「なんか創りなよ」
創った方がいいらしい。
創作活動というものから遠ざかって久しい。
学生時代に音楽や文章などそれなりに創ってきた私は、会社員になってから4年が経とうとした今、さっぱりモノを作らなくなった。
M1を積んだMacBook Airは部屋の隅で一晩経ったカイロのように冷えており、当然充電もゼロ%である。
まだローンも残っているのに。
今6%になりました。
会社。居心地がいい。
それなりに仕事もできるようになってきて、責任も増した。
周りの人も優しいし、慕ってくれる後輩もできた。
一日8時間は価値のある人間であるように思える。
飲み屋。居心地がいい。
流行りのアレが襲ってきて、東京から逃げ出した私が、この街で生きながらえたのは、明確に行きつけのバーのおかげだ。
沢山のご縁に恵まれて、パートナーもできた。
幸せになると、枯れる。
創作は、呪力でやるもんだと教わった。
憧れではじめて、殺意で続ける。
今は殺意が足りない。見るに堪えない煌めきがない。
あの時の私はどうだ。
俺は誰よりもすごい。俺がこの世界を変える。俺がアイツらの目を白黒させる。
怨念じみた音楽は、巧拙を超えて轟いていただろう。
削った命で虚栄心を膨らませ、大暴れしていただろう。
小さなスパークから巨大な妄想を繰り広げ、「これはヤバい」と意気揚々に創り上げてきた。
それが今はどうだ。
ドラム式洗濯機と積立NISAとふるさと納税のことしか考えていないじゃないか。
幸せだ。確かに幸せだ。
鬱屈とした2年半を乗り越えて、掴み取った幸せだ。
1人で朝まで飲み、洗面所で横たわりながら音楽を爆音で聞き、涙を流していたあの日の自分に教えてやりたい。
大丈夫だ。幸せは待っている。今に見ていろ。無い頭ひねって、見えないほど小さな勇気を振り絞って、必死に生きていたお前は間違いじゃない。
衝動は、ある。
創りたい。創りたいんだよ。
でも、それを育てきる前に、幸せに抱擁される。
今は殺意が足りない。けたたましい雄叫びは、もう出ない。
ただ、私は私を否定しない。
幸せなら幸せなりに創っていくしかないじゃないか。
私は私を捨てない。
今あるものを、全部持って旅に出る。
決めた。
この記事を書き始めたときの自分に、一泡吹かせよう。
幸せになると、枯れる。だ?
生言ってんじゃないよ。
お前が無理だと言ったこと、一瞬でも言い訳したこと、端から端まで赤ペンでバッテンつけてやる。
見てみな。エッセイが書けたぜ。
及第点、○ってところかな。
創った方がいいらしい。
そう言ってくれた貴方へ、決意表明しよう。
充電は46%になっていた。
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