医療ソーシャルワーカーの必読書とも言える。

小山秀夫 先生

医療経済学者

救急医:小豆畑丈夫先生 著「在宅医療の真実」。
 かれこれ4年前「水戸までワイン飲みにこない」との照沼秀也先生からのお誘いに一目散にフレンチ「オオツ」にしっぽを振って向かいました。その時、お目もじしたのが小豆畑丈夫先生です。
日大板橋病院ERで大活躍後、小豆畑病院院長として地元に戻ってきたとのことで、救急と在宅療養支援病院として「治る患者さんをしっかり治す質の高い地域医療をしたい」とおっしゃいました。聴けば病床数90床の病院んで友人や先輩後輩に来てもらいこれから診療内容を充実していきたいという姿勢が、とてもフレッシュで時代のリーダーになる人だなという印象でした。
病院の時代から在宅医療が主体になるのではないかという信念から民間病院の経営をやめ在宅医療を茨城県内に普及させてきた照沼先生は、現在は茨城県の日立市から水戸市、茨城町、笠間市に至る人口100万人の地域を5つの診療所でカバーし、訪問看護や訪問リハビリテーションなどの関連事業を展開中です。25年前の開設当初より在宅患者さんの栄養ケアには大きな関心を示し管理栄養士の訪問栄養の草分け的存在でもあります。
地域医療は在宅医療が中心という考え方をお持ちの照沼先生が「小豆畑先生が大きくなるのを支援したい」といい、小豆畑先生は「本当の地域医療は救急医療と在宅医療がしっかりつながっていることが大切だ」と話し始めるので、何が起きているのか一瞬驚きました。
悪気があるわけではないでしょうが業界の隠語で「在宅オタク」といういい方があります。「ろくでもない病院が多く、在宅でその人らしい最期を迎える在宅医療が最高」なんてことを吹聴する傾向のある医師のことをいうらしいのです。
「在宅総合診療料」という包括支払方式を検討するための基礎資料作成のために、わたしは30年前に日本の在宅医療の草分けのような比較的高齢の医師達にインタビュー調査したことがあります。当然「在宅死」を選択されるのだろうと思われていた高名な先生自身が病院で幕を閉じたということもありました。
急性期から回復期そして慢性期に移行する際、それぞれで診療にあたる医師間でのコミュニケーションが大切です。当然、病院と診療所間の連携は比較的取れていることが多くなりました。ただ、救急車で運び込まれることが多い高齢救急患者の治療にあたる救急医と、その直前まで診療を担当していた在宅医間の直接的情報交換は全国的にみるとスムーズではないという指摘もなされてきました。しかし、救急医と在宅医が直接連携することが患者さんのためになるのだという明確なメッセージは、本当にありがたいことです。
楽しいデイナーからの1年間、小豆畑・照沼コンビは大活躍されます。まず「日本在宅救急研究会」を組織され、それを「一般社団法人日本在宅救急医学会」へと前進させます。これがニッチというかニューウエイブになり、今では「なーんだ皆様同じこと感じていたんだ」という流れを創りだしたのだと思います。
本書は、アジリティーとリアリティーが結合した救急医療と在宅医療の連携が重要だというワン・イシューを丁寧に解説した「在宅医療の真実」です。
7章構成で1章は在宅医療「よりよく生きるための手段」、2章は初めてでもうまくいく在宅医療の受け方、3章「家族の負担をなるべく軽く」、4章「さまざまな介護施設・高齢者施設」、5章は生きる意味を問いかける「重度訪問介護」、6章が在宅医療の落とし穴は「急変時の対応」、そして7章「在宅医療と救急医療の連携は以下に可能か」です。
何が必要でどうすればよいのかを期待のホープが考えた本です。


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