個別対応方式における用途区分 ~エー・ディー・ワークス事件最高裁判決を素材として~
本記事のポイント
① 個別対応方式は、消費税の制度理念に最も合致した仕入税額控除の方法である。
② しかし、通達が、消費税法が予定してない処理を認めている。(が、これを許容する理論的根拠は不明。)
③ エー・ディー・ワークス事件最高裁判決によっても、用途区分の判断基準はなお不明確である。(現時点では、主観を問わず、客観的な事情のみから判断するしかないと思われる。)
仕入税額控除
仕入税額控除とは、「課税取引を行なって受け取った対価に含まれる消費税相当額から、仕入れに係る税額を控除する仕組み」である(佐藤英明・西山由美『スタンダード消費税法』(弘文堂、2021)106頁)。
そして、非課税取引を行なった場合には、消費税相当額を受け取っていないため、税額控除の余地はない。
ただ、一定の課税期間において課税取引と非課税取引の両方を行った場合には、仕入れの中から課税取引に対応するものを抜き出して、控除の対象としなければならない(前掲佐藤・西山106頁)。
個別対応方式(非課税対応は控除不可)
消費税法30条1項と2項の関係
消費税法30条1項では、仕入れに係る税額を全額控除できることを規定している。
ただし、同条2項では、一定の場合には、別の計算方法によって控除額を計算することが求められている。
その「一定の場合」とは、
①課税期間における課税売上高が5億円を超えるとき、又は
②課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないとき
である。
これに該当する場合は、いわゆる「個別対応方式」か、「一括比例配分方式」により計算することとされている。
(逆から言えば、①課税売上高が5億円以下、または、②課税売上割合が95%以上のときは、30条1項の適用が可能となる。)
課税売上割合
課税売上割合は、以下の計算によって算出される。
上記の計算方法からすると、非課税取引の対価の額が増えれば増えるほど、課税売上割合が小さくなるということになる。
用途区分
個別対応方式では、課税仕入れを以下に区分することが求められている(法30条2項1号)。
①「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」
②「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの」
③「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等(=②)に共通して要するもの」
これを実務的には、
①課税対応課税仕入れ
②非課税対応課税仕入れ
③共通対応課税仕入れ
などと呼ぶことがある。
そして、具体的に、控除できる仕入税額は、
という計算式で算出される。
すなわち、課税資産の譲渡等にのみ要するものは全額控除し、課税取引・非課税取引に共通して要するものをその比率で按分して、課税取引に対応する部分のみを控除するということである。
なお、この個別対応方式では、課税仕入れ等のうち非課税売上げに対応するものは、仕入税額控除を認めないこととされていることから、「個別対応方式が消費税の制度の理念に最も合致しており、仕入控除税額の計算方法として基本的な方法である」とも言われている(山中英司「個別対応方式の具体的計算方法等の在り方について」税大論叢382頁)。
実務:不課税対応の課税仕入れも控除できる
本来は不課税対応の課税仕入れは控除してはならないはず
上述のように、個別対応方式では、
①課税対応課税仕入れ → 全額控除可
②非課税対応課税仕入れ → 全額控除不可
③共通対応課税仕入れ → 比率按分で控除可
となる。
これを図で表すと次のようになる。
しかしながら、よくよく考えると、課税仕入れというものは、上記3区分しか存在し得ないわけではない。当然、不課税取引(課税対象外となる売上)[※1]に要する課税仕入れも存在しうる。
つまり、課税仕入れの種類を図示すると次のようになるはずである。
しかし、上述のとおり、消費税法における個別対応方式では、①課税(のみ)対応、②非課税(のみ)対応、③共通対応、という3種類しか規定されていない。これはどういうことだろうか。
いわば「不課税対応」となる課税仕入れの取扱いはどうなるのか?
(より正確には、図のように、上記3種類のほか、④不課税のみ対応、⑤課税・不課税共通対応、⑥非課税・不課税共通対応、⑦課税・非課税・不課税共通対応という種類が観念できる。)
消費税法の仕組みからすると、不課税取引に要する課税仕入れは仕入税額控除をすべきない(してはならない)はずである。
しかし、実務では、以下のような通達により、不課税取引対応の課税仕入れが、上記3区分のうちの「共通対応」課税仕入れとして取り扱われている。
消費税法基本通達11-2-16:不課税取引のために要する課税仕入れの取扱い
さらには、以下のような質疑応答事例がある。
このような通達の規定は、消費税法30条2項の規定ぶりと整合していないというほかない。
通達は、これにとどまらず、個別対応方式においては、課税仕入れは、必ず上記3区分のどれかに区分しなければならないとまで明言している。
しかし、消費税法の規定をそのように解釈する根拠は不明である[※2]。
研究者等の見解(参考)
参考までに、この点に関する研究者の見解(または文献における記載)を紹介しておく。
なお、私見では、最判平成22年3月2日(民集第64巻2号420頁)が言うように、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないため、条文の文言から離れる処理を安易に許容すべきではないと考える。
(納税者に不利な解釈でなければ許容される、という論にも賛同できない。)
エー・ディー・ワークス事件
事案の概要
原告は、不動産の売買及び仲介業務等を目的とする株式会社(株式会社エー・ディー・ワークス)である。
原告は、平成27年3月期から平成29年3月期までの各課税期間において、マンション84棟(その一部又は全部が住宅として賃貸中)を購入した。
この購入(本件各課税仕入れ)について、本件各課税期間に係る消費税等の確定申告において、同法30条2項1号にいう課税対応課税仕入れに区分されるとして、消費税額の全額を当該課税期間に係る課税標準額に対する消費税額から控除して申告した。
麹町税務署長は、本件課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分すべきものであり、その消費税額の一部しか控除することができないとして、更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
本件は、その更正処分のうち申告額を超える部分・本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。
争点
本件の争点の一つが、本件各課税仕入れの用途区分である。すなわち、上記マンションの購入という課税仕入れが、「課税対応」と「共通対応」のいずれに該当するか、である。
判決要旨
消費税法は、所定の場合において当該課税期間中に行った課税仕入れにつき用途区分が明らかにされていないときは、課税仕入れに係る消費税額に、課税売上割合、すなわち、課税期間中の所定の売上げの総額に占める課税資産の譲渡等に係る売上げの割合を乗じて計算する方法により控除対象仕入税額を計算するものとし(同条2項2号)、また、帳簿及び請求書等の保存がない場合には原則として当該課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないものとする(同条7項)など、課税の明確性の確保や適正な徴税の実現といった他の目的との調和を図るため、税負担の累積が生じても課税仕入れに係る消費税額の全部又は一部が控除されない場合があることを予定している。
個別対応方式において、税負担の累積が生ずる課税資産の譲渡等と累積が生じないその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れにつき一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の確保の観点から一般に合理的といえる。
課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されていると解される。
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきである。
課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。
前記事実関係等によれば、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。
よって、本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置付けや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するというべきである。
判示内容の特徴
①「事業に関する事情を問わない」としていること
まず、本件最高裁判決の判示の特徴としてあげられるのが、課税取引と非課税取引の双方に対応する課税仕入れについて、「当該事業に関する事情等を問うことなく」共通対応課税仕入れに該当すると解している点である。
この部分をどのように読むべきかについては議論があり得るものの、ここであえて「事情を問うことなく」という文言を入れたということは、用途区分については、事業者の主観的な意図(目的)や事情を内情を探索するのではなく、客観的な状況のみから判断すべきという趣旨だろうか。
あてはめにおいても、購入時から住宅として賃貸されていたこと、転売までの間に賃料を収受していたことから、住宅の賃貸にも「対応している」と簡単に結論づけているし、「事業における位置付けや上告人の意図等にかかわらず」という部分からは、やはり用途区分の判断においては、主観的事情は関係ないという意味なのだろうか。
②「にのみ要する」を「に対応する」と言い換えていること
本件最高裁判決は、課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等と課税仕入れの関係性を示す消費税法30条1項の文言である「に要する」という部分を、「に対応する」と言い換えている。
しかし、「要する」を「対応する」と言い換えたところで、「対応する」の意味内容は不明であるから、用途区分の基準が明確になったわけではない。
この点は、今後、「対応」関係が否定されるケースが出てこないと、その意味内容ははっきりしない。
用途区分の判断(現時点)
上記最高裁判決の判示は抽象的であり、用途区分の判断基準は未だ不明確と言わざるを得ない。
もっとも、判示内容からすると、事業者の意図等ではなく、客観的な事実関係から用途区分を行わざるを得ないことになる。
より具体的には、課税のみ対応と区分するには、非課税取引には全く関連しない(要しない)ということが積極的に説明(証明)できるような客観的事情が必要だということになる。
(本件のケースでは、マンション購入時に賃貸人がおり、賃料を得られる状態であれば、それがいかに少額であっても客観的には非課税取引にも要していることが現実なのだから、共通対応に区分するほかないということになる。)
余談
本件は、第一審(東京地判令和2年9月3日)で納税者が勝訴したが、控訴審 (東京高判令和3年7月29日)で納税者が逆転敗訴という流れをたどっている。
そして、同時期に同じ争点が争われたムゲンエステート事件との比較において話題になっていた事案である。
(ムゲンエステート事件は、第一審・控訴審ともに納税者敗訴。東京地判R1.10.11、東京高判R3.4.21)
さらに、エー・ディー・ワークスからの上告を受けて、最高裁が弁論を開くとなったので、控訴審判決が覆るのでは、という報道が多かったように思う[※3]。
本件で納税者勝訴とした第一審判決は、用途区分は経済的実態から判断すべきとして、原告の個別事情を詳細に取り上げていたが、消費税法の文言からすると、そのような個別事情を考慮すべき根拠は見出しがたい。
その意味では、控訴審判決(課税売上が生じる取引が客観的に見込まれているかどうかで判断)の方が消費税法の文言に忠実な規範を定立していたと考える。
最高裁が弁論を開いたため、(結論は別として)最高裁がかなり踏み込んだ法解釈を示すのかと個人的に期待していたが、本件最高裁判決を読む限り、用途区分の判断基準の明確性という意味では、控訴審判決よりも後退してしまったという印象を拭えない。
わざわざ最高裁が判決を書いたにしては、なんとも中途半端な内容で、肩透かしを食らった感覚である。
(弁護士 真鍋亮平)