Valuation - 類似企業の選定

インカム・アプローチのDCFから記載したかったが、膨大な量になりそうなので、マーケット・アプローチを採用する場合に必要な類似企業の選定についてまとめたいと思う。

類似企業(類似上場企業)を厳密に網羅的・正確的に選定するのは非常に時間と手間がかかり、一般の個人投資家からすれば、厳密に行うことによって有用性・有効性が上がるとも限らないし、類似性が強い2~3社あれば十分だとも私は考える。また、実際にValuationを行う機関も、網羅性については厳密に確認しているところはないと考える。恐らく理由は、①網羅性に多少問題があっても、正確性が担保(類似性が強い)されていれば、価値にそこまで影響を与えない。②限られた時間(報酬)の中で、網羅的に企業を洗い出すことは不可能。③インカム・アプローチとのクロスチェックを行うので、類似企業比較法は参考値として使用されることが多い。以上3つが主な理由だと推測している。
また、私はインカム・アプローチであれ、マーケット・アプローチであれ、多少のロジックの弱さや、網羅性がなくても、一貫性が保たれていれば、評価に影響が大きくなければ問題ないと考える。実際に厳密な方法より、便宜的な手法を使用している箇所はいくつもあるためだ。そこは目をつぶり、良いとこどりする人が多いが、その方が論理的でないと思う。また、厳密な方法を取る場合、コストも考えるべきであり、必ずしも一個一個の項目を掘り下げて評価することが、企業価値の見積もりの精度を上げるとも考えていない(実際に一つの価値として定義できるものではないと考える)。

実例として、今だに私が覚えているのは、ソフトバンクによる英ARM社の買収の案件だ。未だに覚えているのが、英ARM社の買収により、市場は割高という意見もあり、市場の反感を買い、ソフトバンクの株価は急落した。今もそれに関する世間の認識は下記より確認できる。しかし、今になってはその価値は十分上回っており、それより高い金額を払ってまで買収したいと思うところも存在する(もちろん買収価格より下がった企業も多いが)。

英ARM買収のソフトバンク、株価急落の3つの理由 – MONEY PLUS (moneyforward.com)

余談が長くなったが、実際の類似会社を選定するプロセスは下記のとおりである。
①対象会社が言及している競争相手を検討

(pepsicoの10Kから。ただし、直接社名を言及していない会社も多い)

②ビジネスモデルや技術等が似ている会社
例えば、スターバックス&ドトール、音楽サブスクリプション会社&動画サブスクリプション会社(音楽サブスクリプションの上場会社が少ない場合、商品やサービスを広げて探すことになる)

③産業及び業種情報を利用
アメリカの場合:
Standard Industrial Classfication (アメリカの標準産業分類)
North American Industry Classification System (北米産業分類)
Global Industry Classification Standard (MSCIとS&Pの国際産業分類標準)
日本の場合:
東京証券取引所の分類コード
gyousyu.pdf (jpx.co.jp)
その他統計資料 | 日本取引所グループ (jpx.co.jp)
ただし、この方法は非常に時間がかかる。その企業の属する産業コードには数百社~数千社あるため、いちいち企業の特徴を把握するのは相当な手間がかかる。

④上記①~③の中から、財務数値(収益性、資本構成等)が類似している企業をさらに洗い出す。

以上①~④からの手続きは、類似企業の網羅性、正確性を検討する際には有効ではあるが、限られた報酬や時間、また、個人投資家としても無理がある方法だと考える。
そこでよく、SpeedaやCapital IQといったデータベースを使用することがあるが、これだけに依存するのは網羅性・正確性に問題があることが多く、留意が必要である。
個人的に、
アメリカの企業の場合は、
①対象会社が言及している競争相手を参考
②アナリストレポートを参考できる場合は、アナリストがどこを競争相手と言及しているのか参考
③SpeedaやCapital IQで選定基準を決めて確認
④インターネットリサーチ
⑤財務数値の分析(対象会社の主要な財務数値)

日本企業の場合は、
上記5つに加えて
⑥業界地図で同じ業界のプレイヤー確認
⑦業種別審査辞典で業界の理解(あれば)
で十分だと考える。
また、個人投資家に関しては、上記みたいに厳密でなくても自分が思う競争相手何社で十分んだと考える。

ただ、上記だけでもかなり膨大な量なので、上記の③SpeedaやCapital IQのみで済ませるのも少なくないので、あくまで参考程度で記載しておきたい。
また、産業分類コードなどは、フィンテークのような新しい産業は反映できないわけで、フィンテークETFの構成項目を参考(半導体だとSOXL等)するのも有用だと考える。

また、類似企業を選定するうえで、類似性があんまりない企業しかないため、類似性の強弱を調整しながら選定した方がよい場面もある。その時は、下記に分類して選定するのも有効だと考える。1が見当たらないので、2を選定した格好である。

前提1と2で財務数値(収益性、資本構成)が類似している企業を選定
1,ビジネスモデル及び扱う商品・サービスが類似している
2,ビジネスモデルが類似している、または、扱う商品・サービスが類似している

もちろん、類似企業を選定する際には、ビジネス地域、顧客層、上場先の国、株式の流動性等、考慮すべき要素は多いが、主な点のみ羅列しておきたい。


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