アイドル

このまま死ぬのも悪くないな、と本当に思った。胸が痛くて原因がわからなくて丸くなってた。

窓の外は眩しいくらい明るくて、光の奥から生えていた木は手を無数に伸ばしている。作られた喜びの中で循環している彼に私は何の印象を持つことなかった。カーテンがゆれて、意識がぼやけて目を瞑る。

胸の中で一体何が起きているのか、暗闇の中で無数の細胞と記憶が世界のルールにそって働き続けている。私の意思は儚く、その儚さを受容できずに深い印象をつけてきたが、浅い印象はたまに飲むお酒のようで心地よい生活の塩梅であることを知った。

この部屋にはエアコンがない。電気毛布を敷いて上に寝ている。タオルケットを1枚被っているだけでは、流石にこの冬は耐え難い。私はおしっこを漏らした。我慢できなかったからではなく、寒かったからである。おしっこは予想通り暖かく、腰を中心に私を癒した。

仰向けになると部屋の中にいても空を感じられた。窓の外から青い空が見えている訳ではなく、この天井の向こうに空があるのだとホログラムのようなもやと共に痛感した。えへへへへへへへ。空を感じられた途端、私は笑っている。笑いながら、なぜ笑っているのかわからなかった。遠くかそばかわからない距離のうちでカラスが泣いたのを、舌で溶かした。口からとろりと頬を叩い出たよだれは、いつもよりもほんの少しポジティブな人間のもののように感じた。

布団から出るのは狂おしい。熊が冬眠から覚める動画を見たけど、あんなに嫌がる、とかを感じさせずに雪の中から這い上がるって機械だな、と思ったら、胸が痛くなった。自然だな、と言い換えるとまたよだれが出て笑みが溢れた。

自然と、布団から出ていた。立ち上がり、冷たさを口に含んで離さないフローリングをぺたぺたと音を立てて歩いた。朝の潔さを思わせる風がカーテンを揺らしながら入ってきたのを背中で感じた。背骨と肩甲骨の間で滞り、植物の小さな魂がそこで暮らしているのを感じた。

何も振り返る動機のない瞬間を見計らって振り返ると、ベッドがおしっこで濡れているのを見つけた。シーツが真っ黄色になっていた。ビタミン野菜が入っていたペットボトルがフローリングに落ちていて、私はこれを私の体を経由させてここに出したのだ、と思った。シーツを洗濯機に入れた。

窓を見ていると、朝が永遠に続いてしまいそうな気がした。つまり私は既に人生を全クリしていた。全クリしていて、こうして呼吸をしている。論理的ではない対立を目頭で感じた。だから、滑り台を滑っている子供を住宅街に描いて、目の中で飼うことにした。

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