_タクシードライバーは見た__60歳を越えたタクシー運転手の幸せな働き方_のコピー__46_

#タクシードライバーは見た「あなたは何者?」

ーー何モンだアイツ!
この仕事をしているとそう心の中でさ囁くことが少なくない。
後ろから聞こえてくる電話の内容が怪しい時やを服装が奇抜な場合はそれにあたる。
しかしそれ以外にもオモシロ半分で心のそこからそう言いたくなる時がある。

深夜2時を回った頃、中野駅の北口で停まっていると一人の男性が僕のタクシーへと近付いてきた。
慎重は170センチに届かないほどで、ジーパンにスウェット記事のパーカー、その上にライダース系のジャケットを羽織っている。
眼鏡をかけ、髪がボサボサのその男は目は虚ろになり
一度死んだのではないか?と思う表情をしていた。
死んだというのは、お酒に酔って潰れたという意味である。

その男が、停まっている僕の元へ来て手を上げるとその手が少し気になった。
小指が一番に立ち、そこから薬指、中指と順に閉じている。
手で小銭のマークを作る時のようなあの指の流れだ。
一度死んだお客様という、タクシー運転手ならでは感覚に不安はあったが、少し面白さも感じてもいた。

そのお客様がタクシーに乗ろうとすると、目の前の横断歩道を挟んだ反対側から笑いながら歩いてくる4人のサラリーマンがいた。
男はその人たちに向かって何かを言っている。
何を言っているかは聞き取れなかったが、普通でないことは見て取れる。

そのお客様をお乗せし目的地である新宿に向かうことになった。
道中、鼻に違和感を感じる。
あの酒に飲んで死んだ人から頂く引出物のような臭い。
既に引出物はどこかに配ってきたようだが、表情に生気はない。
ときたま、後ろから「うぅ」と聞こえるがその度に「モッテくれー!」と心の中で叫ぶ。
深夜で道は空いているのに、時間が長い。
信号もいつもより長く感じ、誰かの所業なのではないかと疑ってしまう。

目的地には幸い無事に到着した。
相変わらず表情は生気がなく、今にも引出物をくれそうだが
お会計をサッと済まして降りてもらった。
無事に送り終え安心していると、離れていく男は背中を向けながら右手を上げている。
その手は小指が立ち、そこから順に閉じていた。

去り際のありがとうの合図なのかもしれない。
しかし僕は、今の時代、しかも他人のタクシー運転手にそうする彼を見ながら笑みをこぼし、こう口にした。

ーー何モンだアイツ!笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?