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マンション財産評価(相続税)に関する最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決の簡単な「まとめ」

文責 @Taxlaw_study
令和4年4月19日作成
令和4年4月24日加筆及び一部訂正

【概要】

1)相続税法22条の時価=財産の客観的な交換価値
2)鑑定評価額=客観的交換価値ならば、鑑定評価額>通達評価額は適法
3)鑑定評価額=客観的交換価値かの判断は、原審の事実認定に依拠
4)租税法適用では同様の状況にある者は同様に取り扱われる(平等原則)
5)評価通達=相続財産の価額の評価の一般的な方法
  → 課税庁が評価通達に従い画一的評価を行うのは「公知の事実」
6)原則:客観的交換価値≧課税処分価額>評価通達価額
     の課税処分は合理的な理由がない限り平等原則に反して違法
7)例外:画一的評価が実質的租税負担公平に反す事情がある場合は
     合理的な理由があると認められる
8)評価評価額と鑑定評価額とに大きなかい乖離があるだけでは
  例外(=実質的租税負担公平に反す事情がある場合)とはならない
9)①一定の行為により租税負担が著しく軽減したこと
  ②被相続人らがその行為が租税負担を減じることを知り、かつ、これを
   期待し企画・実行したこと(=租税負担の軽減を意図した行為)
  の2基準を例外(=実質的租税負担公平に反す事情がある場合)とした

【租税法律主義】

 まず、最高裁は、相続税法22条の「時価とは当該財産の客観的な交換価値」とし、通達は「法的効力を有〔しない〕」として、鑑定評価額が「客観的な交換価値としての時価であると認められる」ならば、これが「通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反」しないとする。この判断は、通達はあくまでも行政命令であって法令ではないから法的効力をもたず、法令が要求する客観的交換価値と認定される鑑定評価額が通達評価額を上回っても違法とはならないとするものである。これは、租税法律主義の観点で当然の帰結と評価できると考えられる。

 なお、最高裁は「本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから」と説示していることから本件各鑑定評価額が客観的交換価値に該当するかは判断していないものと考えられる。これは、最高裁が事実審でなく法律審であるから当然のことであるが、実務界ではこの点についての誤解もあるように思われるから付言しておく。つまり、鑑定評価額が客観的交換価値に該当するかどうかは、下級審における事実認定が基礎となるということになる。

【平等原則】

 次に、最高裁は「平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求」とする。これは、行政執行上の平等を捉えたものと考えられる。

 さらに、最高裁は「評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実」とする。財産評価基本通達について、課税庁が画一的な評価をすることを「公知の事実」と最高裁が捉えたことは、画期的なことと思われる。これにより、財産評価基本通達による評価を上回る評価額で課税庁が課税処分を行うことは原則として認められないことを最高裁が確認する布石となるからである。すなわち、最高裁は「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の…価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法」と判断しているのである。

 ただし、最高裁は例外的な場合があること言及する。すなわち、「もっとも…評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当」とする。つまり、評価通達による評価が「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」は、通達評価を上回る価額によっても平等原則に違反しない例外に言及するのである。しかし、ここの説示では、最高裁は「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の判断基準に言及していない。例外的な場合の判断には、次のあてはめの説示の理解が必要となる。

【あてはめ】


 最高裁は、あてはめにおいて、まず「通達評価額と…各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」とする。この判断も画期的なものと思われる。つまり、通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があるだけでは、例外的な場合には該当しないと最高裁が言及しているからである。

 評価額のかい離よりも最高裁は、被相続人及び相続人の①一定の行為による税負担の軽減及び②その行為の意図に着目していると考えられる。

 すなわち、最高裁は「もっとも、本件購入・借入れが行われなければ…課税価格の合計額は6億円を超える…にもかかわらず、これが行われたことにより、…相続税の総額が0円になるというのであるから、…相続税の負担は著しく軽減されることになるというべき」と、被相続人又は相続人の一定の「行為」の存在とそれによる税負担の軽減を例外的な判断の基準の一つ目と捉えているようである。

 さらに、最高裁は、「そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。」と、被相続人及び相続人が租税負担の軽減の意図に基づく行為を二つ目の基準と捉えているようである。つまり、最高裁は、①一定の行為によって租税負担が著しく軽減している事実、並びに、②被相続人及び相続人がその行為が租税負担を減じることを知り、かつ、これを期待して企画・実行したこと(=租税負担の軽減を意図した行為)との2つの基準を例外的な事情がある場合の判断基準としているものと解される。

 以上の2つの基準を指摘して最高裁は「そうすると、…評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。」とするのである。

【まとめ】

 租税法律主義の観点からは、相続税法22条の時価は客観的交換価値であり、鑑定評価額が通達評価額を上回っていようとこれが違法になることはないとする。なお、最高裁は鑑定評価額が客観的交換価値に該当するかは判断しておらず、その該当性はもっぱら原審の事実認定に依拠してると評価できよう。これは、最高裁が法律審であるから当然ともいえる。

 平等原則の観点からは、財産評価基本通達による画一的な評価を「公知の事実」として、租税法の適用に関して「同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求」するのが平等原則であり、「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の…価額を上回る価額によるものとすることは…合理的な理由がない限り…平等原則に違反するものとして違法」と原則論に言及する。ただし、「画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる」と例外的な場合があることを指摘する。

 最高裁がその規範として例外的な場合の基準を示したものとは捉えにくいが、あてはめにおいて、まず、評価額のかい離があるだけでは例外的な場合に該当しない点を指摘することは画期的と評価できると思われる。つまり、評価額のかい離のみでは「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には該当しないと、最高裁の立場を明らかにしたと考えられるからである。
 その上で、本件事案において最高裁は、①一定の行為によって租税負担が著しく軽減している事実、並びに、②被相続人及び相続人がその行為が租税負担を減じることを知り、かつ、これを期待して企画・実行したこと(=租税負担の軽減を意図した行為)との2つの基準を例外的な事情がある場合の判断基準として、本件は、実質的な租税負担の公平に反するとの結論を導き、課税処分は適法であるとして上告を棄却している。
 最高裁があてはめで示した判断基準が他の財産評価に関する事例にも適用できるかという射程の問題については、今後公表されるであろう調査官解説や学者の評釈をもとに考察を行なっていきたい。


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